「カルシトニン」とはどんなホルモン?働きや過剰分泌されると現れる症状も医師が解説!
カルシトニンとは?メディカルドック監修医がカルシトニンの働きや分泌が高くなる・低くなる原因や検査法・治療法などを解説します。
監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。内分泌代謝・糖尿病内科専門医。
「カルシトニン」とは?

カルシトニンとは、血液中のカルシウム濃度や骨代謝に関係するペプチドホルモンです。32個のアミノ酸からできており、主に骨を壊す「破骨細胞」の働きを抑えることで、骨から血液中へカルシウムが放出されるのを抑制します。
副甲状腺から分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)には血液中のカルシウム濃度を上げる働きがあるため、カルシトニンはPTHと反対方向に作用するホルモンとして説明されることがあります。ただし、人間のカルシウム濃度は、主にPTHと活性型ビタミンDによって調節されています。カルシトニンはその調節を補助する役割を担います。
臨床では、カルシトニンの生理作用よりも、甲状腺髄様がんの診断や治療後の経過観察に用いる腫瘍マーカーとして重要です。なお、細菌感染症の重症度を調べる「プロカルシトニン」は、カルシトニンとは異なる検査項目です。
カルシトニンはどこから分泌されるの?

カルシトニンは、主に甲状腺に存在する「C細胞」から分泌されます。C細胞は「傍濾胞細胞」とも呼ばれ、甲状腺ホルモンを作る濾胞細胞とは異なる種類の細胞です。
血液中のカルシウム濃度が上がるとC細胞が刺激され、カルシトニンの分泌が促されます。また、食事に伴って分泌されるガストリンなどの消化管ホルモンもカルシトニン分泌に関係します。
甲状腺髄様がんは、このC細胞から発生するがんです。そのため、甲状腺髄様がんでは血液中のカルシトニンが高くなりやすく、診断や治療効果の評価に利用されています。
カルシトニンの基準値

カルシトニンの基準値は、測定方法、使用する試薬、検査施設によって異なります。また、一般に女性より男性の方がやや高い傾向があります。
以前に用いられていたRIA法と、現在広く使われている高感度のECLIA法では値が大きく異なるため、過去と現在の結果を比較する際にも注意が必要です。必ず検査結果に記載された基準値を確認しましょう。
男性の基準値
国内の検査会社で用いられているECLIA法の一例では、男性の基準値は9.52pg/mL以下です。一方、別の国内基準を採用している施設では5.15pg/mL以下とされています。
男性は女性より甲状腺のC細胞が多い傾向があり、基準値も高めに設定されています。基準値をわずかに超えただけで甲状腺髄様がんと確定するわけではありません。数値の程度や推移、甲状腺結節の有無、腎機能、服用薬などを総合して判断します。
女性の基準値
同じECLIA法でも、国内で用いられる基準値には6.40pg/mL以下、または3.91pg/mL以下などの違いがあります。
したがって、インターネット上の基準値と自分の結果を単純に比較するのは適切ではありません。特に軽度高値の場合は、同じ測定法を用いて再検査し、値が持続するか、上昇しているかを確認することが重要です。
カルシトニンの働き(役割)

