TMNETWORKが現代に放つ新作『QUANTUM』 “66分間を飽きさせない”アルバムの正体を紐解く
TMNETWORKが、ニューアルバム『QUANTUM』を2026年9月23日にリリースした。2021年のユニット再起動後のオリジナルアルバムとしては、『DEVOTION』(2023年6月リリース)に続く2作目。その間にはデビュー40周年を走り抜けた2024年も挟んでいるが、以降もアリーナクラスの大規模ライブを毎年行うなど、彼らが活動のペースを緩めることはなかった。こうしてリリースを迎えた新作は、TMNETWORKとしても、日本の音楽シーン全体から見ても特異な手法を試みている。
多くのアーティストの場合、アルバムのリリースがまずあって、それを引っ提げてライブを行い、数か月後に映像商品化するといった順序が一般的だ。TMNETWORK『QUANTUM』においては、2026年前半に行われたライブツアーが出発点となり、新曲の初披露の場となった(なお、同ツアー中には、従来のTM NETWORKというユニット名からスペースを取り除き、現在のワンワードへと変更する“サイレントリニューアル”を行ったことも付け加えておきたい)。このツアー終了から4ヵ月、満を持して放たれるアルバムCDが『QUANTUM』だ。さらに、ライブツアーの模様(4月8日・横浜アリーナ公演)を収録したライブBlu-ray『TMNETWORK TOUR 2026 QUANTUM』も同日のリリースを実現している。
現代物理学(量子力学)における“量子もつれ”の概念をテーマにしたという『QUANTUM』。本作は、TMNETWORKにとってどのような意味を持つアルバムになったのだろうか。
■アルバムの核心、「Quantum」組曲の全貌
『QUANTUM』は、今回のアルバムで初めて音源化された6曲の新曲と、ライブツアーのための最新アレンジ・新録音による既存楽曲で構成されている。
リリースに先駆けた9月1日には、TMNETWORKメンバー自身が『QUANTUM』と新曲について語る機会として『TMNETWORK QUANTUM キク・ミル・ヨム観測日』というイベントが開催された。本稿でも、小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登による当日のメンバーコメントを引用しつつ作品を紐解いていく。
同イベントで初めに取り上げられたのが、アルバムの3トラック目「Quantum」から連なる4曲。これらは、ひとつの通貫するテーマのもとに書き下ろされた組曲となっている。
ライブツアー『TMNETWORK TOUR 2026 QUANTUM』では、数字の“0”と“1”が並んだり、重なり合ったりする映像演出が効果的に使われていた。これらは、「Quantum」組曲の成り立ちに関わる次の概念を表したものだ。
●“0”と“1”だけを使って数を表す通常のコンピューターの二進法に対し、量子コンピューターの基本単位である量子ビットには、“0と1の両方”を同時に持つ“重ね合わせ”状態が存在する。
●さらに、2つの量子ビットが深く結びついた“量子もつれ”状態では、互いがどんなに遠くに離れていても、一方を観測したときに、もう一方の状態が瞬時に確定する。
小室は、この“量子もつれ”における“0”と“1”の関係性の面白さを、何か別のものに例えるとしたら? という考えから、“人間の男女の恋愛”になぞらえることを思いついたのだという。「Quantum」組曲は、こうした経緯をふまえて“観測”することで楽曲の輪郭がより際立って見えてくるだろう
組曲のオープニングを飾る「Quantum」は壮大なインストゥルメンタルだ。主役となるシンセサイザーのリフや、マイナー調で始まってから一気に解放感のあるメジャー調に進行し、再び転調して…といったスリリングな構成、そのどれもが小室楽曲の王道、オリジナリティを感じさせる。
続く「Entanglement」もインスト・ナンバー。
エレクトリック・ピアノの音色や楽曲展開など、往年のプログレッシブ・ロックバンドからの影響にも思いをめぐらせながら聴くと何倍も楽しめそうな一曲だ。アコースティックギターの穏やかな音色も印象に残るが、木根によれば、本作のレコーディングでも特に「気持ちよく(ギターを)弾かせてもらった」一曲だったという。
