「矯正で歯を抜きたくない」は正しい? 『抜歯・非抜歯』の判断基準を歯科医が解説

矯正治療の抜歯は、あごの骨に歯を正しく収めたり、口元を後ろに下げたりするために行われます。正しい診断に基づく抜歯であれば明確なデメリットはほぼなく、歯列が整うことで見た目だけでなく発音やかみ合わせも向上する可能性もあります。抜く歯は「なるべく健康で長持ちする歯を残す」「治療が早く確実に進む」の2点を軸に、患者さんの希望と併せて選ばれます。判断に迷うときは、セカンドオピニオンを求める方法もあります。抜歯・非抜歯の判断基準と歯科医院選びのポイントを、ごとう歯科・矯正歯科クリニック院長の後藤先生に解説してもらいました。

※2026年7月取材。

監修歯科医師:
後藤 安史(ごとう歯科・矯正歯科クリニック)

東北大学歯学部卒業。同大学大学院、矯正歯科医院などでの研鑽(けんさん)を経たのち、「ごとう歯科・矯正歯科クリニック」を開設。一般歯科診療から矯正治療、インプラント治療まで幅広く対応し、「将来の健康のために今すべき治療は何か」を大切にした包括的な歯科診療を提供している。日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医。

矯正治療で歯を抜くのはなぜ? 抜歯・非抜歯の判断基準

編集部

そもそも、矯正治療で歯を抜く必要があるのはなぜですか?

後藤先生

一番の理由は、歯をあごの骨の正しい位置に収めるためです。あごが狭いのに無理やりすべての歯を並べようとすると、歯が極端に外や内へ倒れてしまい、歯やあごの骨に無理な負担がかかってしまいます。そのため、歯が並びきらない場合は抜歯でスペースを確保します。また、口元を後ろに下げたい場合も、抜歯しないと思うような変化が表れにくいため、費用や期間の面から見ても抜歯をしたほうがスムーズによい効果を得やすいといえます。

編集部

抜歯するかどうかは、どのような基準で判断されるのでしょうか?

後藤先生

まず大前提として、患者さんの希望を確認することが欠かせません。「絶対に抜きたくない」という人であれば、歯を削るなど別の方法を検討する必要があります。この前提を合わせたうえで、あごと歯の大きさのバランス、口元の出具合、かみ合わせなどを総合的に診て、抜歯か非抜歯かを判断します。患者さんが「一番効果的な治療をしてほしい」という希望で、抜いたほうが確実なケースでは抜歯を提案します。一方で、「歯を抜かずに口元を大きく下げたい」といった希望は、物理的に不可能なケースがほとんどのため、対応が難しくなります。

編集部

抜歯が必要と診断された場合、具体的にどの歯を抜くのでしょうか?

後藤先生

歯科医師が重視するポイントは、「なるべく健康で長持ちする歯を残す(神経がない歯などを優先して抜く)」と「治療が早く確実に進む歯を抜く」の2点です。一方で、「時間がかかってもきれいな歯を残したい」「早く終わることを優先したい」など、患者さんごとに希望や考え方は異なります。そのため、抜くかどうかの判断も含め歯科医師から複数の選択肢を提示し、患者さんと相談しながら決めていきます。

「抜くか・抜かないか」で悩む前に考えておきたいこと

編集部

矯正治療で歯を抜く場合、将来的なリスクも含めてデメリットはないのでしょうか?

後藤先生

正しい診断に基づいた抜歯であれば、明確なデメリットはないといっていいでしょう。無理なく並べられるなら抜かないのが一番ですが、正しく噛めていない歯をただ残しても機能面での意味はありません。抜歯をして歯列を整えれば、見た目だけでなく発音やかみ合わせの向上も期待できます。このメリットの大きさを考えれば、歯を1本失うデメリットは実質的にないと考えています。

編集部

「抜歯と非抜歯、どちらがよいか」という基準で考えてしまいがちですが、そうではないということですね。

後藤先生

そのとおりです。矯正の本来の目的は、正しい力がかかるかみ合わせを作り、歯を長持ちさせることです。この機能的な基盤をしっかり確立すれば、自然と見た目の印象も整い、手入れもしやすくなります。従って、「抜歯か非抜歯か」という表面的な切り口だけで判断しないことが大切です。「矯正治療は見た目を変えることだけが目的ではない」という点をまずは理解してもらえたらと思います。

編集部

機能面(かみ合わせ)の問題がクリアできるケースであれば、抜歯と非抜歯のどちらを選んでも最終的な仕上がりに違いはないのでしょうか?

