吉村紗也香「たぶん悔しい思いのほうが多いカーリング人生でした」《元カーリング日本代表》
引退後の生活は
今年6月にカーリングチーム『フォルティウス』の吉村紗也香(34)が引退を表明してから3ヵ月が経つ。今の肩書は「会社の広報担当? ですかね」と少し照れくさそうだ。現役時代と変わらず札幌市内の社会医療法人柏葉会に勤務し続けている。
ミラノ・コルティナ五輪を終えた後、チーム関係者から「フランスに行きたくなったんじゃないの?」と聞かれたという。4年後のフランス・アルプス五輪のことだ。
「実は自分でも『オリンピックを終えて(次の五輪に向けて)どう思うのか』という好奇心があったんです。その後も、チームミーティングで今後について個人の意思を確認されたり、自分でも考える機会もあったんですが……。
勝てなくて悔しかったですけど、『だからもう挑戦しよう!』とはならなかったです。むしろ、すごくスッキリした気分で」
その満足と安堵を混ぜ合わせたような吉村の心中を汲(く)み取った、意外な人物がいた。ロコ・ソラーレの藤澤五月(35)だ。藤澤は吉村にとって、ジュニア時代から切磋琢磨してきた最大のライバルであり、盟友でもある。
ふたりは吉村が引退を表明した翌月、札幌で開催されたオールスターゲームで顔を合わせた。藤澤が話す。
「本当に引退したの? っていうくらいメチャクチャうまかったです(笑)。紗也香ちゃんが、とても清々(すがすが)しい表情でカーリングしてたので『いい決断をしたんだな』って理解できました。カーリングが大好きな紗也香ちゃんらしい最後の時間だったと思います」
吉村は、まだ世界へ挑み続ける藤澤についてこう話した。
「さっちゃんはずっと(カーリングを)やるんじゃないかなと勝手に思っています。カーリング大好きなのが伝わってきます」
「いまは家族との時間を大切にしたい」
取材の最後、カメラマンから「決めポーズはありますか?」と質問があった。
しかし吉村は、「決めポーズ……うーん」と考え込んでしまった。
「そしたら、あの弓矢、お願いします」
カメラマンからの提案は、世界最終予選で勝利して念願のコルティナ行きを決めた後、開催地のカナダ・ケロウナからイタリアの方角に向かって矢を放つ仕草をしたチームセレブレーションだ。
「まだ1年も経ってないけれど、なんか懐かしいですね……(笑)」
吉村は気軽に応じてくれた。その矢は今後、どこに飛んでいくのだろうか。
「どうなんでしょうね。いまは家族との時間を大切にしたいので、もう少し時間が経ったら考えます。でも、ありがたいことに、フォルティウスに来るお仕事はちょこちょこさせてもらっています」
依然として吉村はフォルティウスの一員として活動している。この夏だけでも講演、スポーツ関連イベントのトークショーや、百貨店の催事場のゲストなどなど活躍の幅を広げている。
引退から3ヵ月。いま、吉村は自身の競技生活をどう振り返るのか。
「ジュニアの頃は高校3年生まで本当に勝てなくて。(札幌国際)大学に行ってからようやく勝てるようになり、ジュニアの最後の世界選手権で3位に入れました。そのあと北海道銀行に入ってもなかなか結果が残せなくて……。比率で言うと、悔しい思いのほうが多いカーリング人生でした。いまの生活には、カーリングとはまた違った大変さがあります。今朝は急に息子が焼きそば食べたいとか言い出して(笑)。でも、やっぱり幸せです」
初めてカーリングストーンを握ったのが9歳。それから四半世紀、駆け抜けてきた。いまは少し、羽を休める時間だ。
『FRIDAY』2026年10月2・9日合併号より
取材・文:竹田聡一郎
