垣内俊哉・ミライロ社長

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デジタル障害者手帳「ミライロID」に取り組む、ミライロ社長の垣内氏。2025年3月の上場から1年以上が経った。26年7月には障害者法定雇用率が引き上げられるなど、企業、障害者の接点づくりが重要になる中で、役割の重要度が増している。「企業と65万人以上のミライロIDユーザーとの結節点になりたい」と垣内氏。さらに、国内で確立した仕組みを生かしたグローバル展開も視野に入れる中、今後の展開は─。

 ミライロの事業に共感した議員たち

 ─ ミライロが上場して1年以上が経過しました。起業当初は様々なご苦労もあったかと思いますが、改めて、それを支えてくれた方々についてお聞きしたいと思います。

 垣内 まず思い浮かぶのが前副総理の麻生太郎さんです。印象的なのは、様々な方と再会した時に多くの場合、「お体いかがですか」、「体調どうですか」が枕詞なのですが、麻生さんは「儲かっていますか?」とおっしゃるんです。これには感動しました。

 頑張っている障害者ではなく、あくまでもビジネスパーソンとしての私と向き合って下さっていることがわかったことが嬉しかったですね。

 お聞きしたところでは麻生さんのお母様の教育だそうです。幼少期から障害のある方とボランティアなどを通じて交流しておられたこともあり、接し方が本当にフラットなんです。

 ─ 1人の人間として接しているということですね。

 垣内 そうです。一緒に写真を撮らせていただいた時も、麻生さんはしゃがもうとされたのですが途中でやめて、私に「どっちがいいですかね?」と聞いてこられたんです。

 これは素晴らしいご質問で、お話をしている時は視線を合わせてもらった方が楽ですが、撮影する時にはわざわざしゃがんでいただく必要はないんです。「立っていただいたままで大丈夫です」とお伝えして撮影しました。

 そして2017年、私が体調を崩して長期入院した際、麻生さんからお手紙をいただいたのですが、「退院をしたら快気祝いをしましょう」と書いてあり、実際にお食事に行きました。

 ─ 麻生さんは、ミライロが手掛けている「ミライロID」の普及でも重要な役割を果たされたとか。

 垣内 障害者手帳の電子化がなかなか進まなかった時期に、麻生さんは「絶対に進めた方がいい」とおっしゃって、当時の加藤勝信・厚生労働大臣や、石井啓一・国土交通大臣に電話して下さって、私の話を聞いていただく時間を取ってくれました。

 これが18年の秋頃で、その後、様々な対話をした中で19年1月には電子化に向けた動きが始まったのです。70年間変わっていなかった障害者手帳の仕組みが、麻生さんが働きかけてくれたことで動き出しました。本当にご尽力いただきましたね。

 麻生さんが道を拓いて下さって、加藤勝信さんが広げて下さり、平井卓也さん、牧島かれんさん、河野太郎さんという歴代のデジタル担当大臣の皆さんも継承して動いて下さいました。

 野田聖子さんや赤羽一嘉さん、小林史明さんなどにも、厚生労働、国土交通、デジタルの分野でお力添えをいただきました。

 応援して下さる皆さんのご尽力で、民間事業の域を超えることができていなかったミライロIDを、マイナポータルの民間利活用第1号として接続することも実現しました。

 なかなか票にはつながらないトピックですが、皆さん「大切なことだ」と動いていただけてありがたかったですね。大阪では、日本維新の会の皆さんが積極的に働きかけてこられ、他の地域よりも障害者手帳の電子化が早く実現しました。

 その後、自民党や公明党などの皆さんも議会質問で取り上げて下さることが増え、全国に広がっていきました。

 「環境、意識、情報」の改善が重要に

 ─ 今、障害者の雇用を巡る環境はどうなっていますか。

 垣内 障害者雇用という文脈で言うと、今はどの企業も苦境に立たされています。採用したくても採用できないんです。なぜかというと、障害のある方の高等教育が決して十分ではないからです。

 私が大学に進学した19年前(2006年度)のタイミングでは障害者で大学に通っている方は4937人しかいませんでした。2024年度には5万5510人まで増えましたが、全体の大学生の数に対して1・71%しかいません。

 ですから、新卒の方を採用しようと思っても無理なんです。かつ、今障害のある方のうち、働いている方の数は、私が生まれた平成元年は19万5000人でしたが、昨年末に厚労省が出した数字では67万7000人と増えています。

 ただ、障害のある方全体で言えば約1165万人もいます。このうち、働けるであろう身体状況の方は約半数のはずですが、67万7000人しか働いていないわけです。

 ─ 障害のある方の就労が進まない要因をどう考えますか。

 垣内 先ほどお話した教育の部分もありつつ、受け入れる企業側の問題でもあります。「環境、意識、情報」と言われますが、改善されたところは受け入れが進んでいます。

 例えば財務省はかつて、庁舎内のバリアフリーが進んでいませんでしたが、麻生さんが大臣の時に徐々に進み、教育研修も充実させた結果、財務省、金融庁で法定雇用率を達成しました。財務省、金融庁が率先した結果、民間金融機関でも取り組みが進んでいます。

 例えば三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、当社が手掛けている障害のある方について学ぶ「ユニバーサルマナー検定」について、グループの三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の3社から5000人の方々に受けていただこうと希望制で募集したところ、すぐに枠が埋まりました。

 グループの社員の皆さんに向けた講演の機会もいただきましたが、リーディングカンパニーであるMUFGが障害者雇用に関して動いて下さったことは大きな一歩だと考えています。