後藤先生

血液検査の正常値のように、どちらを選んでも正常なかみ合わせの範囲に収められるケースはありますが、同じ正常範囲でも得られる変化は大きく異なります。従って、患者さんが「ど真ん中の理想」を求めるか、「ギリギリの範囲でも十分」と考えるかによって選ぶ手段も変わるわけです。「抜かない場合はここまで、抜くならここまで変化を出せる」とそれぞれの限界が異なるため、最終的に患者さんがどこで満足するかがカギになります。

編集部

つまり、抜く・抜かないを決める前に、まず患者自身が「どこまで変化を求めたいか」を明確にする必要があるのですね。

後藤先生

はい、そこが一番のポイントです。「先生のいいようにしてください」ではなく、まずは患者さん自身が目指すゴールをしっかり決めるところから始まります。もしそのゴールが医学的に難しければ、「このくらいなら可能ですがどうしますか?」と現実的なゴールを提案できます。つまり、患者さんが納得して目標地点が確定して初めて、そこへ向かう近道を示せるわけです。歯科医師はあくまで最適なルートを案内する立場なので、まずは「どこへ行きたいのか」を自分自身で決めてもらうことが大切です。

歯科医院選び・セカンドオピニオンで確認したいポイント

編集部

矯正治療で後悔しないために、歯科医院選びでまず確認しておきたいポイントは何ですか?

後藤先生

まずはホームページなどをしっかり読み込み、どんな歯科医師が担当するのか、そのバックグラウンドを知ることから始めましょう。矯正治療中は、装置が外れるなどの予期せぬトラブルが起こることもあります。その際、担当医が月に数回しか来ない体制だと、すぐに対応してもらえないことも少なくありません。そのため、専門的な知識を持つ日本矯正歯科学会の認定医などが「常にいる環境かどうか」は、安心して治療を進めるための重要なポイントになります。

編集部

技術や体制以外に、重視すべきポイントはありますか?

後藤先生

担当医との相性や、信頼関係を築けるかどうかも非常に重要です。矯正治療は3年、4年と数年単位の長い付き合いになります。「この先生の説明は納得できる」「疑問を気軽に相談できる」というベースがないと、治療はスムーズに進みません。お互いの性格は変えられないため、少しでも不信感があったり、ゴールが定まっていなかったりする状態なら、無理に始めるべきではないと考えます。自身が「この人なら長く付き合える」と心から思える歯科医師を選ぶことが、後悔しない秘訣(ひけつ)だと思います。

編集部

抜歯の判断に迷うとき、セカンドオピニオンは受けてもよいのでしょうか?

後藤先生

ぜひ受けることをおすすめします。ただし相談先は、日本矯正歯科学会の認定医などが在籍する歯科医院を選ぶことがポイントです。専門的な知見が少ない歯科医師の場合、独自の判断からまったく違う提案をされ、患者さんが混乱してしまうことがあります。一方で、認定医同士であればベースとなる診断基準が共通しているため、意見が大きく割れることは少なく、セカンドオピニオンが確かな安心材料になります。迷いをなくすためにも、専門的な知識と経験がある歯科医師に相談しましょう。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

後藤先生

ここまでいろいろと話してきましたが、皆さんが一番心配しているのは「本当に歯を抜いていいのか」という点だと思います。もちろん抜かないことが基本ですが、とはいえ無理に歯を残して全体に負担がかかっては本末転倒です。近年はメンテナンス意識が高まり、8020運動(80歳で20本以上の歯を残すことを目標とした運動)の達成率も6割を超えています。仮に抜歯で本数が減っても、治療後にしっかりケアを続ければ、一生自分の歯で噛むことは十分に可能です。だからこそ「抜く・抜かない」の2択に過剰にこだわらず、正しい機能を手に入れるための最善の選択をしてほしいと思います。

編集部まとめ

矯正治療において、正しい診断に基づく抜歯にはデメリットはほぼなく、かみ合わせや見た目の改善につながる前向きな選択であることが分かりました。大切なのは、「抜くか・抜かないか」ではなく、自分が目指すゴールを明確にしたうえで、そこへの最善のルートを歯科医師と一緒に見つけていくことです。判断に迷う場合は、日本矯正歯科学会の認定医以上の歯科医師にセカンドオピニオンを求めることも検討してみましょう。

医院情報

ごとう歯科・矯正歯科クリニック ■ 診療科目
・山形県山形市旅篭町3丁目3-45:一般歯科、矯正歯科、予防歯科、小児歯科、口腔外科、審美歯科、かみ合わせ治療
■ 診療時間
・山形県山形市旅篭町3丁目3-45:午前: 月火水金土8:30~13:00
午後: 月火水金14:00~18:00土14:00~16:00
■ 休診日
・山形県山形市旅篭町3丁目3-45:木・日・祝

023-642-1818

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