仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのはドミニク・フリスビー著、中島由華訳『ゴールド 金の世界史』(河出書房新社)--。
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■イントロダクション

不安定な世界情勢を反映してか、安全資産としての「金(きん)」が人気だ。金は各国通貨や金融商品より信用性が高く、その普遍的価値が見直されている。

太古からその美しい輝きで世界中の人びとを魅了してきたが、実用性に乏しく、富の貯蔵と誇示のみに使われてきた金。どんな歴史を辿ってきたのか。

本書は、古代から現代、そして未来における「金」の持つ意味とその扱われ方などを、さまざまなエピソードとともに明らかにしている。

通貨の裏づけとして金を用いる「金本位制」をとる国や地域はなくなったが、各国・地域の中央銀行は依然として一定の金を保有している。とくに中国は世界一の金産出国となっており、大量の金を保有することで自国の通貨である元を国際準備通貨にする野心が推測されるという。

著者は英国の金融ライター兼コメディアン。イギリスの経済誌「マネーウィーク」にゴールドや金融に関するコラムを連載しており、「ガーディアン」「インディペンデント」紙などにも寄稿している。

1章 永久不変の金属
2章 金の起源
3章 神話とドラゴン、貨幣と王
4章 古典世界の金
5章 中世の交易と貨幣の性質の変化
6章 南米に暴力を招いた金への欲望
7章 中央銀行の誕生と偶然の金本位制
8章 摩訶不思議な錬金術の世界
9章 世界のゴールド熱
10章 第一次世界大戦とサウンドマネーの終焉
11章 ナチスと史上最大の隠し財宝
12章 日本の金の謎
13章 世界はなぜ米ドルに頼るようになったか
14章 そんなにたくさんの金をどうするのか
15章 金とのかかわり
16章 つまり金とは何か
17章 これからの金
18章 中国にはなぜそんなに金があるのか
結論--美、自由、真実

■「不滅の存在」に近い金

金ほど長持ちする物質はない。ダイヤモンドも炭化タングステンも窒化ホウ素もかなわない。金は腐食に強い。曇ることも朽ちることもない。どれほど時間が経っても分解しない。破壊することは不可能だ。金は永遠に不滅なのである。つまり、人類がこれまで採掘してきた推定11万6000トンの金は、現在もいっさい減ることなく世界のどこかに存在する。

金は、現在地上にあるもののなかで、不滅の存在にもっとも近いのである。だからこそ、現在知られている古代文明のほとんどが、金を永遠なるもの、すなわち神と結びつけてとらえていたのだろう。

■供給量は世界人口と同じ割合で増加している

金は実用的ではない。それに、利回りを生むこともない。何もせず、ただそこにあるだけだ。何かの建築にも、切断にも、配管にも金以外の金属が使われる。産業分野での金の利用はごくわずかだ。

金の用途は富を貯蔵し、誇示することに尽きる。金は有用の富であり、純粋な通貨である。意識してはいないかもしれないが、われわれは今日も金を通貨として使用している。価値の交換ではなく、価値の貯蔵を媒介するものとして。

1850年、世界中の金の約27%が金貨の形をとり、中央銀行もしくは政府準備銀行で保管されていた。金本位制はとっくの昔に廃止されているが、今日もこの割合はほぼ変わっていない。

人類が生産性を向上してきたこの1000年、金の購買力は増加し続けている。1972年、原油1バレルの価値は金0.06オンスに等しかった。2024年の時点で、原油1バレルの価値は金0.02オンスに等しい--50年前にくらべてずいぶん下がっている。

住宅価格にしても、金を単位にして計ればあまり変わっていない。だが、フィアット通貨(*ドル、ユーロ、円といった、有形の資産ではなく、法律のみで価値を裏づけられた通貨)を単位にした場合には絶え間なく(破壊的に)高騰している。

金供給量は、自然法に則しているかのように、世界人口と同じ割合で増加している。年増加率は約3%である。この相関関係は何百年も続いている。ただし、19世紀末のゴールドラッシュの期間は別である。その50年間に、金供給量は大幅に増えた。

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■金本位制からの離脱

金が公認の通貨になって約1000年たった20世紀初め、世界を揺るがす大きな変化があった。イギリス、ドイツ、フランスの政府は第一次世界大戦の費用に十分な金を保有していなかった。そこで、金での裏づけを断念し、通貨を必要なだけ発行するようになった。

二度の世界大戦の合間に、各国はしばらく金本位制に立ち戻ってみたが、うまく行かなかった。ふたつの貨幣理論がぶつかった。金で価値を裏づけられた貨幣と、政府から〔信用を与えられて〕発行される貨幣である。

「われわれが金を保有するのは政府を信頼できないからである」と、1933年にアメリカのハーバート・フーヴァー大統領はいった。一方、経済学者のジョン・メイナード・ケインズを始めとする多くの人びとはフィアット通貨の制度を支持し、政府にとってはそのほうが経済の支配と通貨流通量の操作がやりやすいと主張した。

いうまでもなく、ケインズ理論とフィアット通貨は主流になった。1930年代末までに、ヨーロッパのほとんどの国が金本位制から離脱していた。アメリカもそのあとに続いたが、1971年までは完全な廃止に至らなかった。社会福祉とヴェトナム戦争の費用がかさみ、それを賄う必要があったからである。

