別の星へ向かう人工衛星ボイジャーが宇宙人に届けるのは、すでに滅んだ人類の「遺書」か…星々の絶望的な距離と「文明の寿命」

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もし未知の異星人から「あなたはどこから来ましたか?」と問われたら、どう答えますか?

「地球から」という回答は、宇宙規模の社交場では失笑を買ってしまうかもしれません。実は私たち地球人は、ある決定的な理由により、宇宙の平均レベルよりも科学の発達が遅れている可能性があるのです。

ファーストコンタクトの日に恥をかかないために必要なのは、地球の狭い常識ではなく、宇宙のどこへ行っても通用する「普遍的な教養」と「宇宙的思考法」です。

多種多様な異星人が行き交う宇宙ステーションで繰り広げられる、知的で刺激的な問いの数々。宇宙で真に求められる「本当の科学知識」とは一体どのようなものなのか、その知的な冒険の一端をぜひ覗いてみてください。

※本記事は、講談社『宇宙人と出会う前に読む本 全宇宙で共通の教養を身につけよう』(高水 裕一)の内容を抜粋・再編集したものです。

ボイジャーが積んでいるのは「遺書」か

地球人がつくった人工物が、どこまで遠方にあるかという話もしておきます。それが、地球人が実際に「現地調査」できている最遠の場所だからです。現在、その記録保持者はボイジャー1号。この人工衛星はいま太陽系を離れ、別の星へ向かおうとしています。

ボイジャー1号は1977年に打ち上げられ、宇宙でさまざまな天体を撮影してきました。有名な作品に1990年、太陽とすべての惑星たちを約40AUの距離からカメラに収めた「最後の家族写真」があります。そしてこれは、ボイジャーにとって「最後の撮影」となりました。

しかし、通信はいまも途切れることなく、定期的に手紙を送ってきてくれています。2012年にはついに、太陽圏を抜けて恒星間空間という領域に入ったことを知らせてきました。人工物が、太陽系のいちおうの目安を越えたのです。

頼もしい私たちの息子はいま、約146AU、光なら20時間ほどのところにいて、秒速17㎞で遠ざかっています。2025年くらいまでは通信可能といわれていますが、オールトの雲まではとうてい達しないでしょう。そこまでの距離は前述のように約10万AUです。約6・3万AUが1光年なので、オールトの雲を太陽系の端と考えるなら、ここまでが「太陽が影響をあたえる領域」とみなすことができます。1つの星が支配する「〇〇系」を「国」にたとえると「太陽圏」までが「陸地」で、その先の「領海」がオールトの雲までとなり、これら全体を含めた国の大きさが、約1光年ということです。

ボイジャーはいま、ようやくこの海に漕ぎ出したばかりです。ボイジャーは「ゴールデンレコード」といわれる、地球の文明を伝える大量の画像や言語音声や音楽などのメッセージを積んでいますが、お隣の「国」である、4・3光年先のケンタウルス座の星に達するまでにも4万年はかかると予想され、その頃まで人類が生存しているかどうか、まったくわかりません。文明が数万年も継続するとは、普通は考えにくいところです。そう考えると、ボイジャーのメッセージがもしも宇宙人に届いたとき、それはすでに滅んだ文明が最後に宇宙空間へ送りだした「遺書」ということになります。

星の絶対的な孤独

このように、宇宙における星という「国」どうしは、お互いに異常なほど距離をとっています。私たちがどこかの「国」へ移動することは、絶望的といえます。

では、通信することで、交流を図れる可能性はどうでしょうか。たとえば「ケンタウルス国」に光を使ってメッセージを送ると、4年かかってようやく向こうがそれを受け取り、すぐに返事をしても往復で8年以上がかかってしまいます。

それはしかたなく受け入れるとして、では、たとえば1等星という最も明るい部類の星にしぼってみて、「太陽国」が通信できる範囲はどこまでかを考えてみましょう。ルールとして、地球人の寿命を考えて、メッセージの往復にかけられる時間は最大70年ほどとします。なんとか1世代で1往復の通信は可能とみなせるからです。つまり片道の距離は35光年程度です。

