ポルシェの2025年の営業利益は前年比92.7%減に落ち込んだ。EV戦略の見直しなどに伴う巨額費用に加え、中国での販売不振や米国の関税が重荷となっている。2026年上半期も世界販売は前年同期比16%減と低迷する一方、唯一販売を伸ばしたのはエンジンを搭載するスポーツカーだった。新CEOが掲げる「原点回帰」は、名門復活につながるのか--。
2006年式 ポルシェ 911(997) ターボ(写真=The Car Spy/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

■高収益のポルシェが営業利益率1.1%に

2022年秋、フランクフルト証券取引所。ポルシェの銘柄が初めて電光掲示板に表示された瞬間、投資家たちは沸き立った。

当時の営業利益率は18%。同業他社を大きく上回る収益力に投資家は引きつけられ、ドイツを代表する優良株指数DAXにも採用された。欧州屈指の高収益自動車メーカーとしての門出だった。

だが、上場からわずか3年で、利益率は大きく低迷する。2025年12月期、本業の儲けを示す営業利益が前年比92.7%減を記録した。

ポルシェは2026年3月のニュースリリースにおいて、2024年と2025年の実績を比較し、「グループの営業利益は56億4000万ユーロ(約1兆200億円)から4億1300万ユーロ(約747億円)へ落ち込んだ」と発表した。

2025年のグループ連結決算(金融サービス部門を含む)の営業利益率は、わずか1.1%にまで低下した。

■EV戦略の見直しなどで巨額費用

最大の要因は、約39億ユーロ(約7050億円)の特別費用だ。

内訳は、EV重視だった製品戦略の方向転換と会社の規模適正化に約24億ユーロ(約4340億円)、バッテリー関連に約7億ユーロ(約1260億円)、そして米国の輸入関税に約7億ユーロ。規模適正化では、2030年までに3900人を削減する計画を労働組合と合意済みで、新CEOはさらなる削減にも言及している。過去の戦略判断のツケと、外部環境の激変が一気にのしかかった格好だ。

特別費用が主因であるとはいえ、痛手は単年度に限定されるわけではない。同社を取り巻く事業環境は、これ以前から徐々に下ブレしてきた。

巨大市場・中国では、通信機器大手ファーウェイなど現地勢のEVに押される形で高級車市場のシェアを急速に奪われた。ポルシェの販売不振は長期化しており、加えてアメリカの輸入関税も収益を圧迫した。

米自動車ニュースサイトのオートブログによると、2025年には業績の下方修正を4度も繰り返した末に、株価は3割超の下落を記録。DAXの構成銘柄からも外された。注目を集めた上場から、わずか3年でのことだった。

■最大市場だった中国で販売が半分以下に

販売台数の急落は、中国から始まった。

かつて中国は、ポルシェにとって世界最大の市場だった。ロイター通信によると、2021年には中国で10万台近くを販売していた。その中国で、今や最も深刻な販売不振に陥っている。

米自動車メディアのカー・スクープスによると、2025年の販売台数は前年比26%減の4万1938台。ピークからわずか4年で、半数を割った。

最新の2026年上半期になると、減少はさらに加速した。ポルシェの発表によると、中国での販売台数は前年同期比32%減の1万4501台に落ち込んでいる。

販売の落ち込みに伴い、ディーラー網も縮小の兆しがある。肝心の顧客との接点が失われている悪循環だ。

カー・スクープスによると、ポルシェ・チャイナのアレクサンダー・ポリッヒCEOはコスト削減のため、2024年末に約150あったディーラーを2025年末に114店、2026年には約80店まで削減する方針を打ち出した。2024年末の水準からほぼ半減させる計画だ。

実際、2025年末には複数のディーラーが営業を停止した。加盟店の撤退に伴い、顧客が預けていた手付金の扱いをポルシェ・チャイナが引き受ける混乱も生じている。

販売不振について、ポルシェ自身は中国市場全体の低迷を理由に挙げている。同時に、1台あたりの販売価格を優先する「価値重視の販売戦略」の結果でもあると説明している。価格水準とブランドの希少性を維持するためだというが、ディーラー数の減少など、顧客にとっては不安な状況が続く。

■高級車市場に食い込むファーウェイ

欧州資本が中国資本に押される構図は、実はポルシェにとどまらない。ドイツ高級車3ブランドのBMW、メルセデス、アウディも、中国でシェアを落とし続けている。

代わりに主役に躍り出たのが、通信機器大手のファーウェイ(華為技術)だ。同社が安徽江淮汽車(JAC)と共同開発した超高級セダン「Maextro(マエストロ)S800」は、2025年5月の発売後、販売台数を伸ばし続けている。同年9月には価格10万ドル(約1570万円)以上の全車種を抜き去り、首位に立った。

中国広東省深セン市宝安区で撮影された「Maextro(マエストロ)S800」(写真=User3204/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

中国自動車情報サイトのカーニュース・チャイナによると、同年12月の月間販売台数は4376台。ポルシェのパナメーラが1593台、これにBMW 7シリーズとマイバッハSクラスを合わせた3車種の合計でも4140台だから、欧州勢が束になってもかなわない。

