〈町田の立ちんぼ〉「なぜか神奈川側にしかいない?」東京と神奈川を分ける“県境ラブホ街”…夜の店経営者が語る町田駅南口の異変

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東京・町田駅のすぐ南側に広がるラブホテル街。住所を見ると、そこは東京都ではなく神奈川県相模原市だ。最近SNSでは、この一帯で客待ちをする女性をめぐり「神奈川側にしかいない」「県警が取り締まらないからでは」との投稿が拡散した。

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実際のところはどうなのか。市内で夜の飲食店を経営する男性の話をもとに、都県境にある繁華街の実情を追った。

「川を渡ったら神奈川県」町田駅南口の特殊な立地

「町田のラブホ街に立っている女性たちは、神奈川サイドにしか出没しないらしい」

そんな趣旨のXへの投稿が、SNS上で注目を集めた。

投稿ではさらに、その理由について「神奈川県警は取り締まらないから」とする話を聞いたとも記されていた。

東京の繁華街でありながら、「神奈川側」という言葉が登場するのには理由がある。

JR町田駅南口を出て数分。ラブホテルが立ち並ぶ一帯の住所は、東京都町田市ではなく、主に神奈川県相模原市南区上鶴間本町3丁目周辺だ。

実際、この地域で営業するホテル情報サイトでも、JR町田駅南口から徒歩2~3分ほどの場所に相模原市側のラブホテルが集中していることが確認できる。

町田で長年、夜の飲食店を経営する男性は、駅周辺の“県境感覚”についてこう話す。

「町田で飲んでいる人でも、あそこが神奈川県だと知らない人は結構いると思いますよ。駅から歩いてすぐですからね。飲み屋が多いのは町田側で、南口からホテルのほうに歩いていくと相模原になる。普段遊んでいるぶんには、東京とか神奈川とか意識することはまずないです」

行政区分では別の自治体、別の都県であっても、繁華街としてはほぼ一体化しているという。

では、問題の「立ちんぼ」は実際にいるのだろうか。

男性は、ホテル街周辺で客待ちをしているように見える女性を以前から目にすることがあったという。

「いますよ。ただ、新宿の大久保公園みたいに何十人も並んでいるようなイメージではないです。ホテル街の近くで一人で立っていたり、男性に声をかけている女性を見かけることはあります。町田で夜働いている人間からすると、『最近突然出てきた』という感じではないですね」

一方で、外見だけから、その人物が売春目的で客待ちをしていると断定することはできない。

売春防止法5条では、売春をする目的で公衆の目に触れるような方法で客を勧誘したり、公共の場所で客待ちをしたりする行為を処罰対象としている。現在の法定刑は6月以下の拘禁刑または2万円以下の罰金だ。

「神奈川県警が取り締まらない」は本当なのか

つまり、「路上に女性が立っている」という事実だけで違法行為になるわけではない。

男性もこう話す。

「見ただけで全部『立ちんぼだ』とは言えないですよ。待ち合わせの人だっている。ただ、夜中に同じ場所に何時間もいて、男の人と話してホテルのほうに歩いていく。それを何度も見ていれば、周りの人間は『そういうことなのかな』とは思いますよね」

そして今回、SNSで最も注目されたのが、「なぜ神奈川県側にいるのか」という点だった。

男性も、こんな話を耳にしたことがあるという。

「町田では昔から『向こうは神奈川県警だから』みたいな冗談はありますよ。警視庁と神奈川県警で管轄が変わるので、『こっちに来れば大丈夫なんじゃないか』とか。でも、本当に警察の取り締まりが緩いから女性たちが神奈川側にいるのかは、僕らには分かりません」

この点には注意が必要だ。

神奈川県警が売春目的の客待ちを「取り締まらない」という事実は確認できない。

むしろ神奈川県警は、県の迷惑行為防止条例について、歓楽街での悪質な客引きや客待ち行為を規制し、警察官による中止命令などの制度を公表している。売春類似行為を目的とする客引き・客待ちも規制対象だ。

実際、相模原市はJR町田駅南口の「環境浄化」を目的に、相模原南警察署や地域住民による防犯活動の拠点「さがみはら安全安心ステーション」を設置している。少なくとも行政資料からは、神奈川県警がこの一帯を取り締まりの“空白地帯”としている事実は確認できない。

もちろん、この条例と売春防止法上の「客待ち」は完全に同じものではない。しかし少なくとも、「神奈川県警だから取り締まらない」と一般化できる根拠はない。

それ以上に大きいのが、そもそもの街の構造だ。

町田駅南口のラブホテルの多くが、神奈川県側に集中している。

「ホテルを使う客を探すなら、ホテルの近くにいたほうが便利ですよね。町田駅の北側や繁華街の真ん中に立って、そこからわざわざホテルまで歩くより、最初から南口のホテル街にいたほうが話が早い。単純にそういう理由もあるんじゃないですか」

男性はそう話す。

つまり、「神奈川側に女性がいる」という現象が仮に事実だとしても、それだけをもって警察の取り締まり姿勢の違いが原因だとは言えない。

「東京と神奈川の境目なんて、夜の町では誰も気にしない」

新宿・歌舞伎町では近年、大久保公園周辺の「立ちんぼ」が社会問題として大きく取り上げられてきた。

一方、都心から約30キロ離れた町田にも、規模こそ違うものの、路上で客待ちをしているとみられる女性の姿がある。

そして町田特有なのが、駅を出て数分歩いただけで警察の管轄も自治体も変わるという地理だ。

「飲みに来る人からしたら町田は町田ですよ。『ここから相模原だから』なんて考えながら歩いている人はいないです。店で飲んで、駅の南口を出てホテルに向かう。その途中で東京都から神奈川県に入ったなんて気づかない人も多いと思います」

東京と神奈川。

地図の上でははっきり引かれている一本の境界線も、夜の繁華街を歩く人たちにとってはほとんど意味を持たない。

だからこそ、「県境だから取り締まりに差があるのではないか」という噂も生まれやすいのかもしれない。

ただし、現時点で確認できる事実は、町田駅南口に隣接するラブホテル街の多くが神奈川県相模原市側にあることと、客待ち行為は法律や条例による規制の対象になり得るということまでだ。

「神奈川県警が取り締まらないから、立ちんぼが神奈川県側に集まっている」――。

SNSで語られたこの因果関係については、慎重に切り分けて考える必要がある。

取材・文/集英社オンライン編集部