月数万円の化粧品代が数百円に!稲垣えみ子がインドの伝統からヒントを得た「天然の美容グッズ」を試してみたら…
都内で夫なし、子なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしのフリーランス生活を送る、元新聞記者の稲垣えみ子さん。50歳で会社を辞めたことをきっかけに「買わない生活」をはじめた稲垣さんは「私は『買わない』ことですべてを手に入れたのだ」と語ります。そこで今回は稲垣さんのエッセイ『買わない生活』より一部を抜粋してお届けします。
【イラスト】稲垣えみ子さん「コスメよ永遠にさようなら。私の美容法」
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必須メンバーの基礎化粧品
化粧品というものに馴染んだ方ならわかっていただけるかと思うが、「大人のお肌」というものは、基礎化粧品なくしては成り立たないのである。歳を重ねるにつれシミだのシワだの肌のトラブルは増える一方。故に小金を持った女の基礎化粧品は年を重ねるごとに充実の一途をたどっていくものなのである。
潤い成分たっぷりのクレンジングミルク、化粧水、乳液、クリーム、さらには美容液、パック、アイクリーム、ボディクリーム……などなど、これがさらに朝用、夜用などに分かれていったりして、我が基礎化粧品はとどまるところを知らぬ勢いで増え続けた。そしてこの金に糸目をつけぬ莫大な投資の甲斐あって、私のお肌はなんとかシワもシミもそこそこ阻止しつつ中年期に突入。私はそのことを密やかな誇りとしていたのである。
つまりはこのずらりと充実した基礎化粧品のラインナップは、我が貴重なプライドを形成する必須メンバーだったのだ。
それが……入らない。置く場所がまったくない!
「ガッサガサのお肌」への転身?
あまりのことに私はしばし混乱し、呆然とした。だって、ってことはこれから私、お肌のお手入れをせずに生きていくってこと? 長年の奮闘努力の甲斐あってツヤらしきものをキープしてきたつもりの肌から、いきなりガッサガサのお肌への転身?
……って、そんな転身していいのか?いやいやいいわけないでしょ。それは洋服を減らすことをはるかに超えた大転換ではないか。って言うか、それはどう考えてもやってはいけない大転換なんじゃないのか。ものを減らしてシンプルに生きていくってのはいい。どことなくカッコイイ人のような気もする。でも「お肌にまったく構わない人」ってことになると話は別だ。

『買わない生活』(著:稲垣えみ子/東洋経済新報社)
いやはやまさかこんなことになるとは。だ。会社を辞めることで収入が減り、小さな家に引っ越す覚悟はできていたつもりだった。でもまさか引っ越したくらいで、自分のお肌というかけがえのないものまで犠牲にしなければならないなどとは考えてもみなかった。
しかし入らないものはどうしようもない。なんとかこの極小の鏡裏のスペースに入るものだけで、少なくとも「ガッサガサじゃないお肌」でいることはできないものだろうか?
気を取り直して懸命に調べる。すると広い世の中にはいろいろな人がいるもので、すでにそのようなことに挑戦している方々は探せばちゃんと見つかったのである。
「天然の美容グッズ」を手作りしてみた
私が頼りにしたのは「自然療法」の本であった。身近な食べ物を使って体のさまざまな不調を治す知恵があれこれ書いてあり、面白いのと案外実用的なので、会社員時代から愛読していた本である。で、確か「美容」についても書いてあったような……と思い出して改めてページをめくってみたら、ありました! 「食べ物を利用して、防腐剤も環境ホルモンの心配もない、天然の美容グッズを手作りしてみては?」
紹介されていたのは手作りの化粧水と美容オイル。化粧水は日本酒に青梅を漬け込みグリセリンを混ぜて完成。美容オイルはごま油にレモン汁と生姜汁を混ぜる。なるほどそんな方法があるんだね。
ってことで、それを参考にアレンジしてみることにした。
化粧水は、日本酒に柚子の種を漬け込んで作ることに。以前にも一度作ったことがあり、柚子の種からトロトロ成分が出てしっとりした液体ができた。あれならグリセリンなど買わずともそのまま使えそうだ。
そしてオイルは、会社員時代に行ったスリランカ旅行で体験したアーユルヴェーダ(インド・スリランカの5000年以上の伝統を持つ健康法)で知った「ごま油のマッサージ」を採用することに。毎朝、ごま油で全身をマッサージした後にシャワーで油を流すことで、体の毒を排出する効果があるというのである。これならレモン汁など搾らずともごま油をそのまま使えるし、洗い流すのでベタつき問題もない。っていうか正確に言うとわが家はガス契約をしていないのでシャワーがなく、濡れタオルで拭き取ることにした。
ということで、我が大量のフランス製高級基礎化粧品シリーズは降板となり、時代をピャーッと何百年、何千年も遡り、この「日本酒、柚子の種、ごま油」ですべてを済ませることになったのである。
で、どうなったか。
結論から言おう。「何の変化もなかった」のである。
あれからほぼ10年経つが、肌が乾くこともないし、シワが登場することもまったくない。
いや……ひとこと言ってもいいでしょうか。
あの高級基礎化粧品シリーズは、一体何だったんだー!!
月に何万円もの化粧品代が一気に数百円レベルに
……いや、ここは一旦冷静になろう。だってどう考えても、あの日本中のデパートの1階を埋め尽くすキラキラした化粧品売り場が、まったく意味のないものを売っているなどということがあるはずがないではないか。いや、あってほしくない。そこには必ずや、ちゃんとした意味があるはずだ。
きっと以下のようなことなのではないでしょうか。
化粧品というものは、そもそも「塗る」ところから出発する。ファンデーションとか口紅とかね。で、塗ったものは取らなくちゃいけない。そうじゃないとお肌を傷めちゃいますから。なのでクレンジング剤を使ってシッカリ取る。
そうすると、確かに余分なものは取れるが、勢い余って潤いも取れてしまう。というわけで、その潤いを補給するために乳液やらクリームやらさまざまな製品を塗らねばならぬ。
その結果、塗る→取る→取りすぎる→塗る→取る→取りすぎる……というメビウスの輪のような永遠の循環が生まれる。その循環を華麗に司るのが、あのキラキラした化粧品売り場の重要な役目なのでありましょう。
で、私はその永遠の循環をひょいと外れてしまったのだ。そもそも、何も塗らない。塗らなければ取る必要もないのである。水で顔を洗ってハイ終わり。取らなければ塗る必要もない。
このように、そもそも何もしなければ、お肌はちゃんと乾かないようにできているということを、私は人生で初めて知ったのでありました。
ってことで、今や「ゆずの種化粧水」もやめてしまった。本当に取らなきゃ塗る必要なんてなかったんである。我が化粧品はごま油のみ。近所の米屋で買う1本700円ちょっとの太白ごま油。これを一旦100度まで熱して冷ましたものを、毎朝大さじ1杯くらい使って全身をマッサージしてタオルでぬぐう。以上で終了である。あとはナーンにも塗らずとも乾くことはまったくない。
ついでにお金のことを言いますと、ごま油1本で2カ月は余裕でもつ。つまりは月に何万円も使っていた化粧品代は一気に数百円レベルとなった。
ちなみに私が参考にしたアーユルヴェーダの本によれば、このマッサージをするとその分だけ「若返る」そうだ。1年やれば1年若返り、10年やれば10年若返る。ってことは私、50歳でこれを始めたから今の肌年齢は40歳らしい。
シワができなくて当然なのでありました(ハート)
※本稿は、『買わない生活』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