そして、宇都宮のボーカルがいよいよ聴けるのが「Rise Together」。
木根のギターリフも印象的に響くポジティブな楽曲だ。サビ全体が英語で構成され、発音のトレーニングも行ったとのことで、この点は宇都宮の口からも「難しかった」という言葉がもれた。
また、ライブツアーでの先行披露時から、アレンジや歌詞の一部が変更された点にも注目。小室は「これが本来の形です。今度いつか演奏するとしたらこっちになる」と語っているが、まずはぜひ、ツアーのライブ映像とアルバム音源を聴き比べてほしい。
「Quantum」組曲を締めくくるのは、「量子の重ね合わせ」を意味する「Superposition」。
ライブツアー最終公演の有明アリーナでバックトラックのみ初公開された楽曲であり、ボーカルパートは今回のアルバムCDで初めて聴くことができる。いわゆる、オーソドックスな“A→B→サビ”的な構成ではなく意表を突く楽曲展開が特徴で、宇都宮が「短いプログレって感じ」と評した一曲だ。“奇跡は起こらない”という印象的な歌い出しから始まる歌詞について、作詞を手がけた小室は「0と1のどっちもある、ということを言うのに、(「Quantum」組曲における)締めの曲でそこを分かってもらう言葉が何かないかなって」と意図も明かしている。
■木根、小室が35年ぶりのリードボーカルでも魅せる
先に紹介した「Quantum」組曲に加え、さらに新曲は2曲ある。「恋せよ乙女 -Run Through The Night-」は、「LOOKING AT YOU」(1990年)、「月はピアノに誘われて」(1991年)に続く3曲目として、実に35年ぶりに木根がリードボーカルをつとめた新曲だ。哀愁漂うメロディ、ツイン・アコースティックギターと、宇都宮による美しいコーラスの相乗効果で、TMNETWORKの持つ引き出しの多彩さを感じさせてくれる。
「fate」は、小室がボーカルとコーラスを引き受ける荘厳な楽曲。
TMNETWORK作品における小室のリードボーカルは「Think of Earth」(1991年)以来2曲目と、こちらも35年ぶりの担当となる。2026年のライブツアーでは初日の立川ステージガーデンで初披露されて以来、毎公演ごとにアレンジが洗練されていき、アルバムのレコーディングをもってようやく完成。それまでの作曲工程をすべて見せるような曲になったという。
小室はこの曲の転調をポイントに挙げており、「“親だけが変わらない”、みたいな。帰るところが必ずあるっていう転調。最初から流れているルーパーの音にずっと(和音が)ぶつからないように作ってある」と語っている。
■驚きと発見に満ちた新アレンジの数々
ライブツアー『TMNETWORK TOUR 2026 QUANTUM』のための新アレンジ・新録音により生まれ変わった既存楽曲も、アルバム『QUANTUM』の見どころだ。これらは収録曲順もツアーのセットリストと連動しており、ライブのオープニングを飾った「RESISTANCE -2026 Version-」がアルバムの1曲目に配置された。
「RESISTANCE」の原曲は1987年リリースのアルバム『humansystem』が初出で、当時はシングルカットもされている。以後、さまざまなアレンジバージョンが存在するが、2023年の前作『DEVOTION』にも「RESISTANCE(TK Remix)」として収録された実績もあり、近年のTMNETWORKの作品性に馴染む特別な一曲になったと言える。
「We Can’t Stop That Way」は、2025年のライブツアー『TM NETWORK 2025 YONMARU+01』のオープニングで初披露されたミディアムテンポのポップナンバー。既存楽曲のなかではもっとも新しく、アルバムへの収録は今回が初めてとなる。
そして、選曲的に大きなサプライズが「Major Turn-Round -2026 Version-」だ。
こちらは、TMNETWORKがもっともプログレッシブ・ロックに接近した2000年のアルバム『Major Turn-Round』が初出。演奏時間およそ32分という超大作であった原曲から随所のエッセンスを抽出、発展させ、約13分にまとめあげた新アレンジになっている。
