98回目のオリジナル作品同人誌即売会「コミティア」。個人的にグッと来た作品を幾つかご紹介。第一部はマンガとして、本の作りとして面白いものをピックアップしました

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10月30日、COMITIA(コミティア)98が開催されました。
コミティアは商業誌狙いの作家さんの作品もあれば、とにかく描きたいから描くという衝動にかられて作っているものまで様々。プロもアマチュアもここでは並列で作品を作っています。
個人的にハートに来たものを今回もご紹介。


■『高速ぷるん3』(まるちぷるCAFE)
引っ越してきた先で出会ったのは、無口な少女。ところが体の妙な発熱といい異常なパワーといい、なにかがおかしい。
そう、実はこの子は生きた原子炉だったのだ! ……というシチュエーションコメディ。
まあこれがロボットだったらまだ笑って済むのですが、彼女はあくまでも一人の人間の少女だというのがこの作品の凄まじいところ。
そもそも、原子力ってどういう仕組みなんだっけ?
東日本大震災以降、話題になり続けている原子力発電所問題。とはいえ劣化ウランとかプルトニウムとかわかりづらい。
このマンガは2009年から出ている作品で、奇しくも地震をまたいでの3巻目。別に今年の事件を題材にしたものでもなんでもないんですが、原子力発電にスポットが当たっている現在としてはジャストタイミングにはまっています。
かなり細かく原子力とはなんなのか、どういう仕組なのかを解説しているので学習漫画としても読めます。何も考えずにキュートなぷるんの面白さを楽しむ事もできます。
SFコメディとして見事にオブラートにくるみながら、かなり深刻な問題を提起しているマンガ。こんなのがコミティアで同人誌としてさらっと売られてるんだもんなあ。是非今年だからこそ読んでほしい作品なのです。
商業誌でも活躍されている方なので、なんらかの形でひとりでも多くの人に読んでもらって、楽しんだり考えたりしてほしい作品です。
なるほどねえ、臨界ってそういうことなのねえ……恐ろしい。

■まつり蔵麹室通信(まつり蔵麹室)
一応「日本酒擬人化」とは謳っていますが、擬人化度はそこまででもなく、がっちがちに日本酒愛を詰め込んだ解説本になっています。
日本酒をいかに楽しく飲むか! これを追求した同人誌です。いやあニヤニヤしますね。
ポイントは特集が日本酒だけではなく飲み処も扱っているところ。
様々な日本酒の名店に実際にインタビューし、日本酒の魅力を語っている……というところはなるほどと思うんですが、まさか逆に日本酒の蔵元にまでインタビューして、名店の魅力を語ってもらうとは。まさに「日本酒×名店」という見事なコラボ企画です。なんかラブラブなものを感じます。
お店の人と蔵元さんの語りが、すごいいいんだこれが。自信と愛にあふれているので、飲みたく&食べたくなること間違いなし。
お酒のうまさを語るだけじゃなくて、食べ物との相性をきっちり魅せてくれます。まえがきに「1・気構えずにいける価格帯、2・こだわりの料理がある、3・私が信頼して日本酒を任せられる」とあるのに、深くうなずかされます。
「日本酒よくわかんないんだよなあ」という人でも、読んでいるだけで飲みたくなる魅力に満ちた同人誌です。

■現実 現実擬人化アンソロジー(餅豆腐)
最近は擬人化ブームですけど、これ意味がわからなかったのですよ。
えっ、現実の擬人化ってどういうことなの。そんな抽象的な。しかもアンソロって、数人で書いてるの、わけがわからないよ!
で、読んでみて納得。なるほど、現実の擬人化だ。
よく「眼の前に立ちはだかる現実」なんて言葉つかいますが、実際にたちはだかったらどうなるかを6人の作家が書いた作品集なんですよ。
そもそも現実を擬人化する時点で現実逃避だろう、というツッコミが1ページ目から入っていて、してやられました。うーん、そうかー、それでも描ききることが「現実」なんだよなあ。
ルサンチマン的に卑屈な「現実」もいれば、熱血に殴りつけてくる「現実」も、見つめ合って泣いてくる「現実」もある。これはアンソロにしたことで書き手それぞれの持っている「現実とは何か」の考えの比較になっているのが見事。
読んでいると「なるほどなー」と思いつつ、本を閉じるとやっぱり「現実の擬人化って一番非現実的だよなあ」という思いにかられる作りもうまい。この不可思議な企画、今後もいろいろな方の作風で読んでみたいです。
ぼくの横にいる現実ちゃんは「現実にはかわいい女の子の現実ちゃんなんていないよ」と囁く現実ちゃんです。キビシイ。

■惡酔いの宝石/オツベルと象(萱島雄太)
表紙でびっくりしました。ゲロ吐き女!? インパクトで買ってしまいました。
スリの青年がゲロを吐く女性に出会う話なんですが、嘔吐ってマンガ的に非常に味のある瞬間なんですよ。リアルで見るのはお断りですが、マンガだと「口に入れる」ではなく「口から出す」というファンタスティックな絵柄になるんです。日常的なシーンじゃないですもんね。
これを生かして非現実の世界に引っ張り込む手法が見事。沙村広明の「ハルシオン・ランチ」なんかが好きな人だと、嘔吐ファンタジーとしても楽しめると思います。
もう一つの「オツベルと象」は、宮沢賢治の小説を独自に解釈して漫画化した研究論のような作品。
オツベルが美しい女性で、象がこの世のものではない生物なあたりからして目を引きます。
中身はまんま原作をなぞっており、最後の「おや君、川へ入っちゃいけないったら」まで再現されているのですが、雇用者と労働者という関係性は一切排除。
これが正しいか間違っているかは別問題として、読んだあとに改めて原作を読んだら、きっと全く別視点の物語が見えてくるはず。
コミカライズというには大きく外れた、新読解マンガです。まさかオツベルにときめく日がくるたあ思わなかったよ。オススメ!

