このブログを読んで下さっている方であれば、トレント・ウィリアムス(Trent Williams)の名前はご存知なのではないかと思う。

 そう、テキサス・レンジャーズの本拠地、Rangers Ballpark in Arlingtonにてセンター後方にある芝の丘、通称「グリーン・ヒル」にいつも忍者の如く現れ、敵味方関係なくその丘へと弾き飛ばされたホームランを華麗にキャッチしてはスタンドとTVの前のファンを湧かせる、あのトレント・ウィリアムスだ。



Rangers fan grabs another homer 04/10/12


 ご存知ない方もいるかと思うので、一応僕から簡単に紹介させていただきたい。

 メジャーリーグには、言わずもがな多くの個性豊かな選手がいるが、それはファンも然り。アメリカには各都市、各ボールパーク毎に必ず「名物ファン」がひとりやふたりいて、彼等彼女等は選手達にはもちろん、周囲のファンやメディア関係者たちにまで顔と名前を覚えられていたりする。世界一ベースボール熱がアツいボストンでは、半世紀に渡って全試合同じ席に通い続けた伝説のおばあちゃんがいるとかいないとか。

 そんな中、テキサス・レンジャーズの本拠地アーリントンだけでなく、全米で今最もホットなファンのひとりが、このトレント・ウィリアムスである。先述の通り、このボールパークではセンター後方に芝の丘があり、このエリアに飛んできたホームランをファンは飛び出してきてキャッチすることができる。そして、いつもこの丘のすぐ右の席に陣取り他の誰よりも鮮やかなホームランキャッチを見せているのが、若干17歳にして「ホームランハンター」の名を欲しいままにしている脅威の高校生、トレント・ウィリアムスだ。

 キャッチが上手いだけではなく、キャッチした後の超ユニークなパフォーマンスも人気の理由だ。レンジャーズの選手が打ったHRをキャッチすればその場で謎のダンス(喜びの感情を表現していると思われる)を踊り、逆に相手チームの選手が打ったHRならば容赦なく全力でフィールドに投げ返し、場内を湧かす。この球場では、相手チームがセンターにホームランを打つとなぜかスタンドが盛り上がるという不思議な現象を見ることできる。

 見た目はデ…ぽっちゃり気味なトレントだが、その外見に似つかぬ機敏なフットワーク無駄なく打球の落下点に入る判断力はメジャーリーガー顔負け。ダルビッシュ登板試合でも度々ナイスキャッチを見せた彼は、今をときめく「ホームランハンター」としてその名を全米だけでなく全日本まで轟かせており、カタカナで彼の名前をググればまとめブログやニコニコ動画が出てくる。


1週間に2回新聞に載ったらしい。

何と、トレントをモチーフにしたTシャツまで発売されているほどのローカルセレブリティである

アスレチックスに土壇場で優勝をさらわれたあのシーズン最終戦では、平凡なフライを覇気なく落球したJ.ハミルトンに対し「トレントと代えてくれないか?」との声も挙がるくらい、彼のフィールディングには定評がある





 こちらは、トレントについて紹介しているビデオ。ゲーム前のバッティングプラクティスで掴んだホームランボールは500個以上!という彼は神キャッチの秘訣について「バッティングプラクティスに来ることが大切だね」と貫祿のドヤ顔で語り、ワシントン監督も「彼は最高にエンターテイニングだよ」とニッコリ。レンジャーズ選手のホームランをキャッチしたときは狂気的なダンス(44秒あたりから、超必見)を披露するが、相手チームのHRに関しては「打ったヤツがセカンドベースに到達するよりも前にぶん投げ返すよ」とやはりドヤ顔だ。



 さて、9月下旬に僕が遥々アーリントンまで足を運んだ目的のひとつが、そんな今をときめくトレント・ウィリアムスに会いに行こう!というものだった。恥ずかしながら今年に入り彼の存在を知った僕は(彼はホームランキャッチのキャリアは2009年にはじまっている)、TVの向こうでハミルトンの特大ブラストを鮮やかにキャッチし謎のダンスを踊り狂う彼の姿に衝撃を受けた。遠目に見て「あの機敏なメタボのオッサンは何者だ?!」と思っていただけに、彼がハイスクールに通う17歳であると知ったときはさらに衝撃を受けた。

 その後、彼の過去のホームランキャッチ動画を見るなどして感銘を受けていたところ、程なくして彼のTwitterアカウントを発見。それから彼とは、ちょくちょくTwitter経由で絡み合うようになった。僕がある日「全米各地の球場で最も華麗なホームランキャッチを見せた"ファン"を表彰する"トレント・ウィリアムス・アワード"を設けるようMLBに働きかけよう!ロベルト・クレメント・アワード的なノリで」と彼にサジェストしたところ「Yeah!! Cool!!」というノリノリなリプライが返ってきたこともあった。


 まあそんなわけで今回、アーリントンで生トレントに会ってきたのだ。



「僕がボールパークにいるとき、みんな僕のことを"アイツがあの有名なホームランをキャッチする少年だ"みたいな目で見るんだよ!もっと気軽に話しかけにきてくれよ! #俺はダルビッシュじゃないんだぜ」



 9月26日、アスレチックスを迎えての4戦シリーズの3戦目が行われたその日、僕はまずゲーム開始の30分ほど前にSection50に足を運んだ。1階席の中で最もセンター寄りのシートがあるエリアであり、トレントがシーズンシートを保有しているセクションである(事前調査済)。

