「不便すぎる新函館北斗駅」と「観光資源に恵まれた函館駅」が共倒れの危機に…北海道新幹線の札幌延伸で起こること

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2016年3月、本州と北海道を結ぶ悲願のルートとして開業した北海道新幹線。その終着である「新函館北斗駅」は、2038年度末に予定されている札幌延伸までの暫定終点駅ではあるものの、当面は “北海道の玄関口”としての役割を担うとされている。

しかし、開業から10年が経った現在も、駅前には東横インと農地が広がるだけで、期待された開発は全く進んでいない。

さらに同駅は、豊かな観光資源を抱える函館市から約18km離れた北斗市に位置する。そのため新幹線を降りた乗客の大半は、そのまま函館行の在来線へと乗り換え、約20分かけて函館駅へと向かっていく。

一体なぜこの地に新幹線駅を作ったのか。また、札幌延伸によって生じる函館へのダメージとは?

前編記事〈北海道新幹線の“終点”なのにほぼ東横インしかない「異様な光景」…駅前開発が10年も進まない新函館北斗駅の現在〉から続く。

北海道の玄関口のはずが…

北斗市の新駅周辺整備計画では、新函館北斗駅を「北海道の玄関口」と位置付ける表現が繰り返し登場する。現在、工事が進む札幌延伸までの暫定終着駅ではあるものの、新幹線によって南北海道の発展を牽引する存在になるという期待が込められていたことがうかがえる。

しかし、北海道の玄関口としての役割は限定的なものにとどまっている。

「函館都市圏の住民としては、新幹線よりも飛行機の方が料金とアクセスの双方で利便性が高く、東京などに行くときには飛行機を利用することが多いです。飛行機は早割などが充実しているので、上手く使えば割高な新幹線よりも早く安く東京に行くことができます。また、近年、高規格道路が函館空港の近くまで整備されたので、アクセスも楽になりました。

ちなみに、函館の住民は、同じ北海道の札幌よりも本州の方に目が向きやすい。市街地に隣接する形で空港があり、飛行機の利用が身近だからです。札幌への移動は車かJRで5時間ほどかかるため、かえって東京などの都会を好む人が多いように感じます」(北斗市出身の40代女性)

筆者も、実際に函館空港まで足を延ばしてみたところ、新函館北斗駅よりも圧倒的な賑わいを見せており、展望デッキでは飛行機を見に来た家族連れの姿もあった。

一方で、新幹線を利用する側の声はどうなのか。

このお盆期間に北海道新幹線を利用して北海道に帰省をした千葉市在住の40代会社員の女性に話を聞くことができた。

「家族に高所恐怖症の人間がいるので、飛行機と新幹線の料金を比較して大差ないときは新幹線を利用します。ただ、飛行機の方が安い時期はやはり飛行機で帰省しますね」

なぜ函館駅ではなかった?

そもそもなぜ、観光資源に囲まれた函館駅ではなく、かつて無人駅だった渡島大野駅に北海道新幹線の駅が設置されたのだろうか。

北海道新幹線の計画が具体化しつつあった1980年代から90年代にかけて、この問題は函館都市圏最大の政治課題の一つであった。

観光都市である函館市は、函館駅への新幹線の乗り入れを望んでいた。しかし、函館駅は線路が海に向かって途切れる構造となっており、新幹線を乗り入れるには折り返しが必要となる。札幌方面に向かって直通可能なルートを優先した結果、渡島大野駅が選ばれ、北海道新幹線の新函館北斗駅と改められることになったのだ。

そして、不便な新幹線終着駅が誕生した。

降り立っても駅周辺には東横イン以外ほぼ何もなく、観光目的で函館市内に行こうにも移動の手間は避けられない。東京駅から4時間以上かけて新函館北斗駅に到着した乗客は、そこからさらに在来線の「はこだてライナー」へ乗り換え、約20分かけて函館駅へと向かうしかないのが現状だ。

こうした状況に函館市も危機感を抱いている。

北海道新幹線は最大の赤字路線

同市は近年、新函館北斗-函館間への新幹線乗り入れについて独自に調査を実施している。背景には2038年度末に予定されている北海道新幹線の延伸開業がある。新幹線が札幌に延伸されると、函館-札幌間で現在11往復運行されている特急北斗号は廃止となる見込みで、函館駅から特急列車が姿を消すことになる。