すると、この範囲にはなんと9個しか1等星は存在しません。最遠は37光年離れた、うしかい座のアルクトゥルス星です。太陽自身を含めると、国が全部で10しかないのです。国旗を覚えるのも、簡単そうですね。これを地球の地図に重ねた図を見てください。

この地球上に、この10ヵ国しかないと想像してみてください。どんなに寂しく、孤独な世界かわかるでしょう。たとえば日本のほかに、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南米、北米、オセアニア、北極、南極とわりふっていけば、ほぼ同じ数です。それぞれの地域にたった一人だけ、友だちになれるかと連絡しても、返事がくるのは35年後。絶望的孤独です。

しかも、宇宙空間での距離は単純な平面上のものではなく、立体的な高さを含みます。つまり、南米にわりふった「アルクトゥルス国」は、地面にさえ存在せず、はるか上空高くに浮かんでいるのです。高さは星の銀河座標の「銀緯」で表現されますが、日本から60度の上空にあるのです。9つの「国」のうち最も上方にあるのはデネボラで、銀緯で70度にもなります。もはや雲の上で、親近感もわきません。星どうしは銀河面内でも距離が離れすぎているうえに、銀河面から見た高さも異なるという絶対的に孤独な状況にあるのです。

宇宙人文明の交流を妨げる壁

宇宙人に興味のある方なら、「ドレイクの方程式」はご存じでしょう。アメリカの天文学者フランク・ドレイクが、銀河系内には地球人が交信可能な文明はいくつあるかを見積もったものです。方程式と呼ぶにはおおざっぱな、さまざまな割合を単に掛け合わせただけのものです。

たとえば、「銀河系に毎年できる恒星の数」×「惑星をもつ確率」×「ハビタブルゾーンにある惑星の数」×「知的生命まで進化する確率」などの項があります。しかし、考えてみればあたりまえのものばかりで、しかも、それぞれの項にそれほど意味のある値を与えられるわけでもありません。なので、ここではドレイクの方程式の詳細は示しません。

ただ、この式で重要な示唆を与えてくれるのが、「電波で通信できる範囲」と「交信できる文明の寿命」との関係についてです。

その意味するところはさっきの1等星での例と同じです。人類の文明の寿命が仮に1万年だとすると、1万光年先に文明があっても、事実上、通信は不可能ということです。

最も近い星々として、星座として見えている2等星(はくちょう座のサドル星)までの距離を半径として、太陽系を中心とする円を描くと、だいたい半径2000光年の円になります。およそこれが「肉眼でも見える星座」の世界の大きさといえます。この距離なら、ローマ帝国の時代に発信した光がいま届くので、文明の存続範囲内ということになります。古代エジプトの古王国時代に出せば、返信ももらえます。この範囲の中に、星座として見える星は約45個存在しています。わずか45個というべきかもしれませんが。

たしかに銀河には、星の数ほど恒星があり(妙なたとえですが)、惑星もあり、生命がいる環境があることは間違いないでしょう。そして文明がある可能性ももちろんゼロではありません。しかし、星どうしは圧倒的に離れているので、通信を試しても、メッセージが届く前に、文明のほうが寿命を迎えてしまうのです。

逆に、これまで宇宙人からまったく音沙汰がないことが、宇宙における「文明の寿命」の短さを示唆しているのかもしれません。本当なら、文明が発展するほど、宇宙人と交信できる能力は高まるはずです。なのに、どこからも何も言ってこないのは、文明の発展は原子力などの、文明を一瞬で崩壊させる不安定要素も増やすからかもしれません。じつはたくさんあった宇宙文明も、私たちに通信が届く前にすべて滅び去ったのかもしれません。すると、文明の交流が実現するかどうかは、交流能力の向上と、不安定要素による崩壊のかねあいがカギになるといえます。

おそらく、銀河系内の文明の数をいくら方程式から算出しても意味はないのです。「星どうしがあまりにも離れている」という現実を「文明の寿命」を延ばすことでよほど補えないかぎり、宇宙人はお互いに、あまりにも孤独なのです。

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