破骨細胞による骨吸収を抑える
骨では、古い骨を壊す「骨吸収」と、新しい骨を作る「骨形成」が繰り返されています。カルシトニンは、骨吸収を担当する破骨細胞の働きを抑え、骨から血液中へカルシウムが放出されるのを減らします。
この作用を利用したカルシトニン製剤は、骨粗しょう症などに伴う痛みの治療に使用されることがあります。
血液中のカルシウム上昇を抑える
カルシトニンは骨吸収を抑えることで、カルシウム濃度が急激に上昇するのを防ぐ方向に働きます。
ただし、人間ではPTHや活性型ビタミンDの方がカルシウム調節において中心的です。カルシトニンだけが低下しても、通常は明らかな高カルシウム血症にはなりません。
腎臓からのカルシウムやリンの排泄を促す
カルシトニンには、腎臓の尿細管でカルシウムやリンが再び血液中へ取り込まれるのを抑え、尿中への排泄を増やす作用があります。
これも血液中のカルシウム濃度を下げる方向に働きますが、健康な人の日常的なカルシウム調節における影響は限定的と考えられています。
カルシウム摂取後の急激な変動を抑える
食事によってカルシウムが吸収されると、ガストリンなどを介してカルシトニンの分泌が促されます。これにより、食後に増えたカルシウムを一時的に骨へ保持し、血液中の濃度が大きく変動するのを防ぐ働きがあると考えられています。
妊娠や授乳など、カルシウム需要が大きく変化する時期に骨を保護する可能性も研究されていますが、人間における役割の全てが明らかになっているわけではありません。
甲状腺髄様がんの腫瘍マーカーになる
カルシトニンは甲状腺髄様がんの診療で重要な腫瘍マーカーです。治療前の値は病気の広がりを推定する材料となり、甲状腺を摘出した後もカルシトニンが検出される場合や再び上昇する場合は、がんの残存や再発を疑います。
また、数値そのものだけでなく、値が2倍になるまでの期間である「カルシトニン倍加時間」も、病気の進行速度や予後を評価する手がかりになります。
カルシトニンの分泌が多くなる原因

甲状腺髄様がん・C細胞過形成
カルシトニン高値で最も重要な原因は、C細胞から発生する甲状腺髄様がんです。髄様がんの前段階にあたるC細胞過形成でも上昇することがあります。
甲状腺髄様がんの多くは遺伝と無関係に発症しますが、一部はRET遺伝子の病的変化によって発症する多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)に含まれます。髄様がんと診断された場合は、遺伝学的検査が検討されます。
ほかの病気や薬剤の影響
カルシトニンは、腎機能障害、自己免疫性甲状腺炎、高カルシウム血症、高ガストリン血症などでも上昇することがあります。また、胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬の長期使用、喫煙などが軽度高値に関係する場合もあります。
肺などに生じる一部の神経内分泌腫瘍でもカルシトニンが産生されることがあります。したがって、高値であっても直ちに甲状腺髄様がんとは限りません。
生理的変動や検査への干渉
血液中のカルシウム増加や食事などによる一時的な刺激でも、カルシトニンは変動します。男性、乳幼児、高齢者では比較的高くなることがあり、検査に用いる抗体へ反応する「異好抗体」などによって実際より高く測定されることもあります。
また、ビオチンを多く含むサプリメントは、一部の免疫測定法に影響します。サプリメントや市販薬を含め、服用しているものを検査前に医師へ伝えましょう。
カルシトニンが過剰分泌されるとどんな症状が現れる?

多くの場合は過剰分泌そのものによる症状がない
カルシトニンが高くても、ホルモン自体の作用によって低カルシウム血症などの明確な症状が出ることは通常ありません。これは、カルシトニンの作用が持続すると体が反応しにくくなることや、PTHなどの調節機構が働くためと考えられます。
したがって、高値が見つかった場合は「カルシトニン過剰の症状」を探すより、原因となる病気を調べることが重要です。
下痢や皮膚の紅潮
進行した甲状腺髄様がんでカルシトニンなどの物質が大量に分泌されると、頻回の水様性下痢が現れることがあります。また、顔や体が赤くなる皮膚紅潮を伴う場合もあります。
ただし、これらはカルシトニン高値の人全員に現れる症状ではなく、比較的進行した病気でみられることがあります。
首のしこり・声のかすれ・飲み込みにくさ
これらはカルシトニン自体による症状ではなく、原因となる甲状腺髄様がんによって生じる症状です。首の前側のしこり、首のリンパ節の腫れ、声のかすれ、飲み込みにくさなどが現れることがあります。
首のしこりが急に大きくなる、声のかすれが続く、呼吸しにくいといった症状がある場合は、内分泌内科、甲状腺外科または耳鼻咽喉科を受診してください。
カルシトニンの分泌が少なくなる原因