また、北海道庁が主導する並行在来線対策協議会では、道側が函館-長万部間のバス転換案を沿線自治体に対して提案している。この区間には新函館北斗-函館間も含まれており、もしこれが決まればアクセスを担う鉄路そのものが消滅しかねない。

道側は鉄道維持の費用負担を自治体に求めているが、財政力に乏しい沿線自治体だけで負担するのは困難であり、函館-長万部間の在来線存続は極めて厳しい状況に追い込まれている。

そもそも、日本各地で建設が進む整備新幹線について、その開業に伴い新幹線と並行する在来線はJRから経営分離され、都道府県などが主体の第三セクター鉄道に移管されるのが通例だ。

しかし北海道庁は、並行在来線の維持に対して積極的に財政支出をしようとする意思がない。バスドライバー不足が叫ばれる中、このまま道の思惑通りに並行在来線の廃止を進めれば、地域の公共交通は崩壊しかねない。

さらに、新幹線の函館駅乗り入れに対して、当事者のJR北海道も消極的な姿勢を示している。北海道新幹線は2025年度の赤字額が117億円に達する同社最大の赤字路線だ。

新幹線駅は万能ではない

新函館北斗駅が発展しなかった理由を、「駅の立地が悪かったから」の一言で片付けるのは簡単だ。確かに、新函館北斗駅は函館市街地から約18km離れており、もともと人の流れの中心地ではなかった。駅前には広大な区画整理事業によって整備された土地が広がるが、民間企業の進出は限定的なものにとどまっている。

しかし、それ以上に大きな問題は、新函館北斗駅を中心としたまちづくりの具体的な戦略が見えてこなかったことではないだろうか。

新幹線駅を整備し、道路や駅前広場を整えれば企業が進出し、人が集まり、街が発展する--。そうした発想は、2026年8月20日付記事(北海道「かにめしの聖地」に広がる異様な光景…朽ちかけた廃墟店舗が並び、一部ではゴーストタウンの様相に)で取材した長万部町でも見られた。

しかし、現実には人の流れを生み出す仕組みや継続的な投資を呼び込む戦略がなければ、駅前の空き地が埋まることはない。

実際、新函館北斗駅の利用者の多くは駅前に滞在せず、そのまま函館市街地へ向かっており、函館都市圏の住民も新函館北斗駅よりも函館空港を利用する傾向にある。企業の立場から見れば、利用者が素通りする場所に積極的な投資を行う理由は乏しい。

一方で、その函館市街地も安泰ではない。

共倒れの未来が迫る

北海道新幹線の札幌延伸によって、函館-札幌間を結ぶ特急北斗は役割を終え、函館駅から長距離特急列車が姿を消す見通しだ。さらに並行在来線問題では、北海道庁が函館-長万部間のバス転換を選択肢として示しており、地域鉄道の将来は極めて不透明な状況となっている。

もし函館-長万部間の在来線鉄道が廃止され、新幹線の函館駅乗り入れも実現しなければどうなるのか。

新函館北斗駅は「北海道の玄関口」ではなく単なる通過駅となり、函館駅もまた鉄道交通の拠点としての機能を失うことになるだろう。本来であれば、新函館北斗駅と函館駅は、一体となって南北海道全体の交通ネットワークを支えるべき存在だったはずだ。

ところが現実には、新函館北斗駅の駅前開発は停滞し、函館駅の将来も不透明なままになっている。

北海道新幹線の開業から10年。

今、問われているのは「なぜ新函館北斗駅は発展しなかったのか」だけではない。北海道の玄関口をどこに位置付け、鉄道・空港・道路をどう連携させるのかという、北海道全体の交通政策そのものなのである。

新函館北斗駅の開業当時に描かれた「活気が拡がる南北海道クロスエリア北斗」という構想は、今も駅前の看板や計画図の中に残っている。しかし、ソフト面の具体策が欠けたままで北海道新幹線の札幌延伸が実現すれば、新函館北斗駅はただの通過駅となり、函館駅すらも消滅しかねない。

両駅が共倒れとなる暗い未来は着実に迫っている。

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