■各国から報告されている「金保有量」

以下はワールド・ゴールド・カウンシルのデータによる、各国から報告されている金保有量の一覧である。

1位 アメリカ 8133トン
2位 ドイツ 3352トン
3位 イタリア 2452トン
4位 フランス 2437トン
5位 ロシア 2333トン
6位 中国 2262トン
7位 スイス 1040トン
8位 日本 846トン

中国は6位につけている。この表によれば、金保有量は2262トンである。1オンス2500ドルで計算すれば、その価値は1820億ドルになる。さらに、中国は米ドル3兆2000億ドルを保有している。

中国の外貨準備資産に占める金の割合は約4.6%である。アメリカの外貨準備資産に占める金の役割は70%を超えている。中国がアメリカと同じ水準に引きあげようとするならば、金の保有量を13倍以上に増やさなければならない。つまり、およそ2万9000トンを保有するということだ。中国はすでにその水準に近い量を持っているのかもしれない。

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■産出された金の半分以上が国家所有

2007年、中国は南アフリカを抜いて世界一の金産出国になった。以来ずっとその座を守っている。2000年以降に中国が採掘してきた金の量はおよそ7580トンにのぼる。中国から産出された金の半分以上が国家の所有になっている。

中国国内の鉱山から産出された金の輸出は禁止されている。輸入された金で製造された商品--宝飾品など--の輸出は可能である。だが事実上、中国は金を買い越している。中国政府にいわせれば、それは国内の金市場を安定させ、国内の金産業の発展を促進するためである。

中国から産出された金の50%以上が国家の所有となり、産出量7580トンのごく一部のみが輸出されている(中国は、じつは金製の宝飾品の純輸入国である)となれば、公式発表の2262トンよりも多いことになる。

■金の備蓄量を着実に増やしている

もっとある。国内の埋蔵量が減っているため、中国の金生産企業は海外、とくにアフリカ、南アフリカ、アジアの金鉱山を買収してきた。推定では、中国企業の海外での年間生産量は50トンから100トンで、徐々に増えている。中国は世界一の金産出国であると同時に世界一の金輸入国でもある。

これらをつなぎあわせれば--累積の産出量、輸入量、既存の保有量を勘案すれば--約3万8000トンという結論になる。世界トップクラスのアナリストのなかにも、この数字に同意する人びとは少なくない。

われわれが正確なデータを知ることはけっしてできないのかもしれない。だが、すでにわかっている事実がある。莫大な量の金を生産し、輸入してきた中国は、この3年で備蓄量を着実に増やしているのである。

金を大量に貯蔵する中国の目的は何だろう? 可能性のひとつは分散投資である。資産配分に金を加えることは理にかなっている。どの国の中央銀行にとっても金は、誰の負債にもならない唯一の通貨として、保有資産の中核にするべきものである。

■いつでも金本位制を採用できるポジションを狙う

しかし、そのほかにも可能性はある。中国は自国通貨にかかわる野心のために貯蔵している。つまり、中国元を国際準備通貨にしようと考えているのである。

※国際通貨基金が人民元にSDRを加えたことで、国際準備通貨になったと見る向きもある

ドミニク・フリスビー著、中島由華訳『ゴールド 金の世界史』(河出書房新社)

これまでに国際準備通貨になったのは、金、金および銀、あるいは銀による裏づけのもとに発行が開始された通貨のみである。おそらく中国が目指しているのは、現代版の金本位制をとることであるとはかぎらないが、たんに望めばいつでも金本位制を採用できるポジションを得ることなのではないだろうか。

中国は、貨幣の武器化を決断した場合には、実際の金保有量を公表しさえすればいい。また、その金で中国元の一部を裏づけてもいいかもしれない。そうなれば、裏づけのない欧米諸国の通貨は購買力を大きく下げると考えられる。

欧米諸国のフィアット通貨をふたたび金で裏づけようとすれば、たとえそれが全体の一部であっても、金の価値が見直され、その価格が劇的に跳ねあがる。それこそが、20年間絶えず金を蓄積しつづけてきた中国の切り札なのだ。

■金を持つものが支配する

古代ギリシャで、アレクサンドロスの帝国は、面積からすれば史上屈指の規模だった。アレクサンドロスは、征服には武力を用いたかもしれないが、統合には貨幣を用いた。金と銀の供給量をコントロールすることで使用を強制したので、この帝国の通貨は史上もっとも国際取引に使用されることになった。

アレクサンドロス大王が身をもって示したとおり、金(きん)を持つ者が支配する。多くの価値がデジタル化されている今日のコンピューター社会でも、その格言はやはり当てはまるのだ。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

■コメントby SERENDIP

現在流通している貨幣のほとんどは、人同士の約束で裏づけされる「約束通貨」だが、それ以外の形態の貨幣は金とビットコインだけだと著者は指摘している。ビットコインは今では投資家や企業、そして国家の重要な保有資産の一つとなっているものの、「ビットコインに価値がある」と考える人が少なくなれば急落する危うさを持つ。

その点、金の場合は、その美しさゆえに宝飾品としての価値が消えることはまずない。このように安定した「強さ」を有するだけに、金をめぐる世界の趨勢を俯瞰的に捉えていく必要がありそうだ。

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