甲状腺の全摘出
甲状腺をすべて摘出すると、カルシトニンを作るC細胞も失われるため、血液中のカルシトニンは極めて低値または測定感度未満になります。
ただし、甲状腺全摘後に補充が必要なのは主に甲状腺ホルモンです。カルシトニンが不足しても、通常はカルシトニン製剤による補充を必要としません。
甲状腺組織やC細胞の減少
甲状腺の手術で広い範囲を切除した場合や、甲状腺組織が萎縮した場合には、C細胞が減ってカルシトニンが低くなる可能性があります。
一方、橋本病などの甲状腺疾患があっても、必ずカルシトニンが低値になるわけではありません。低値だけから原因となる甲状腺疾患を特定することはできません。
生理的な個人差・測定感度の影響
健康な人でも、特に女性ではカルシトニンが非常に低く、検査の測定感度未満になることがあります。これは必ずしも病気を意味しません。
カルシトニン検査は一般に高値を評価する目的で行われるため、低値については基準値の下限が設定されていないこともあります。
カルシトニンの分泌が少なくなるとどんな症状が現れる?

通常は特徴的な症状が現れない
カルシトニンが少なくても、通常は自覚症状が現れません。甲状腺全摘後にカルシトニンが検出できなくなった人でも、カルシトニン不足に特有の症状は一般に認められていません。これは、カルシウム濃度がPTH、活性型ビタミンD、腎臓などによって調節されるためです。
カルシトニン不足だけで低カルシウム血症にはならない
手足や口の周囲のしびれ、筋肉のけいれんなどは低カルシウム血症の症状ですが、カルシトニン不足によって起こる症状ではありません。
甲状腺手術後に低カルシウム血症が生じた場合は、甲状腺の近くにある副甲状腺の機能低下が主な原因です。症状がある場合は、血液中のカルシウムやPTHを確認する必要があります。
骨粗しょう症との直接的な関係は明確ではない
カルシトニンには骨吸収を抑える作用がありますが、カルシトニン低値だけで骨粗しょう症になることは証明されていません。骨粗しょう症には、年齢、閉経、運動不足、低体重、ステロイド薬、ビタミンD不足など、さまざまな要因が関係します。
骨折リスクが心配な場合は、カルシトニン値ではなく、骨密度検査や既往歴などによる総合的な評価が必要です。
カルシトニンの検査法

血清カルシトニン検査
腕の静脈から採血し、血清中のカルシトニンを測定します。甲状腺髄様がんの診断補助、治療効果の確認、再発の監視、MEN2家系の評価などに用いられます。
カルシトニンは検体中で不安定なため、採血後の処理や保存方法も重要です。また、検査法によって結果が異なるため、経過観察では原則として同じ測定法で比較します。
カルシトニン刺激試験
基礎値だけでは判断が難しい場合に、カルシウムなどを静脈内へ投与してカルシトニンの反応を調べる刺激試験が検討されることがあります。
ただし、現在は高感度測定法が普及し、刺激試験の必要性は以前より低下しています。実施方法や判定基準も施設によって異なるため、専門医が必要性を判断します。
画像検査・細胞診・遺伝学的検査
カルシトニン高値が確認された場合は、甲状腺超音波検査で結節やリンパ節を調べます。必要に応じて穿刺吸引細胞診、針を刺して採取した洗浄液中のカルシトニン測定、CTなどを行います。
甲状腺髄様がんと診断された場合は、遺伝性のMEN2を調べるため、RET遺伝学的検査が推奨されます。遺伝性が疑われる場合は、遺伝カウンセリングを受けたうえで血縁者の検査も検討します。
カルシトニンの値に異常がある場合の治療法

