「彼女への気持ちが冷めればいい。そう願っているのに--」芳信さんはひとり苦しむ

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【前後編の後編/前編を読む】「優しいパパ」が不倫に走るまで 妻とはデキ婚、結婚をためらったが…築いた3人の子との幸せな日常

 妹尾芳信さん(46歳・仮名)は、15歳の長男、12歳の長女、8歳の次女のパパ。妻の美結さんとの結婚のきっかけは彼女の妊娠だったが、当時の芳信さんにはまだ遊んでいたい気持ちがあった。結婚をためらう素振りをみせると、美結さんは「結婚しなくてもいいよ、私は産んで育てるから」。それでも子どもたちが生まれてからは、一緒に遊び、悩みを聞く「パパ」でいることに喜びを感じてきた。家族の中に自分の居場所を見つけていた芳信さんだったが--。

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「パパ」であることに満足していた芳信さんだが、3年前、そんな彼の日常を揺るがすようなことがあった。

「彼女への気持ちが冷めればいい。そう願っているのに--」芳信さんはひとり苦しむ

「以前、後輩だった女性が職場に復帰したんです。菊乃ちゃんというんですが、僕は彼女の指導社員をしていた時期もありました。10歳くらい年下だったと思います。その後、彼女は結婚して夫の転勤で泣く泣く退職し、でも契約社員として戻ってきた。話を聞いたら、離婚したんだそうです。10歳年上で頼れる夫だと思っていたけど、結局は精神的DVがひどかったらしくて」

 再会したとき、芳信さんは思いがけないほど胸が高鳴った。彼女に恋していたわけではなかったはずなのに、久しぶりに会った菊乃さんの「色気にやられた」のだという。

「彼女自身は気づいていないだろうし、周りから見ても決してわかりやすい色気を振りまいているわけではありません。むしろ知的で固い印象。でもそこから漏れ出るような色気があるんですよ。知的な色気。以前はそう思ったことはなかったんですが」

ときどき見せる寂しい顔に…「男」が疼く

 だからといって芳信さんが行動を起こしたわけではなかった。毎朝、笑顔で挨拶を交わし、ともに仕事をする。それだけで気持ちが晴れやかになった。それ以上、職場で何を望むことがあるだろうかと思っていた。

「彼女、ときどきふっと寂しそうな顔をするんですよ。それが気になってあるとき、なにげなく食事に誘いました。気軽にね。『たまにはメシでもどう?』って。彼女の顔がパッと明るくなったような気がしたのを覚えています」

 食事をしながら、いろいろな話をした。まだどこか指導社員のような気持ちだったと芳信さんは言う。

「少しお酒が入ったころ、『私がどうして10歳年上の男性と結婚したかわかります?』と彼女が言ったんです。わからないというと『芳信さんと同い年だったから』って。え、え、と焦りました。僕のことを憎からず思っていたということでいいんだろうか……。彼女はニコニコとこちらを見ていました。どう受け止めたらいいかわからなかったけど、それからときどきそうやって食事をするようになったんです。僕自身の気持ちとしては、彼女に会うたび、僕の中の『男』が疼く。でもそれを行動には表せない。それでいいと思っていました。家庭以外に楽しい時間をもってもいいだろうと。自分がリフレッシュするための時間くらいあってもいいはずと思っていたけど、今思えば言い訳かもしれません」

そして案の定…

 誘えば彼女は断らなかった。彼女は離婚したことで実家の親から出入り禁止になっていると語った。親の反対を押し切った結婚だったためだ。親身になってくれる友だちもいないと彼女は言った。

「僕がいるよと思わず言いました。でも彼女は『芳信さんには、素敵な家庭があるでしょう。私なんかにかまっていていいの?』と。その顔がまたちょっと寂しそうだったから、僕はきみを元気づけるためにいるんだと威勢のいいことを言ってしまいました」

 そんな甘い戯れ言のようなやりとりをしていたら、男女の関係になるのは目に見えている。はたから見ればそう思えるが、当事者はこういうとき、その危ない沼の縁にいることを認識していないものだ。

「僕はあくまでも友だちのつもりだったけど……。彼女はそうは思っていなかったのか、帰り際にぴったり体を寄せてきました。それを振り払えるほど僕は冷たくない。そのままホテルへ行ってしまいました。当然のなりゆきという感じでしたね」

自分の中の男が全開に

 奥さんに悪いわと言いながら、その言葉に酔うように彼女は燃えたという。彼もそんな彼女に乗せられて、自らの「男」を解放した。結婚してから他の女性と関係をもつのは初めてだった。

「妻に悪いという気持ちはそのときはなかった。自分の中の男が全開となって、暴れまくりましたね。彼女が僕を暴れさせた。男としてこんな力がまだあったのかと自分でもびっくりしました。美結とは同志になっていたし、家族だからそういう色っぽい関係にはなりようがなかった。でも妻とはそういうことがないほうが気楽だったんですよ」

 菊乃さんとの関係は、彼に新たなエネルギーをもたらした。それまでとは違い、電車の窓から見る景色さえ色が鮮明になった。恋をしている自分を自覚した。心が浮き立つような毎日だった。

「でも、既婚者が恋をすると、いろいろめんどうなことが起こる。遅くなるたび妻に言い訳したり、週末の子どもとの約束を破ったり。でも菊乃と一緒にいたい。その気持ちが強すぎて自分を抑制することができなかった。ちょっとこれから忙しくなりそうなんだと美結や子どもたちにも言って納得してもらいましたが、そのときの僕はパパではなく、ただの男としての本能が全開でした」