ファーウェイは自ら車をつくらない。運転支援ソフトウェアなどの先端技術と広範な販売ネットワークを提供し、車両の製造はJACが合肥市の工場で担う分業モデルだと、ブルームバーグは説明する。

最低価格は70万8000元(約1660万円)からの設定で、最上位モデルでも約102万元(2400万円)。パナメーラの中国最低価格110万元(約2580万円)を大きく下回る。それでいて、680本以上の光ファイバーで夜空を再現した星空天井、後席の40インチプロジェクターと、先端装備をふんだんに搭載している。

こうした超高級セグメントは従来、外資勢にとって最後の砦のひとつだった。欧州ブランドのエンブレムがそのままステータスに直結し、BYDの仰望(ヤンワン)など中国メーカーが挑んでも崩せなかった。だが、ブルームバーグは、この牙城をファーウェイが初めて攻略したと指摘する。

コンサルティング会社・智能汽車の創業者である朱玉龍氏は、ブルームバーグの取材に対し、「中国の消費者の需要が変わり、国産ブランドへの誇りが高まったことが、高級車市場を根底から覆した」との見方を示した。

■唯一伸びた911、タイカンの約5倍を販売

2026年上半期、ポルシェの世界販売実績は、前年同期比16%減の12万2306台に落ち込んだ。ほぼすべてのモデルが2桁の減少となるなか、たった1種だけ、販売を伸ばしたモデルがある。

ポルシェ伝統のモデルであり、EVではなくガソリンエンジンを搭載する911だ。

販売台数は、前年同期比19%増の3万534台。カー・スクープスは、堅調な需要に加え、GTS、ターボ、GTといった高性能グレードを順次追加した効果が大きいと分析する。マイナスが並ぶ販売実績のなかで、911だけが前年同期を上回っていた。

写真提供=ポルシェ
ポルシェ911カレラGTS - 写真提供=ポルシェ

911の好調ぶりは、タイカンと比べるといっそう際立つ。

同じポルシェが手がけるEVセダン/スポーツワゴンのタイカンは、上半期の販売が前年同期比25%減の6219台にとどまった。米自動車ニュースサイトのモーター1は、「ポルシェ911がタイカンをほぼ5対1で圧倒(The Porsche 911 Is Crushing The Taycan In Sales, Nearly 5 To 1)」と題して報じている。比較的ニッチな部類のスポーツカーが、量産前提の4ドアEVを台数で上回る、異例の構図だ。

巨額の開発費を投じた次世代の主力車種が軒並み落ち込むなか、発売から60年を超えた911が、いまポルシェの中で重要な位置を占めている。

■新CEOが掲げる「自ら運転したい人」への回帰

こうした危機のさなかにポルシェの経営を任されたのが、ミヒャエル・ライターズ氏だ。2026年1月、新CEOに就任した。

米自動車ニュースサイトのオートブログによると、ライターズ氏はかつて、2000年から2013年までポルシェに在籍していた。2026年上半期に販売台数首位だったSUVカイエンや、同2位の小型SUVマカンの開発、さらに初期のハイブリッドプロジェクトに携わった。

その後、フェラーリのCTO(最高技術責任者)としてSF90や296 GTBなどのハイブリッド・ハローカーを世に送り出し、マクラーレン・オートモーティブのCEOを歴任している。ポルシェの車づくりと、超高性能スポーツカーであるハイパーカーの開発の双方を経験した人物が、古巣に復帰した。

前任のオリバー・ブルーメ氏は、フォルクスワーゲン・グループCEOとの兼務だった。対してライターズ氏は、ポルシェ専任。その動き出しは早かった。就任からわずか2カ月余りの3月には、2035年を見据えた中長期戦略「戦略2035」の骨子を示した。

6月の株主総会では、3つの柱を正式に掲げた。第1の柱「ブランド&カスタマー」は、スポーツカーとしての本質への回帰だ。ポルシェの公式発表でライターズ氏は、「自動化が進む世界で、ポルシェは自ら運転したい人のためのブランドであり続ける」と宣言している。自動運転やソフトウェアの快適性で攻める中国勢とは、明確に一線を画す。

第2の柱「プロダクト&テクノロジー」では、広がりすぎた製品ラインの絞り込みに踏み切る。アメリカではすでに、電気自動車であるタイカンについて、車体形状を変えた2つの派生モデルを廃止した。

■911はフル電動にしない

一方で、より高い利益率が見込める上位セグメントへの拡大も図る。

ライターズ氏は2026年3月の記者会見で、「現在の2ドアスポーツカーの上位、そしてカイエンの上位にあたるモデルを検討している」と語り、スーパーカー領域や超高級SUV領域への参入を示唆した。

パワートレインについては、内燃機関・ハイブリッド・フル電動のすべてに引き続き投資する。ただし、看板モデル911の方針は揺るがない。ライターズ氏は、「911にとって、専用開発のパフォーマンスハイブリッド・パワートレインは基本的な構成要素であり、いわば未来への命の水だ。フル電動の911は存在しない」と明言する。かつてのEV重視路線からの、明確な転換だ。

