次に研究チームが着目したのが、コモノートが持っていたNDKの耐熱性である。祖先配列の推定には「無根系統樹」を用いていたのでコモノートのNDK配列を直接推定することはできなかった。そこで古細菌祖先NDKと真正細菌祖先NDKのアミノ酸配列を比較し、全139アミノ酸残基部位の内、115部位は共通のアミノ酸種であることが確認されたのである。

ちなみに、なぜ無根系統樹を用いると直接推定することができないのかというと、無根系統樹が系統樹の内根を持たからだ。系統樹は現存する生物の遺伝子情報から作製するので、本来、原生の生物間の類縁性しか知ることができない。これらに何らかの情報を加えて、祖先が分岐した位置を示したのが「根」と呼ばれる。根の位置は共通祖先の位置に相当するので、無根系統樹は進化の出発点を示していないことになるというわけだ。

共通のアミノ酸種である115部位に関しては、コモノートのNDK配列も同じアミノ酸種を持っていたと予想でき、残りの24部位に関しても、コモノートのNDKは古細菌祖先か真正細菌祖先かどちらかのタイプのアミノ酸を持っていたと予想できるという。この考えに従うと、コモノートのアミノ酸配列として約1.3×108配列があり得ることになる。

そこで、研究チームは約1.3×108配列の中から最も耐熱性を低下させる配列を探すことにした。復元した祖先型NDKの中で最も耐熱性の低かった「Bac4」の24部位に、ほかの祖先型配列で見られるアミノ酸を1つずつ導入した29変異体を作製し、変性温度が調べられた(画像6)。さらに、変性温度を低下させたアミノ酸置換を同時にすべて導入した「Bac4mut4-N」も作製。また、単独では耐熱性を向上させる、あるいは、耐熱性に影響しないアミノ酸置換も、別のアミノ酸置換と同時に導入すると変性温度を低下させる可能性があるという。

そこで、Bac4に導入した29アミノ酸置換の内比較的近距離にある複数のアミノ酸置換を同時にBac4mut4-Nに導入し、アミノ酸置換を組み合わせた場合の変性温度に与える影響が調べられた(画像7)。そして、変性温度を低下させたアミノ酸置換の組み合わせを同時にBac4mut4-Nに導入し、「Bac4mut7」が作製されたのである。

Bac4mut7は、コモノートのNDKのあり得るアミノ酸配列の中で最も変性温度が低い配列であると考えられ、且つ、Bac4mut7の変性温度は94℃であったことから、コモノートは75℃以上で生育していた「高度好熱菌」(好熱菌の内、50〜80℃で生育するもののこと)、または「超好熱菌」(同じく80℃以上で生育するもののこと)であったと推定された(画像8)。

コモノートについては、ゲノムの種類、生体膜を構成する極性脂質の光学活性、生育温度など、多くのことに関してはっきりとした答えは出ていないが、研究チームは今回の研究の手法を用いてその遺伝子の多くを復元することにより、生育温度以外の性質についても、明らかにできると考えられるという。近い将来、コモノートの多数の遺伝子が復元され、その遺伝子から合成されるタンパク質の性質が次々と明らかになってくれば、コモノートがどのような生物であったかが次第に判明し、生命の起源の解明に向けた有力な手がかりが得られると期待されるとしている。



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