2011年の世界自動車販売台数で米ゼネラルモーターズ(GM)が4年ぶりに首位に返り咲き、'10年までの3年間首位だったトヨタ自動車は3位に転落した。このトップ交代劇の陰に隠れて世間の注目をほとんど集めていないが、関係者は「野心家で知られる日産自動車のカルロス・ゴーン社長(仏ルノー会長兼務)は、含み笑いをかみ殺すのに懸命だろう」と打ち明ける。日産・ルノー連合が画策する次なる戦略を見据えてのことだ。
 日産・ルノー連合は'11年の世界販売台数が739万台で、GMの903万台、独フォルクスワーゲン(VW)の816万台、トヨタの790万台に次ぐ世界4位だった。対前年比でトヨタが6%落ち込んだのに対し、日産・ルノーは9%伸びた。その差は51万台で、中国市場での勢いの差が顕著だったことが大きい。

 ゴーン社長の「含み笑いウンヌン」の話は、何もトヨタを射程圏に捉えたからというだけではない。ルノーが既に25%の株式を取得しているロシア最大の自動車会社、アフトワズの経営権取得に向けた最終交渉が、いよいよ大詰めの段階を迎えているためだ。
 関係者によると、日産・ルノー連合は旧ソ連時代からのブランド『ラーダ』を生産するアフトワズの過半数の株式取得についてロシア政府から承認を取り付けており、日産が「25%プラス1株」を約800億円で取得すべく交渉を急いでいるという。

 ゴーン社長は1月9日に開幕したデトロイトでの北米国際自動車ショーの共同インタビューで「うまくいけば数週間以内に発表が可能になる」と語っており、アフトワズ買収は規定路線。同社は'11年にグループで約64万台の販売実績(単独では57万8300台)があり、これを含めると日産・ルノー連合はトヨタを上回ることになる。ゴーン社長は会見で続けて「アフトワズを含めるとトータル803万台となって世界3位になる」と力説、報道陣を前に鼻の穴を思い切り膨らませたのである。
 「アフトワズへの出資が現時点ではルノーだけにとどまるうえ、凋落一途のトヨタへの配慮もあって、国内メディアは日産・ルノー連合の実質世界3位にはほとんど言及していません。しかし日産の出資が確定すれば、そうもいかない。ゴーン社長の鼻息も以前に増して荒くなるでしょう」(日産OB)

 無理もない。世界ランクの大躍進は会社にとって勲章である。現に昨年の実績でGMの後塵を拝したとはいえ、トヨタを抜いて世界2位に躍り出たVWはGMの首位奪回に異議を唱え、「VWこそ世界一」と公言してはばからない。その論拠としてGMの数字には「子会社ではない中国の現地合弁会社による商用車の販売台数が含まれている疑いがある」として、その分を除外すればGMの実質的な世界販売は「803万台程度」になる一方、VWの816万台には傘下の商用車メーカー、スカニアとMANの販売実績が含まれておらず、両社の集計がまとまれば約20万台が上乗せされると主張。これを1月20日付『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じたこともあって“GMのトップ奪回疑惑”が燻っているのだ。