第3の柱「カンパニー&オペレーション」では、組織の階層を減らし、責任の所在をはっきりさせ、やると決めたことへの説明責任を徹底するという。

これらの戦略を貫くのは、「量より質」の思想だ。ライターズ氏は、「顧客が意識的にポルシェを選び、適正な対価を払う。ポルシェの強さはそこから生まれる」と強調。「必要だからではなく、本当に欲しいから買う」とのブランドの立ち位置を明確にし、台数を追う路線からの転換を掲げる。

■スポーツカーへの回帰で中国のSUV市場で勝てるか

もっとも、戦略の青写真が示されても、市場の警戒感は根強い。2025年の業績悪化を目の当たりにした投資家やアナリストは、ビジョンが実際に数字となって実現することを求めている。

ロイター通信によると、ポルシェの株主であるDWSのヘンドリック・シュミット氏は、「特に中国での動向が、はっきり示しています。今のままでは、ポルシェのビジネスモデルはもう立ち行かない」と指摘した。

こうした懸念が集まっているのが、EV版のカイエンだ。中国事業の立て直しは、このクルマの成否にかかっていると言っても過言ではない。

ポルシェは長年、中国のプレミアムSUV需要を収益の柱としてきた。だが近年、その構図が崩れつつある。小米(シャオミ)をはじめとする国内ブランドが、先端技術を搭載した低価格SUVで猛烈に攻め込んできたのだ。

小米(シャオミ)のEVセダン「SU7」(写真=S5A-0043/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

こうしたブランドは薄利多売の過当競争を繰り広げている面があり、中国メーカーが一様に有利にビジネスを展開しているとは言い難い。ポルシェとしては、そこに巻き込まれた側面がある。

ドイツの自動車産業アナリスト、フェルディナント・ドゥーデンヘーファー氏は冷ややかだ。ロイターに対し、ライターズ氏の戦略を「再編における典型的なアプローチ」と評したうえで、「中長期的に、この先どこへ向かおうとしているのかが見えてこない」と疑問を投げかけた。

同氏はSUVのカイエンについても、「コストパフォーマンスの面で、中国では確実に試練に直面するだろう」と警告する。スポーツカーへの原点回帰が911の購買層に響くとしても、中国のSUV市場で同じ戦略が通用する保証はどこにもない。

■台数は減っても、価格は守る再建へ

ポルシェのミヒャエル・ライターズCEOは、6月の株主総会で株主に忍耐を求めた。

「これほど大がかりな再編は、数カ月では終わらない。かつて目標としてきた水準の利益率に、短期間で戻ることもない」。業績の本格的な改善は今後の新しいモデルによってもたらされるとして、「それが最大のカギだ。そして、それには時間がかかる」と説明した。

写真=dpa/時事通信フォト
2026年6月10日、バーデン=ヴュルテンベルク州シュトゥットガルト:シュトゥットガルトを拠点とするスポーツカーメーカー、ポルシェのCEO、ミヒャエル・ライター氏 - 写真=dpa/時事通信フォト

もっとも、「量より質」の成果は、少しずつ数字に表れ始めている。7月に発表された2026年上半期決算で、グループ営業利益は13億5000万ユーロ(約2440億円)と、前年同期の10億1000万ユーロ(約1830億円)から33.9%増えた。営業利益率も5.5%から7.8%へ上がり、通期見通し(5.5~7.5%)の上限を超える水準となった。納車台数が落ち込むなかでの増益である。

注目すべきは、納車台数と売上高の減少幅の差だ。この半年、納車台数は前年同期比16.5%減と大きく落ち込んだ。しかし売上高の減少は5.1%にとどまった。つまり、1台あたりの売値が上がっている。ポルシェはこの結果を、コスト・価格・製品ミックスの厳格な管理と「量より質(Value over Volume)」戦略の成果だと強調する。

同じ7月末の発表では、競争力強化に向けた「フューチャーパッケージ」の交渉が妥結したことも明らかにされた。ライターズ氏は「フューチャーパッケージは、ポルシェを長期的により競争力のある、効率的で強靭な会社にするための重要な構成要素だ」と述べている。

財務・IT担当取締役のヨッヘン・ブレックナー博士は、「厳格なコスト管理と『量より質』戦略が、良い効果を表し始めている」と述べ、厳しい市場環境が続くなかでも通期見通しを据え置いた。ただし、この増益には前年に積んだ引当金約3億ユーロ(約542億円)の取り崩しも寄与している。組織再編に伴う費用は、2026年下半期と2027年にそれぞれ数億ユーロ規模で発生する見通しだ。戦略の詳細は、10月7日に予定される機関投資家向け説明会(キャピタル・マーケッツ・デイ)で発表される。

かつて18%の営業利益率を誇ったポルシェだが、2025年の1.1%への落差は大きい。原点回帰で、利益率をどこまで回復させられるのか。再建はまだ始まったばかりだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)