再検査と原因となる病気・薬剤の確認
カルシトニン軽度高値では、同じ測定法による再検査を行い、数値が持続するか確認します。腎機能、血液中のカルシウム、甲状腺疾患、喫煙歴、胃酸を抑える薬やサプリメントなども確認します。
カルシトニンの数値だけを下げる治療を行うのではなく、原因に応じて対応します。病的意義のない軽度高値であれば、定期的な検査で経過を見ることもあります。
甲状腺髄様がんに対する手術
甲状腺髄様がんが甲状腺周辺にとどまっている場合、中心となる治療は甲状腺全摘術です。病気の広がりに応じて、首のリンパ節を取り除く手術も行います。
髄様がんは一般的な甲状腺乳頭がんと異なり、放射性ヨウ素治療が効きません。手術後はカルシトニンとCEAを定期的に測定し、値の推移から残存や再発の可能性を評価します。
進行・再発した甲状腺髄様がんの治療
遠隔転移や切除できない病変があっても、すぐに薬物治療が必要とは限りません。カルシトニンやCEAの推移、画像上の増大速度、症状を踏まえて治療時期を判断します。
進行して症状がある場合には、RET阻害薬やマルチキナーゼ阻害薬などの分子標的薬、放射線治療、転移巣への局所治療が検討されます。遺伝子変化や全身状態によって選択が異なるため、甲状腺がんの専門施設で治療方針を決定します。
「カルシトニン」についてよくある質問

ここまでカルシトニンについて紹介しました。ここでは「カルシトニン」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
カルシトニン製剤にはどのような効果があるのでしょうか?
久高将太(医師)
カルシトニン製剤には破骨細胞の働きを抑える作用と鎮痛作用があり、日本では高カルシウム血症の治療や、骨粗しょう症に伴う痛みなどに注射薬として使われることがあります。
ただし、骨粗しょう症治療では、ビスホスホネート製剤やデノスマブなど、骨折予防効果がより明確に証明されている薬が選択されることが一般的です。カルシトニン製剤の必要性は、病気や症状、ほかの薬を使用できるかによって医師が総合的に判断します。
まとめカルシトニン高値は自己判断せず専門医に相談しましょう
カルシトニンは、主に甲状腺のC細胞から分泌され、破骨細胞の働きを抑えて血液中のカルシウム濃度を下げる方向に作用するホルモンです。ただし、人間のカルシウム調節ではPTHや活性型ビタミンDの働きが中心であり、カルシトニンが低くても通常は特徴的な症状が現れません。
一方、カルシトニン高値は、C細胞から発生する甲状腺髄様がんの重要な手がかりです。ただし、腎機能障害、薬剤、喫煙、測定上の問題などでも軽度高値になるため、1回の結果だけでがんと診断することはできません。
基準値は性別や測定法、施設によって異なります。高値を指摘された場合は自己判断せず、内分泌内科や甲状腺外科を受診し、再検査、甲状腺超音波検査などによる総合的な評価を受けましょう。
「カルシトニン」と関連する病気
「カルシトニン」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
甲状腺・内分泌系の病気
甲状腺髄様がん
C細胞過形成
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)
褐色細胞腫原発性副甲状腺機能亢進症
慢性腎臓病カルシトニンは甲状腺髄様がんの重要な腫瘍マーカーですが、高値だけで病名は確定できません。特にMEN2では髄様がんのほか、褐色細胞腫や副甲状腺の病気を合併するため、専門的な検査が必要です。
「カルシトニン」と関連する症状
「カルシトニン」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
首にしこりがある
首のリンパ節が腫れる
声がかすれる飲み込みにくい
水のような下痢が続く
顔や体が急に赤くなる
カルシトニン高値そのものは無症状であることが多い一方、首のしこりや声のかすれなどは甲状腺髄様がんの症状である可能性があります。症状が続く場合は、内分泌内科、甲状腺外科または耳鼻咽喉科へ相談してください。
参考文献
Felsenfeld AJ, et al. Calcitonin, the forgotten hormone: does it deserve to be forgotten? Clin Kidney J. 2015
Wells SA Jr, et al. Revised American Thyroid Association Guidelines for the Management of Medullary Thyroid Carcinoma. Thyroid. 2015
北川亘.新しいカルシトニン測定法.日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌.2017

