線状降水帯「警報出てから逃げる」では“遅すぎる”…予測から発生まで「平均63分」、寝る前の自主避難が命守るワケ
8月13日午後、千葉県で線状降水帯が発生し、千葉市など22市町にレベル5大雨特別警報が発表された。線状降水帯は一晩に3回発生し、千葉市では8月ひと月分の3倍を超える雨量を記録。被害の中心は、川の氾濫ではなく、排水が追いつかない内水氾濫だった。
2週間後の8月27日には富山・石川両県で線状降水帯が相次いで発生。富山県氷見市と石川県羽咋(はくい)市では12時間雨量が300ミリを超え、観測史上1位を更新した。
さらに2日後の8月29日夜から福井県でも大雨となり、22の河川が氾濫。こちらも観測史上1位の雨量を更新する地点が相次いだ。この大雨については線状降水帯の発生は確認されていない。
そして9月8日には愛知・岐阜両県で線状降水帯が発生。名古屋市では1時間に104.5ミリの猛烈な雨を観測し、2000年の東海豪雨を上回る観測史上1位の記録となった。庄内川には一時、レベル5の氾濫特別警報が発表されている。
ひと月足らずの間に、これだけの豪雨災害が各地で繰り返された。線状降水帯の有無にかかわらず、いずれも「突然の大雨」だったという点は共通している。(島崎敢(近畿大学教授・安全心理学))
「線状降水帯」予測の限界夏の激しい雨を降らせる積乱雲は、雨を降らせてしまえば力を失う。通常20~30分で通り過ぎるため、夕立は激しくても一時的だ。
しかし線状降水帯は、次々と積乱雲が発生・発達し、帯状に雲の列ができる現象である。その列が数時間にわたって同じ場所にかかり続けるため、極めて大きな災害リスクを生む。
地球温暖化の影響で、こうした豪雨は増加傾向にある。気象研究所の調査によれば、1976年からの45年間で3時間130ミリ以上という激しい雨の回数は全国で約2.2倍、特に7月は約3.8倍に増えている。
これを受けて気象庁は2022年6月から、「線状降水帯予測情報」の発表を開始。さらに今年5月末からは「線状降水帯直前予測」という情報発信も始めた。これは3時間以内に線状降水帯が発生する危険性が高まったときに発表される。
現状の適中率は3割程度で、報道やインターネット等ではこの予測について、「アテにならない」と批判が集まる。しかし、ここは少し丁寧に見ておきたい。
予測の精度には、「適中率」と「捕捉率」という2つの指標があるからだ。
●適中率--予測を発表後、実際に線状降水帯が発生した割合。今年の適中率は31%。情報を出したのに、線状降水帯ができなかった場合「空振り」となる。
●捕捉率--発生した線状降水帯のうち、事前に予測できた割合。情報がなかったのに、線状降水帯ができた場合「見逃し」ていたことになる。実際の捕捉率のデータは現時点では公表されていないが、気象庁の想定は8割程度。
このうち「アテにならない」と批判されたのは前者だった。7割近くが「空振り」ではないか、という論調である。だが、命を守るという観点で考えれば「空振り」よりも「見逃し」の方が問題だ。空振りは、避難が無駄になるだけだが、予測なしで発生すれば(気象庁が見逃せば)、対処のしようがないからだ。
なお、この2つは、トレードオフの関係にあり、見逃しを減らそうとすれば、空振りは増える。予測技術の高さも関係するが、どちらを重視するかという“決め”の問題でもある。
たとえば気象庁は、「適中率」を犠牲にして「捕捉率」に振り切った情報も出している。それがホームページで常時公開されている「線状降水帯予測マップ」だ。3時間以内に線状降水帯による大雨のおそれがある領域を、20キロ四方の赤いマスで示している。こちらは捕捉率ほぼ100%を達成する一方、適中率は1割程度(空振りが9割)とされている。
予測のもう一つの課題は「時間」だ。
台風のように数日間続く巨大な現象は、何日も前から進路を予測できる。一方、数時間で消える線状降水帯は、発生の半日前に「○○県で発生の可能性」とわかるのが精一杯で、市町村レベルで場所を特定できるのは直前である。
気象庁の「線状降水帯直前予測」が発表されてから、実際に線状降水帯が発生するまでの時間は、平均で63分。つまり正確な情報を得られるのは、危険が迫るわずか1時間前であり、これが現在の技術の限界なのである。
テレビが報じても、避難には間に合わない線状降水帯に関する3つの特徴が出てきた。「予測精度が上げにくいこと」「直前にならないと正確な場所がわからないこと」「影響範囲が狭いこと」である。
この3つを、台風と並べてみるとわかりやすい。
台風は、早ければ1週間以上前から日本にやってくることがわかり、遅くとも前日には、どの地域で被害が出そうかまでかなり正確に絞れる。大きさも、線状降水帯がおおよそ都道府県ひとつ分程度で起きる現象であるのに対し、大型の台風なら強風域だけで日本の国土の2倍にあたる80万平方キロに達する。
線状降水帯がニュースで大きく扱われにくい理由も、こうした特性にある。
広範囲に影響し、進路予報もそれなりに当たる台風は、視聴者の多くにとっても自分ごとになり得るため、放送で繰り返し報じられる。一方の線状降水帯は、影響範囲が狭く、短時間で終わり、直前まで予測が困難で、大きなニュースになりにくい。報道が本格化するのは、多くの場合、線状降水帯が発生して被害が見え始めてからだ。つまり、テレビが大きく伝えている時点では、危険はすでに目の前まで来ている。