「部屋に行ってみたい」を拒まれて

 自分に家庭がある分、菊乃さんとの関係においても分が悪いような気がしていた。自分と会えないとき、菊乃が他の男と会っているのではないかと疑惑を抱いては彼女を責めた。菊乃さんは泣きながら「私にはあなたしかいないのに」と燃えていた。

「菊乃とは食事をしてからホテルへ行くのがパターンになっていました。あるとき『きみの部屋に行ってみたい』と言ったのですが、『狭いし、片づいていないからダメ』と軽くいなされました。『あなたを部屋に入れたら、帰っていくあなたを見送らなくちゃいけない。そんなつらいことは嫌』とも言っていた。そんな彼女が愛おしくてたまらなかった」

 彼女との関係に未来はない。それがわかっているから彼も燃えた。いくら求めあっても足りなかった。毎日会いたかったが、そんなことをしたら家庭は壊れる。のめり込みそうになっては自らに冷や水を浴びせるようにコントロールした。

 彼女に会うために仕事もがんばった。自分でも生き生きしているとわかるほど躍動していた。

彼女のマンションから出てきたのは…

 1年たち、少し関係が落ち着いてきたが、馴れ合いはなかった。

「彼女を知れば知るほど、独占欲がわいてしまって。いつも彼女を送っていくので、どこに住んでいるかはわかっていた。あるとき急に行ったら驚くかなと思ったんですよ。彼女のマンション前でタクシーを降りようとしたら、入り口から彼女が出てきた。ひとりじゃなかったんです。車から降りるのをやめて見ていたんですが、次の瞬間、本当にひっくり返りそうになりました。彼女と一緒にいたのは僕たちの上司だったんです」

 菊乃さんは上司の腕をとるようにして歩き始めたが、上司からたしなめられて周りを見渡す。空車のタクシーが通りかかり、上司が停めた。菊乃さんがすがるように上司の腕をとるが、彼はそれをやさしく振り払って乗っていった。

 菊乃さんは見送り、ゆっくりと建物の中に入っていった。

「頭が煮えたぎりました。全身の毛が逆立つのを感じました。そのまま帰ればよかったのに、僕は彼女の部屋に突入してしまったんですよ。チャイムを鳴らすと彼女は上司が戻ってきたと思ったんでしょうか、いきなり『どうしたの』と言いながらドアを開けた。そこに体を滑り込ませました。『誰だと思ったんだよ』と言ったら、彼女が青ざめていくのがわかりました。僕は何も言わずに彼女を押し倒した。生まれて初めて感じた嫉妬でした」

上司の彼女を寝取った?

 彼女を責め立てながら「あいつとオレとどっちがいいんだ」と言い続けた。彼女は全身を波打たせ、涙を流して感じている。その顔が「とてもきれいで、だからこそ悔しくて、全身をぶつけるようにして関係をもった」そうだ。

「その日はそのまま帰りました。怒りと同時に彼女への執着がわいてきて、どうしたらいいかわからなかった」

 翌日、会社で会うと菊乃さんの肌が輝いていた。上司はいつもと変わりない。考えれば、上司の彼女を寝取ったともいえるのかもしれない。上司は部屋に入れるのだから、彼女にとって上司のほうが自分より上なのだろう。

 その日の帰りぎわ、彼は菊乃さんをつかまえた。話し合おうと言うと、彼女は「話すことはないわ」とニヤリと笑った。その笑いが、あまりに狡猾そうだったのにあまりに美しかったから、彼は何も言わずに彼女をホテルへと連れていった。

「どういうことなんだと聞こうとしたんですが、上司のほうが好きだと言われたらどうしようと思い、怯んでしまいました。僕ができるのは体を使って心を責めることだった。そして彼女はどうやらそれが心身ともに快感だったみたいで……」

上司は部屋に入れるのに…

 それからさらに1年たった今、彼女との関係は変わっていない。おそらく上司もまだ彼女とつきあっているのだろう。上司は彼女の部屋に入れるのに、彼は相変わらずホテルだ。

 ただ、それを言い立ててもしかたがない。

「早く彼女への気持ちが冷めればいい。そう願っているのに冷めない。執着は強くなるし、ときどき上司と対決したほうがいいのかもしれないとさえ思うんです。でも上司も僕も既婚。彼女は『あなたには奥さんがいるのだから、これで対等だと思う』と言ったことがある。そう言われればそうかなとも思ってしまったけど、とにかく相手が悪すぎる。メンタルが鍛えられましたけどね」

 一時期ほど頻繁に会ってはいないから、家族との時間は戻ってきている。だが、妻には「あなたはなんだか変わってしまったわ」と言われた。薄々、何か気づいているのかもしれない。頻繁に会わなければそれだけ執着が濃くなることもわかった。彼はひとりで苦しむしかないのだ。

「苦しみすぎて、苦しいのが普通になってきちゃって……。こんなことになるなんて思ってもいなかった。彼女から逃れたい、でも離れてはいたくない。常に気持ちが混乱しているんですよ」

 もう少しの間、この地獄は続きそうだ。だが、きっとそのうち鎮まっていくだろう。それまで誰にもバレないことを祈るしかなかった。

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 菊乃さんへの執着に苦しみながら、家族との時間も取り戻そうとする芳信さん。記事前編では、妻との結婚を決め、3人の子の父になるまでを紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部