こんなはずじゃなかった…消防士に保険を売りまくり「月収80万円」になった27歳保険外交員、大好きな消防士と結婚した「衝撃の3年後」
家族との生活やパートナーの希望を尊重する一方で、自身が努力して築いてきた仕事や実績をどう守るかという葛藤は、多くの働く世代が直面するテーマです。ライフプランの変化に伴う収入の減少は、マネープランに大きな影響をおよぼします。消防士と結婚した保険外交員の事例を見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
大好きな消防士と結婚した保険外交員
都内の大手保険会社の営業職として働いていたユナさん。彼女が生命保険の営業職として頭角を現した背景には、自分の担当する「職域」に対する並々ならぬ情熱がありました。彼女の担当は消防署。訓練で鍛え上げられた消防士たちのマッチョな肉体美に惹かれていたのはもちろんのこと、なによりも市民のために命を懸けて働く真摯な姿勢に心から魅了されていたのです。
「この人たちの万が一を支えたい」という一心で消防特有の保障ニーズを徹底的に研究し、紹介や飛び込みで契約を連発。27歳にして月収80万円を叩き出す優秀な生命保険外交員へと上り詰めました。
仕事が絶好調だったユナさんは、営業先で出会った3歳年下の消防士・ハヤトさん(当時24歳)と恋に落ち、結婚。2人の結婚式には、夫の同僚や、ユナさんの消防士のお客さんも参列してくれ、お色直しの際に夫の礼服で写真を撮ることができ、ユナさんは幸せの絶頂にいました。
しかし、新婚生活を始めてまもなく、ハヤトさんから思いもよらない相談を持ちかけられます。
「27歳になる前に地元の消防採用試験を受け直して、地元に帰りたいんだ」
ハヤトさんの地元の消防採用には「27歳未満」という年齢制限があり、チャンスはハヤトさんが27歳になるまでの3年以内。「母子家庭で育ったため、母親が高齢になったときになにかあったらすぐ駆けつけられる場所にいたい」というのがハヤトさんの考えでした。
しかし、ハヤトさんの地元にはハヤトさんの姉と妹がすでに住んでおり、万が一の際にも動ける家族が揃っています。一方、ユナさんには現在暮らす東京で築いた月収80万円の顧客基盤とキャリアがあり、実家の両親も近くにいて将来の子育て環境も万全。友達もみんな東京にいます。ハヤトさんの地元へ行けば、これらをすべて捨てて一から出直さなければなりません。
「一緒に行かないなら別れるしかないのか……。でも、お互い好きなのに別れたくない」
ハヤトさんから「一緒に来てほしい」と説得され、苦悩の末にユナさんが出した結論は、「自分のキャリアを捨てて、夫の地元へついていく」という道でした。
--そして3年後。
30歳になったユナさんの姿は、見知らぬ県にありました。ハヤトさんは無事に地元の消防への転職を果たし、念願だった母親の近くでの生活を手に入れました。
しかし、ユナさんを待ち受けていたのは苦労の毎日でした。かつて培った顧客ネットワークから、引っ越し先の営業先の繋がりはかなり少なく、地方の未経験の土地で一から営業活動を始めるも、以前のような収入には遠くおよびません。現在は、手探りでキャリアを積み直す日々に追われています。
大好きな夫と暮らす生活と引き換えに、自慢だったキャリアも、大好きな職域も、実両親のサポートも、自分自身の高所得も失ってしまったユナさん。「こんなはずじゃなかったんだけどな……」タンスの奥に仕舞い込んだ過去の給与明細を眺めながらも、なんとか前向きに生きなければと自分を奮い立たせています。
キャリアリセットの現実
配偶者の転職や移住に伴い、それまで築き上げた顧客基盤や職域を捨てて「キャリアをゼロから積み直す」選択は、世帯全体の経済構造に長期的な影響をおよぼします。
内閣府の『男女共同参画白書』によれば、現在の日本では共働き世帯が全体の7割を超えて主流となっています。しかし、夫婦ともに働き続けていても、移住や転職、病気や怪我、妊娠などをきっかけにどちらか一方の「稼ぐ力」が一時的・長期的にダウンしてしまうと、世帯収入のバランスは大きく崩れます。
さらに、労働政策研究・研修機構(JILPT)の『ユースフル労働統計』の推計データを見ると、大学卒の女性が正社員として順調にキャリアを伸ばし続けた場合の生涯賃金に対し、途中で地域移動や職場変更を挟み、一時的に収入が減少した状態で推移した場合では、生涯獲得賃金に一定の開きが生じます。営業職のように個人の対人スキルや開拓能力といった「ポータブルスキル」が問われる職種であっても、地縁のない環境で以前と同等の収入水準まで回復させるには相応の時間と労力を要するのが実態です。
こうしたマクロなデータだけを見ると、「一度キャリアをリセットすることによる経済的損失」ばかりが目立ってしまいます。しかし、ユナさんの決断を単なる「損失」として片付けることはできません。なぜなら彼女は働くことを諦めず、縁もゆかりもない土地で、泥臭く新規開拓に挑み続けているからです。
20代半ばで「月収80万円」を稼ぎ出した実績は、決して偶然や運ではありません。それは彼女自身の卓越した対人スキルや行動力、そして努力の賜物です。働く場所や顧客基盤が変わったとしても、彼女に培われた能力の根幹が失われたわけではありません。一時的な収入減という厳しい現実に直面しながらも、逃げずに立ち向かう彼女の姿勢は、非常に尊いものです。
ライフプランの変化に伴うキャリアの一時的なリセットや収入変動は、個人の努力だけでなく世帯全体の経済設計にも直結するテーマといえるでしょう。
過去の実績や収入水準に過度に縛られることなく、変化した環境のなかで新しい働き方と世帯の基盤をいかに再構築していくかという柔軟性こそが、人生の転機を乗り越えるための現実的な鍵となります。