 ─ 最大手が動くと、他の企業にも波及すると。

 垣内 そうです。損害保険業界でも、東京海上日動火災保険が障害者向け保険をつくろうということで、社長、会長を歴任した永野毅さんが旗振り役になって下さっています。

 障害のある方は、例えば生命保険、医療保険に入りづらいという現実がありました。障害とガンに相関関係は認められませんし、金融商品として成立するニーズがあるものと判断し、推進することができました。

 障害のある方に閉ざされていた金融サービスが「ファイナンシャルインクルージョン」という形で進んできており、大きな励みになっています。

 ─ 励みという意味では、垣内さんが上場を果たしたことも大きな出来事かと思います。

 垣内 この時もいろいろな方に支えていただきました。上場の際には東京証券取引所の式典の時に鐘を鳴らすのが恒例ですが、車いすでは届かなくて鳴らせないと言われていました。

 何とかなりませんかという話をしていましたが当初は難しいと言われていました。ただ、様々な方に相談をさせていただいた中で、最終的には東証にスロープ付きの台をつくっていただくことができたのです。しかも、後に続く方々のために残すことも決めていただきました。

 ─ 将来の車椅子ユーザーの経営者の励みになる話ですね。

 垣内 そう思います。上場して1年以上が経ちましたが、何を一番感じているかというと、障害のある方、障害のあるお子さんがいるご家庭の皆さんからご連絡をいただく機会や、街中でお声をかけていただく機会が増えたことです。

 また、「応援しています」と株を持っていただいている方、ミライロが上場して初めて株を買ったという方も大勢いらっしゃいます。様々な方の一つの希望になれているのかな、とありがたく受け止めています。

 ─ 人と人とのつながりを感じる話ですね。

 垣内 2010年に起業した際は知識もなければ人脈もない中で、本当に大勢の方が見守って下さいました。15周年の会を開催した時も、創業期から応援して下さった経済人の皆さんが駆けつけて下さったことは本当に心強いと感じましたし、今後につなげていかなければならないと決意を新たにしました。

 企業とミライロIDユーザーをつなぐ役割も

 ─ 26年7月1日から、一般事業主の障害者法定雇用率が、2・5%から2・7%に引き上げられましたね。この影響をどう見ていますか。

 垣内 法定雇用率の引き上げは決まりましたが、企業側の受け入れ体制が整っていないという現状があります。この要因として、企業と障害のある方との接点が少なすぎるということが挙げられます。

 この活路となっているのが、我々が手掛けている「ミライロID」です。今、ユーザー数が65万人を超えており、ミライロID上で、受け入れ体制が整った企業の情報をお伝えすることで、障害のある方がその企業に関心を持つことができます。

 障害のある方が企業に就職したいという意欲を持ったとしても、その企業の実態がわからなければ門戸を叩くことはできません。それが、弊社が研修やバリアフリー化のお手伝いをした企業であれば「ミライロが関わっているなら安心」ということでアプローチができるようになります。

 こうした情報を65万人以上のユーザーにお伝えすることで結節点になれるのではないかと考えています。

 海外の障害者も視野に

 ─ これまで取り組んできたことを生かして、新たな機能を追加していると。

 垣内 ええ。このサービスを26年4月に「ミライロ・キャリア」としてリリースしました。こうして障害のある方と企業の結節点になることが、今我々が注力している事業です。

 もう1つが、グローバルの障害者に対しても寄与していくプラットフォームにしていくことです。障害者手帳は日本では1940年代から制度が確立されてここまで来ていますが、多くの国では2000年代以降に導入が進みましたから、日本が先行しているんです。

 ここまで精緻な形での電子化に、官民一体で取り組むことができているのは日本くらいです。ですから、これを世界に広げていきたいんです。

 ただ、世界では例えばGDPR(EU一般データ保護規則)などの規制もありますから、そう簡単ではありませんが、ゆくゆくは各国の障害者が国を行き来した時、どこでもミライロIDの仕組みを使える形にしていきたい。

 ─ 世界に普遍性のある仕組みづくりをしていくと。

 垣内 そうです。その第一歩として取り組んでいるのがインバウンド(訪日外国人観光客)です。まずはインバウンドが多い上位10カ国くらいをターゲットに、日本に来る障害のある方々がミライロIDを使えるようになるという仕組みです。

 ─ インバウンドの方々が障害者手帳を使いたいという要望は多いわけですか。

 垣内 先般の「大阪・関西万博」の時にも問い合わせが非常に多かったんです。27年には横浜で「国際園芸博覧会」が開催されますから、インバウンド対応で土壌を整えた後に、各国でも使えるようにしていく。

 これまでは1165万人という日本の障害者市場に対しての取り組みを進めてきましたが、今後は10億人、ないし統計によっては16億人とされる海外の障害者市場も、しっかり視野に入れながら取り組んでいきます。

 これは弊社が東証グロース市場から、プライム市場を目指す上でも大事になると考えています。

 ─ 障害のある方の可能性を広げる取り組みですね。

 垣内 そう考えています。我々企業の取り組みだけでなく。教育機関の間口が広がれば広がるほど、障害のある方の高等教育の水準が高まり、おのずと就職の選択肢が広がるという循環が生まれます。そのための教育機関へのサポートにも取り組みたいと思っています。

 また、国全体の高齢化も相まって障害者の数が増えてきています。かつては障害のある方はみんながみんな、長く生きられていたわけではありません。私の家系でも早逝した者が多かったわけですが、今は医療水準も高まり、私と同じ病気でも薬によっては歩けている子もいます。

 ただ、歩けても障害があることには変わりがありませんから、今後も全世代的に障害のある方は増えていきます。

 その点でも我々の事業は社会的意義だけでなく、ビジネスチャンスであることは明らかですから、社会貢献という文脈だけでなく、ビジネスという意識で多くの方に向き合ってもらう必要があると思っています。