オリジナル作品同人誌即売会「コミティア」。普段商業誌ではなかなか描かれないような極北ジャンルが楽しめるのも魅力の一つ。誰得かって? 俺得だよ! そんな作品の数々を一部ご紹介

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ここしばらく、ゾンビや異形ものが増えました。
「ブームなの?」と言われると、うーん……違います。別にブームってほどではないです。
そうじゃないの! なんつーか、ハードルがめっちゃ下がっている、といったほうが正しいでしょう。
今までも数多くのゾンビ作品がありました。昨今はおやつ感覚で楽しめるゾンビ萌え作品が創作では増えています。
日常の中にゾンビが普通に暮らすようにまでなると、ハードル一気に下がり、「グロいのはちょっと」という人も惹きつけられますね。それを生かしたのが最近だと「りびんぐでっど!」などだと思います。
まあニッチ趣味なのには変わりないので「絶対読んだほうがいいぜ!」とは言えないんですが、ゾンビや異形に惹かれる層の厚みが増し、ライトにもディープにも楽しめるようになってきているのは興味深いところです。

今回は創作同人誌即売会「コミティア」で見つけた様々なゾンビ・異形系作品から幾つかピックアップ。
残念ながらR-18は今回は除外いたしますが、そちらの方も特にイラスト本でじわじわ広がっているので、興味のある方は会場でチェックしてみてください。

・ゾンビ作品・

■2年3組オブ・ザ・デッド(あらゐよしひこ)
ゾンビ・異形マンガ界隈では超有名な作家であるあらゐよしひこ。
「かわいい」と「切ない」を一環したテーマに据えているゾンビ作家で、グロテスクに腐敗したゾンビ像から、少女ゾンビのかわいさを引き出した作家さんの一人です。
この作品は2年3組の少女たちを乗せたバスが落下して全員重症になったものの、そのうち一人がゾンビ化。
意識が残っていたので、放置して死にそうならかんでゾンビに、という緊急手段をとったら全員ゾンビになっちゃった、という「終わりの始まり」から物語が始まります。「死ぬよりマシだよね」の一言が笑える上に泣けます。
ゾンビになったクラス一同。意識が全員残っていて悲観的ではなく、割りと前向きなのが興味深い。あーそっか、一人だったらやりきれないけど複数人だからね。
とはいえゾンビであることは暮らしていく上でマイナスになることが多い。それでも彼女たちはゾンビとして希望を求めて過ごしていたのです。過ごしていたのです……。
絵物語になっている本作は、あるあらゐよしひこの持つゾンビ論を展開した愛あふれる一冊。
あとがきの「恐怖は与えられるものでは無い、自らのうちから湧き出るものだ。そしてその恐怖こそ、愛情の裏返しなのだ」という一文がグッと来ます。
腐りきっていない、ゾンビとして生きる少女たちの姿を見たい方はこの作家の作品は要チェック。

■もし食いしん坊な女子中学生の親友がゾンビだったら(NEOスタヂヲ白楽)
ゾンビが食いしん坊なんじゃなくて、親友が食いしん坊なのか!
この作品もゾンビに自意識のある作品。ただしこちらは腐敗しているので、内臓と肉は全部抜き取って綿を詰めている、というのがユニーク。内容も至って明るく、綿なのでグロ苦手な人でも大丈夫。
食いしん坊中学生の女の子のキャラが強すぎて、ゾンビの方が目立たないというかなり変わり種な作品なんですが、極端に明るいがゆえにゾンビになった少女の悲哀が見えるのがお見事。
ゾンビ本人は悲しくなくても、周囲はそうではない。明るければ明るいほどじわっとくるのがゾンビ創作の面白さであるのを思い知らされる一冊です。

■NecroPlayground(ハロー・シスター)
「東京赤ずきん」では虐殺と陵辱の限りをグロテスクに描き、「ねくろまねすく」ではゾンビや人造人間をラブコメディに仕上げた玉置勉強と数多くの作家による、いわば「ゾンビかわいい」本。
ゾンビは確かに悲しくて恐ろしいもの。であると同時に究極の美のコレクションだ!と開き直った「ねくろまねすく」番外編の展開は素直に笑えます。
様々な作家のゾンビ絵が楽しめる本なんですが、なるほど。ゾンビ=究極の人形、ってわけね。
ネクロフィリア(死体愛好)ネタはニッチ趣味ではありますが、人形愛好とギリギリ紙一重。マンガというフィクションの世界だから楽しめるオブジェとしてのゾンビは、今後題材として取り上げられる事が増えそうです。