■リアスフォークブルース(神谷アルテ)
17歳水泳部の少年が腕を骨折した時の物語を描いた、ほろ苦いフォークなブルースです。
まあ、そういうビターな物語を文章で解説するのも野暮ってもんなんですが、なんでこの本をあえて紹介したかというと、装幀が予想外だったからです。
通常同人誌って印刷所に出すか、コピーしたりプリントアウトして作るかするんですが、綴じる時ってまあ少なくともホッチキスじゃないですか。
違うんですよ。ガムテープでわざと雑に止めてあるんですよ。
丁寧にきれいに、という装幀感覚はあえて排除! 汚く、雑に!
いやあ、作りがブルースすぎます。ガムテープだから時間がたてばべたべたにもなりそうですが、それもふくめてブルース。
きれいなデザインの本が増える中、あえてこういうのを出すのが面白いですね。

■『推しメン最強伝説 ISSUE 1』(ミライシリーズ)
「初めてコミティアの会場に足を踏み入れたわたしは、アイドルを題材にした本はないかしら? などと思いながら見本誌コーナーで立ち読みしたり会場を一周していたのですが、あまりなかったですね(単にわたしが見つけられなかっただけかもしれませんが)。
そのなかで見つけたほぼ唯一の、アイドルマンガらしいアイドルマンガがこれ。ミライシリーズは「BUBKA」などにアイドルマンガを発表しているマンガ家・ナカGさんが主宰するサークルで、この本にはやはりマンガ家の鈴木詩子さんと高槻ナギーさんも寄稿しています。
鈴木さんの「ごめんねももち」は、冒頭でいきなりBerryz工房の“ももち”こと嗣永桃子ちゃんが死んでしまうというすごい作品なんだけど、読み進むうちに作者のももちへの愛がひしひしと伝わってくるから不思議。一方、ナカGさんの「Berryz工房vsももいろクローバー」では、タイトルのとおり両グループのガチ対決が展開されます。「ももクロがうちらのことパクってるよ!」と、ももクロのライブに殴りこみをかけたBerryz工房のメンバーたち。はたしてその勝負のゆくえは……!?
ももクロファンにはおなじみの高城れにの変顔が1ページ丸々使って描かれているのもうれしいです。そんなふうに実在のアイドルのキャラをなぞりつつも、各作家がオリジナルの物語を紡ぎ出しているのが面白いと思いました。次号も楽しみです。」

エキレビライターの近藤正高さんが見つけてくれました。アイドルネタって意外とないのですねえ。
にしてもパンチの効いた作品で…。

■金なし白祿(九井諒子)
今年「竜の学校は山の上」が発売された九井諒子の創作マンガ。
何がすごいって、日本画がテーマなので全編に渡って日本画タッチを動かして遊んでいるところ。
目を描き入れると実体化するという白祿が主人公。両目を入れると飛び出してしまうため、片目は描きいれないのです。
しかしその白祿がお金がなくなって、絵に瞳を入れて実体化させ、売ろうと企むのです。
ここから展開していく物語も奇想天外すぎて面白いのですが、なんといっても日本画が飛び回るのがユーモラス。
登場人物たちも、マンガと日本画の中間を行き来し、どこまでが本物でどこからが日本画かわからなくなります。
読ませる上に何度も絵を見たくなる逸品です。

■無理(平方二寸)
タイトルからしてなんのこっちゃわからん、しかも表紙の女の子眼力ありすぎなこのマンガ、不穏な空気がビンビンに張り詰めています。
ページを開いてすぐに現れる二人の少女。あれ、どうにもおかしい。
実は片方は「あれが私のゆくすえだとして、何をもってすればああなるんだ」と作中で語られ、未来の自分だということに気付かされます。
この作者、現在では「楽園 Le Paradis」で連載している。独特な台詞回し、不思議な間のコマ割り、人生の酸いと甘いを詰め込んだ笑いが持ち味なんですが、今回の「無理」は不穏さしか感じられません。
そもそも未来から来た自分が「何をもってすればああなるんだ」と言われるくらいの状態なわけですよ。気持ち悪くならないわけないですよ。
ユニークな言語感覚はそのままに、読後に押し寄せてくる奇妙な後味が癖になる作品。未来の自分を見ながら、それが本当なのか、最終的に何が起きていたのかすらわからない。そこを読者に委ねられるあたりの心地よさは是非見ていただきたいです。


オリジナルマンガの祭典コミティア、まだまだたくさんのユニークな作品ぞろいです。
今回は比較的創作マンガらしい作品を集めて見ましたが、一部で盛り上がっている作品群もあります。
それは異形系作品。
こちらについては「コミティア98レポート2」へ続きます。
(たまごまご)