木根はこの新アレンジでラップ・スティール・ギター(膝/卓上で水平に置いて弾く小型のギター)に挑戦し、ツアーでも生演奏した。本作が25年ぶりにライブのセットリストに入ること自体も驚きだったが、さらに新録音でスタジオアルバムに収録されたことにも驚かされざるを得ない。
「Get Wild Continual -2026 Version-」は、デビュー40周年の2024年に制作された「Get Wild Continual」を原型としつつ、さらなるアレンジを加えた最新型。「Get Wild」がコンピレーションやリミックス音源集ではない新作アルバムに収録されるのは、1987年の初出から39年目にして本作が初めてでもある。
『TMNETWORK TOUR 2026 QUANTUM』を、そしてアルバム『QUANTUM』を締めくくったのが「CUBE -2026 Version-」。
先に述べた2000年作品『Major Turn-Round』への収録が初出であり、同作でもラストナンバーであった美しく繊細な一曲だ。2026年ツアーのエンドロールでは「CUBE」の選曲意図に触れられており、それは無数の可能性と選択肢、量子もつれに結びつくモチーフ…つまり「サイコロを連想してもらいました」というものだった。楽曲の持つ存在価値を少しずつ変容させながら、26年もの長い年月を経て、最新作のラストナンバーに着地させる。こんな仕掛けが待っていようと、誰が想像できただろうか?
■66分を飽きさせない。「やり切った感がある」アルバムに
9月1日に行われた『TMNETWORK QUANTUM キク・ミル・ヨム観測日』では、事前にファンから寄せられた質問にメンバーが回答するコーナーがあった。
そのなかで、「これから先の未来、TMNETWORKとAIの関係性はどうなっていく?」という質問に小室が応える。自身のこれまでの楽曲制作などを踏まえ、「毎回、コンピューターが間違えずにやってくれているっていう意味では(AIも)同じ」としたうえで、プロンプトに応じてAIが全編生成した楽曲に関しては「3~4曲ぐらい聴いていると、全部同じに聴こえてくる」のだという。この要因を「多分、周波数だと思う。音域の倍音みたいなものが変わらない。全部同じところなんだよね。だから飽きちゃう」と分析しつつ、「アルバム(『QUANTUM』)は、66分くらいありますけど、飽きないですよ。本当に」という自己評価にもつなげていた。
同イベントの締めくくりには、「こうすればよかった、ああすればよかったというのがあまりなくて、やり切った感があるアルバム。この時代ですけど、アルバムが出るのがすごくよかったなと思います」と、小室は3年ぶりのCDアルバムリリースを迎えた感慨もあらわにした。
FANKS(=TMNETWORKの熱狂的ファンのこと)としても、今こうしてアルバムという形態で新作を受け取れたことには同様の喜びと熱量があったはず。筆者としても例外ではなく、近年の意欲的な活動がこのようにアルバムとして実を結んだことを嬉しく思う。
冒頭にも触れたとおり、ニューアルバム『QUANTUM』は、ライブBlu-ray『TMNETWORK TOUR 2026 QUANTUM』との同時リリースとなった。リスナーはアルバムを手にすると同時に、楽曲が完成形に至る手前のライブも追体験できるという稀有なリリース形態だ。2作品のジャケットは左右に並べるとひとつのアートワークにつなげることができ、“2つで1つ”であるというメッセージにもなっている。
改めて、思い思いの順番、楽しみ方で、多くの方に両作品を堪能してもらいたい。
TEXT BY 柳雄大
■リリース情報
2026.09.23 ON SALE
ALBUM『QUANTUM』
【収録曲】
01.RESISTANCE -2026 Version-
02.We Can’t Stop That Way
03.Quantum
04.Entanglement
05.Rise Together
06.Superposition
07.恋せよ乙女 -Run Through The Night-
08.Major Turn-Round -2026 Version-
09.fate
10.Get Wild Continual -2026 Version-
11.CUBE -2026 Version-
2026.09.23 ON SALE
Blu-ray『TMNETWORK TOUR 2026 QUANTUM』