これは視聴者の大半に関係しない情報に時間を割けない、マスメディアの限界とも言える。
しかし、情報がないわけではない。気象庁は視聴率とも番組編成とも無関係に、ホームページ上で一次情報を発信し続けている。半日前の注意喚起や、危険度分布「キキクル」など、重要な情報は常に公開されている。
問題は、情報が必要な人に「届けられていない」ことだ。だからこそ、危険な場所に住んでいる人は、自ら情報を取りに行く必要がある。
さらに、線状降水帯は夜間から明け方に発生しやすい。気象庁の分析では、およそ半数が深夜0時から朝8時台に集中している。
報道が始まる頃には、眠っているかもしれない。目が覚めた時には、すでに周囲が浸水し、逃げ場を失っている可能性もある。
8月29日の福井県の事例がそれを示している。21時に高速道路が通行止めになり、深夜から未明にかけて次々と河川が氾濫。大雨特別警報が発表された朝4時半には、すでに4本の川があふれ、道路の通行止めは10か所を超えていた。
この時刻に携帯の警報で起こされたとしても、できることは限られる。気象庁も「特別警報が発表されてから避難するのでは手遅れ」と明言している。
では、あなたはどう備えるべきか。やるべきことは「平時の備え」と「当日の行動」の2つに分かれる。
必要な「平時の備え」と「当日の行動」普段からやっておくべきことは3つある。
①自宅のリスクを知る
自分の家が浸水するのか、するなら深さは何メートルか。ハザードマップで確認する。洪水・内水氾濫・土砂災害はそれぞれマップが異なるため、国土地理院の「重ねるハザードマップ」が便利だ。ただし、内水氾濫のデータは、一部の自治体しか公開していない。地図に色が付かなくても、データがないだけかもしれないので、必ず自治体の公式サイトで確認してほしい。
②家財などの移動
浸水の可能性がある地域に住んでいる人は、大事なものを2階などより高い場所へ移動させておく。雨が降り始めてからでは間に合わない。
③避難ルートを決める
避難では原則として「上」へ向かう。途中に低い場所を通るルートは、浸水後には使えない。自宅から安全な高台まで、上り坂だけで行けるか。一度低い土地を通らなければならないか。ルートの難しさによって、避難を開始すべきタイミングを決める。
避難先は公的な避難所だけではない。安全な地域の親戚・友人宅、ホテル、あるいは高台での車中待機も選択肢だ。避難の目的は命を守ることであり、避難所へ行くことではない。
日本語では「避難所」と「避難場所」が似た言葉だが、役割は違う。避難所は英語でいうshelterで、危機が去ったあと、家が使えなくなった人が生活する場所である。これに対して、命の危険から逃れるために移る場所はevacuation area、日本語では「避難場所」という。同じ施設が両方を兼ねていることも多いが、避難場所は災害の種類ごとに指定されている。地震では使えても水害では使えない場所がある、ということは念頭に置いておきたい。
大雨の予報が出た日にやることは、ただ一つだ。
危険な場所に住んでいるなら、就寝前に必ず自分で気象情報を確認する。気象庁のホームページで、線状降水帯の半日前予測が出ていないか、キキクルで危険度が高まっていないかを見る。誰かが教えてくれるのを待っていては、手遅れになる。
そして、少しでも危険を感じたら、迷わず明るいうちに安全な場所へ避難する。
「空振り」を責めても仕方がない結果的に「空振り」でも、命を守るためなので仕方がないと割り切ることだ。
むしろ気をつけたいのは、予測情報が出る機会が増えるほど、私たちが「空振り」を目にする回数も増える点だ。外れを何度も経験すると、人は次第にその情報を軽く扱うようになる。だが、慣れて動かなかった一回が、たまたま「当たり」だったとき、取り返しはつかない。
夜間や豪雨の中での避難は極めて危険だ。道路は冠水し、視界も奪われる。ある時点を過ぎれば、避難するリスクがその場にとどまるリスクを上回る。気象庁が「明るいうちからの早めの避難を」と繰り返し呼びかけるのは、このためである。
警報や特別警報を待っていては遅い。福井の例では、特別警報の4時間も前から道路は寸断されていた。早く動いて困ることは何もない。
予測技術は、今後も進歩するだろう。しかし、線状降水帯という現象の性質上、予測のリードタイムが数時間から数日に劇的に伸びることは考えにくい。
情報は、自ら取りに行くものだ。テレビが伝えてくれるのは、たいてい危険が始まってから。携帯の警報が鳴った時には、もう手遅れかもしれない。警報を待つのは、自分の命の判断を他人に委ねることだ。危険な場所に住んでいるなら、どうか自ら情報を集め、早めの判断と行動を心がけてほしい。
■島崎 敢
1976年東京都生まれ。早稲田大学大学院にて博士(人間科学)取得。同大助手、助教、防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学特任准教授、近畿大学准教授を経て、近畿大学教授。元トラックドライバー。全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など、多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者。著書に「心配学~本当の確率となぜずれる~」(光文社)等があり、学術的知見を現場へ還元する実践の場として、トラックドライバー応援Podcast「プロフェッショナルドライブ」を配信中。

