差し押さえでは預金も狙われる(白熊 / PIXTA)※写真はイメージ

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税金を滞納すると、税務署はまず督促状を送り、次いで電話、そして訪問を行い、支払いを促す。

それでも支払われなかった場合、財産の「差し押さえ」を行う。財産の中でも特に重要なのが、銀行預金である。

銀行預金については、税務署員が銀行を訪問し「銀行調査証」を提示すれば、銀行は差し押さえに協力する義務を負う。

しかし、預金に残高があるとは限らない。もしあったとしても、滞納者には他にも複数の債権者がいることが多い。その場合、いかに他の債権者より早く預金を差し押さえるかが重要になる。(本文・大蔵主税)

※この記事は、税務署一筋30年の大蔵主税氏の書籍『税務署員うつうつ日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋・構成しています。

税務署の異動は2~4年周期

私は、A税務署に新人として配属されてから4年目の6月下旬、「N税務署へ異動」という内辞を受けた。税務署における異動はおおむね2~4年周期で行われる。特定の部署や地域に長く居続けることによる癒着や慣れを防ぐためでもあり、また職員に幅広い経験を積ませる意味もある。つまり、勤務4年目となった私にとって想定どおりの内示だった。

A税務署を離れる実感はあまりなかった。異動の内辞を受けたことで引っ越しの準備が必要になったが、独身の私は、抱える荷物も人間関係も最小限で済む。ダンボールに生活必需品を詰め込めば、それで次の場所へ移れる気軽さがあった。環境が変わることへの不安よりも、新しい土地での暮らしや仕事への期待が大きかった。どこか旅に出る前の高揚にも似た感覚があった。

新たな任地となったN税務署は、それまで勤務していたA税務署とほぼ同規模の中規模署だった。職員の人数、日々の業務量まで大きな違いはなく、配属先も引き続き徴収部門で、担当する職務内容もA税務署時代とほとんど変わらない。やるべきことはすでに体に染みついていた。

滞納者からどう回収するのか

ある日、机の上に置きっぱなしになっていた「滞納処分票」に目が留まった。個人事業主のAK氏。ここ数年、納付実績がなく、気がつけば滞納額は380万円にまで膨らんでいる。

督促状、電話、訪問と、すでにこちらが取り得る手はひと通り尽くした。自宅アパートにも足を運んだが、差し押さえられるような動産は見当たらない。こうなると残る手段は限られてくる。預金だ。

AKさんがこの地方のT銀行に口座を持っていることは過去の調査や本人とのやりとりの中で把握している。ここを押さえるしかない。

私はカバンに銀行調査証と差押調書の様式を入れ、署を出た。

税務署員と銀行のやり取り

昼すぎ、T銀行の支店に入る。冷房の効いたロビーには順番待ちの客が並び、外の蒸し暑さが噓のようだった。私は窓口へ進み、名刺を差し出す。

「N税務署徴収部門の大蔵と申します。調査をお願いしたいのですが」

窓口の女性行員は「少々お待ちください」と言って奥へ消えた。「税務署」「調査」という言葉だけでこちらの意図は伝わる。しばらくしてスーツ姿の男性が現れた。

「お待たせしました。こちらへどうぞ」応接室に通される。

「課長代理のSです」

名刺交換を済ませ、私は銀行調査証を提示した。これを示せば、銀行は法的に協力義務を負う。

「AKさんの取引状況を確認させてください。現在の残高と、直近1年の入出金履歴をお願いします」

「承知しました」それだけ言うと、S課長代理は席を立った。無駄な会話は一切なく、表情も変えない。銀行という組織ではこういう人物が評価されるのだろう。情を挟まず、ルールに従って処理する--ある意味、徴収の仕事と似ている。

10分ほどして戻ってきたS課長代理から資料を受け取り、数字を追う。そこにはAKさんの生活がそのまま並んでいた。毎月ある企業から50万円の入金があるものの、その翌日にはほぼ全額が引き出されている。

「なかなかきれいに抜かれてますね」

独り言のように漏らすが、S課長代理は何も反応しない。

口座に残っているのは10万円弱。ゼロというケースも珍しくないことを思えば、まだ残っていただけマシかもしれない。

差し押さえの手続き

「この普通預金10万円を差し押さえます。調書を作成します」

「承知しました」淡々とした応答。私はその場で差押調書を作成し、交付する。効力はこの瞬間に発生する。

「本日中に取り立てまで行います」

「はい。小切手を用意しますので少々お待ちください」

15分後、差し出された小切手を受け取り、受取書を渡す。

「ご協力ありがとうございました」

「いえ、職務ですので」

最後まで温度のないやりとりを終え、銀行を出るとむっとした外気が体を包む。

10万円。380万円に対しては焼け石に水だが、それでもゼロではない。署に帰ってからも上司である統括官に顔向けできる。徴収現場ではこの差が大きい。

滞納者の背後には、複数の債権者がいることが多い。地方税、社会保険料、公共料金、家賃、ローン、消費者金融--あらゆる支払いが滞り、いわば取り合いの状態になる。そこには絶対的な優先順位はなく、先に動いた者が取る。

とくにこのところ社会保険側の動きが早い。機械的に差し押さえをかけられ、気づけば口座が空ということもある。

「負けてられんよな」小さくつぶやきながら、署へ戻る。

小切手の受入処理を済ませ、AKさん宛ての通知書を作成する。差押通知書と取立金充当通知書。事務的な書類が届いた瞬間、初めてAKさんは現実を知ることになるのだ。

■大蔵主税(おおくら・ちから)
税務署員。
1970年代生まれ。大学卒業後、国税専門官に合格し某国税局に採用され、以後30数年税務署に勤務。その間、転勤8回(某国税局管内の税務署を異動してまわる)担当事務は、徴収→法人課税(税務調査あり)→管理運営(窓口業務あり)30代でうつ病になり、3か月の休職を2回経験。