・単眼、複眼作品・

■真子さんとハチスカくん1〜4+α(かりばにずむ)
なんというか説明しづらいんですが、ごくごく一部で今年は単眼ブームだったのです。モノアイ、サイクロプス、いろいろ言い方ありますが、ようするに一つ目です。
今までもなかったわけじゃないんですが、pixivやコミティアを中心に盛り上がり、単眼イラスト集やマンガが数多く……ってほどではないですね、例年に比べてちょっと多くでました。気になる人はpixivで「単眼」で検索してみましょう。
商業誌でも単眼マンガが掲載されるようになり、未曾有の単眼ブーム……ってほどでもないんだよなあ、なんだろうこの増えているんだけどニッチジャンルというノリ。
ゾンビ同様「ハードルが下がった」のです。もともと好きな人はいたんですよ。
で、この作品は単眼愛に満ち溢れた作品。
単眼少女を描く場合って、「単眼という異形」を描くのか、「単眼だけどかわいい」なのか、「単眼なのがかわいい」なのかにわかれます。本作は後者。
そもそも単眼ってマンガ的には損をしかねないのですよ。だって人間の感情って目が一番表現するわけですもの。
けれどもこの作品に出てくる単眼少女真子さんは本当にかわいい。照れ、喜び、コンプレックス、涙、うれしさを見事に単眼で表現しています。
目はくちほどにモノを言うとはよく言いますが、まさか2つ目よりも単眼の方が雄弁に感情を語ることになろうとは。
読んでいると、これがニッチなジャンルの作品ではなく、ごく自然な個性を持ったキャラクターの日常に見えてくるから不思議。
単眼の、ごく一部における異常な熱気はほんと不思議でしたが、それがなぜかを教えてくれる一冊です。総集編なのもお得。

■よめ子本(軌道ラウンジ)
こちらはもう一つ一部で話題のジャンル、複眼。
「よめ子」というのは「四つ目の子」の方です。でもまあ、「四つ目っ子は俺の嫁」でもあるので、どちらでも。
非常に一枚一枚のイラストがかわいいのでグロテスクさはないんですが、とーにかく酔います。
パラパラめくって、自分もこういうジャンル好きなのでニヤニヤしていたんですが、クラックラします。なんだこれ。
そしてふと気づきました。
あっ、そうか。人間ってキャラクターの目を最初に見るから、どちらを見ればいいかわからなくて酔うんだ、と。
複眼は単眼に比べるとそこまで描いている人の多いジャンルではないですが(いや単眼も多くはないけど)、このクラクラ感は味わってみる価値あり。
3ではごく普通の日常を送る4つ目っ子のマンガも載っていますが、何事も起きていないのに感情が倍化されて見えるのは奇妙な感覚です。

・異形系作品・

■Friends of The ???・・・(梵人)
表紙に騙されました。くそう!
というかタイトルの時点で気づくべきでしたね。オブ・ザ○○。
中身は何を言ってもネタバレになるので書くのを避けますが、女子高生達の他愛のない日常はこういうものの上に成り立っているのかと思うとニヤニヤさせられます。
コミティアはアクション物を描く作家さんも多いんですが、本作もアクションと日常をおりまぜた作品。特に「なかなか友達が出来ない高校時代」というのは、一大テーマなわけですよ。
他の作品群もそうですが、たかが友達云々のような些細な出来事と、異常な出来事が並列になっているのも興味深いところです。

■闇現/Bloody Cutie Pie/変態(まよいばし)
電撃大王や「アオハル」などで活躍しているソウマトウの作品。R15レベルのグロ表現あり、注意。そういうのが大好きな人は是非。
完全に表紙のかわいさで手に取ったのですが、なるほど、これはコミティアならでは。読んでよい意味でゾクっとします。
「闇現」はうつろな目をした少女の猟奇奇譚。考えてみたら日本の昔話の妖怪少女も、くったりくわれたり、ですもんね。うまく現代風にアレンジし、悪い後味を感じさせてくれる作品です。
「Bloody Cutie Pie」はスラップスティックなコメディ。とにかく痛いです。見た目が。最後のページの痛さにはちょっと泣きそうにすらなりました。子供時代の残酷さが蘇ってきます。
そして「変態」は、少女が大人になっていく瞬間を描いた、昆虫の変態にかけた作品。感性で捉えた少女像を神秘的に描き上げます。
どの作品も登場するのは少女。そして「少女」の特別さを見ぬいた上で、徹底して異形として描いている様子は、まるでヤン・サウデクの写真のよう。かわいくて幼い少女はみな神秘的なモンスター、という少女表現論の一つの到達地点的作品です。


コミティアで出品されている作品の中でも極北ジャンルを今回特集してみましたが、決してこれが多いわけではないのでご注意を。
ただ、逆に一般商業誌で見ることのできないニッチジャンルを、それぞれの熱い思いを感じ取りながら読むことができるものすごい貴重な機会でもあるのです。
今回は抜きましたが、18禁ジャンルも入れるとさらに「どうしてもこれを描きたかった」という作家さんがプロアマ問わずゴロゴロいます。
まさに砂金堀りのような作業。「これは!」という作家さんに出会える次のチャンスはコミティア99 2012年2月5日です。
(たまごまご)