 恐る恐る"聖域"に足を踏み入れシートを見渡すと、セクションの中でも最も「グリーン・ヒル」に近い席の一番後ろから2列目に、我が家の如くくつろぎながらプレイボールを待っているトレントがいた。その貫禄たるや、ハッキリ言って17歳の佇まいではない。というか、そもそも17歳がメジャーリーグのシーズンチケットを保有していることが普通じゃない。

 そして彼に近付き声をかけると、彼はサングラスを外し、僕に100万ドルスマイルで握手を求めてきた。


「君がMr.halvishか!」


 話してみると、彼は実に素直で礼儀正しい少年だった(そうでないと思っていたわけではないのだが笑)。こちらが彼の数々の"武勇伝"について質問すると、少し照れくさそうにはにかみながら答えてくれたり、あるいは僕の時差ボケを気遣ってくれたり。TVに映るファンキー・トレントとはまた違う、好青年トレントがそこにはいた。

 少しアイスブレーキング的な会話をしながらふとフィールドに視線を移すと、そこには素晴らしいアングルのビューが。


halvish「What a great view right here(このシートから見たフィールドは素晴らしい眺めだね)」
Trent「Yeah(まあね)」


 またしばらくテキサス談義に花を咲かせた後、僕は彼に「プレゼント」があることを思い出してカバンから取り出し、彼に手渡した。


 その「プレゼント」が、こちら。


2012-09-26 20.07.38




 今回の現地取材に際しパトロンにもなって下さったOさんからお送りいただいた「金ちゃんヌードル」。関西の方なら知らない人はいないのではないだろうか。

 ありがたくいただいたこの「金ちゃんヌードル」、実は今回の滞在中お世話になる日本人の方々へのお土産(日本のダルビッシュファンからハルビッシュを経由してテキサスのダルビッシュファンへ!的な)として持参していたのだが、せっかくだからトレントにもあげようと思い立った(どうせ和菓子の味はわからんだろうし笑)。

 さらにせっかくなので、トレントにはその顔の広さとアイコン性を活かして「金ちゃんヌードル」のダラス/フォトワース支局PR部長になってもらおうと思い付き、手に持たせてスマイルをさせてみた。それが上の写真であるが、後から見返すとトレントと「金ちゃんヌードル」が絶妙にマッチしてる気がして笑える。


 それから僕はもうひとつ、トレントにとっておきのプレゼントを持っていた。それがこちら。


2012-09-26 20.06.25




 少しわかりにくいかもしれないが、こちら何と、トレントのポートレイト(スモウ・レスラー風)である。こちらのポートレイトを描いて下さったのが、ダルビッシュのツイートやブログエントリーを英訳して発信されている@YuDarvishUSAさん。

 アンオフィシャルでありながら、貴重なダルビッシュの声を多くのレンジャーズファンたちに届けている@YuDarvishUSAさんは、翻訳だけでなくときにレンジャーズ選手のポップなイラストを描かれていたりもする。ダルビッシュとも仲が良いE.アンドラスは@YuDarvishUSAさんが描かれた彼のポートレイト(ニンジャ風)を大変気に入ったようで、なんとTwitterのアバターに使用していたりもする。


カワイイ顔してシガーとウィスキーを嗜むアンドラス…のアヴァターは、忍者



 さて、そんなわけで(?)、今回僕がテキサスでの取材について@YuDarvishUSAさんと話していたところ「トレントにポートレイトの原画をプレゼントしよう!」という話になり、綺麗な額に入ったポートレイトを僕の自宅までお送りいただいた。僕はその原画を大事に大事にスーツケースに詰め、遥々アーリントンまで持っていった、というわけだ。

 ちなみにポートレイトを受け取ったトレントの反応はというと…照れ笑いと失笑が混ざったような顔をしていた(笑)。とはいえ、極東の島国から自分のポートレイトが届けられたという事実には大変感激してくれて「いやあ、日本には行きたいと思ってるんだよ!ただお金がかかるからねえ…」と"来日"を示唆してくれたので、僕はチェーンの回転寿司を思い浮かべながら「トキオで極上のスシをご馳走してやるよ!」と宣言した。


 そしてもうひとつ、今度はトレントからのプレゼント。


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 こちらはお土産として、トレントのサインをゲット。意外なことに(?)彼のサインを手にした日本人は僕が第1号!だという。自らのフロンティア精神に対する誇らしさと「俺、何やってんだろう」という何ともいえない葛藤が入り交じった気持ちで、記念すべき日本人第1号サインをいただいた。


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 トレントはさらに、思い出したようにカバンからボールを取り出しサインを書くと「and... this one is for you」と、僕へのプレゼントとしてサインボールをくれた。流石はセレブリティ、粋なことをしてくれる。手慣れた手つきでサインを書くトレントに「そのボールはどうしたの」と聞くと「これは昨日のバッティングプラクティスで捕ったやつだね」と言うので「打ったのは誰?ジョシュ?」と聞くと「メイビー」。まあ、こういう何ともいえないふてぶてしさとおおらかなテキサス気質こそが、彼の魅力なのだと思う(思うことにする)。


写真



 さて、そんなこんなしてるうちにプレイボールが近付いてきたので、彼と再び握手をして僕は一旦、彼の"庭"を後にした。この夜、後で思いもせぬサプライズが待っているとは知らずに…(Vol.2へ続く…)



halvish



P.S.

トレント直撃取材については、アーリントン滞在中に日刊SPA!で連載させていただいていた「日刊ダルビッシュ」でも書かせていただきました。こちらも是非ご一読下さい。