「サイバー捜査のエース」が捜査費170万円で不倫相手とデート…低レベルすぎる不祥事に「サイバー警察局の焦りも影響したのでは」
警察庁でサイバー捜査課長を務めた伊貝耕元警視長(55)=懲戒免職=が、捜査費約170万円を私的流用していたことが発覚。詐欺などの容疑で警視庁に書類送検された。
【写真を見る】専門性の高さという“閉鎖性”が産んだ佐賀県警の事件
警察OBは「警視総監、警視監に次ぐ階級にある警察幹部が、目先の170万円でキャリアを棒に振った。しかも今、まさに全国警察が全力を挙げているサイバー犯罪捜査の先頭を走っていた警察の顔だったのに……」と絶句する。警察関係者は「2つの問題が重なった結果の悲劇だ」と指摘。事件の背景には、何があったのか。
3代目のサイバー捜査課長
まず事件の概要をおさらいする。伊貝氏は警察庁サイバー警察局からの長期出向者として、2022年6月から欧州刑事警察機構(ユーロポール)の本部(オランダ・ハーグ)へ派遣され、25年9月に駐在連絡官(リエゾン・オフィサー)を終えて帰国。今年6月までサイバー捜査課長を務めたが、22年7月から今年4月までの間、50回にわたり、領収書を偽造して捜査費を不正請求し、計173万円を受け取っていた。

「海外の捜査機関との交流会では、受け取った補助金は使わず、会合での食品購入代を捜査中の経費として支出し、二重計上していたそうだ」(前出・警察OB)
警視庁が9月10日に書類送検。警察庁は同日付で懲戒処分にした。伊貝氏は国家公務員総合職試験に合格して採用されたキャリア官僚で「サイバー捜査の星、エース」(前出の警察関係者)と呼ばれていた。
筑波大学第三学群情報学類、同大大学院理工学研究科で情報技術を学び、ネット時代の到来を告げるWindows95が発売された1995年、警察庁に入庁した。同庁の生活安全局生活環境課、情報通信局技術対策課などを経て、群馬県警情報管理課長や鳥取県警警務部長などを歴任。コンピューターや通信技術の専門知識を生かしてハイテク犯罪の捜査などに従事してきた。ユーロポール派遣後は警察庁刑事局の刑事企画課刑事総合研究官に着任。2025年9月に3代目のサイバー捜査課長に就任していた。
実は、警察庁のキャリア官僚を採用する総合職試験には事務系と技術系があり、採用試験の区分や入庁後の警察大学校での教育期間と内容に明確な違いがある。前者が映画やテレビドラマに登場する一般的な「警察キャリア」で、後者は「技術系キャリア」と呼ばれる。いずれも幹部候補だが、通常のキャリアは法学や経済学などの文系区分から採用され、公安職に分類される警察官の身分となる一方、技術系キャリアは理学、工学などの理系区分から採用され、行政職の技官の身分となる。
警察大学校と附属機関の差
「特に大きな違いが、警察人生のスタートラインでの処遇です」
元警察キャリアはこう語る。その上で、こう内情を打ち明ける。
「私たち(警察キャリア)は、東京都府中市の警大(警察大学校)で刑法や刑事訴訟法などの座学に加え、拳銃射撃や逮捕術、さらには警察の礼式など、警察官としての基礎を叩き込まれます。一方、技術系は警大の附属機関に位置付けられる東京都府中市の警察情報通信学校で技術政策やハイテク犯罪対策、情報通信技術の基礎を主に学びます。武道や実技の訓練はありません」
つまり、技官は制服の着用や拳銃の携帯をせず、技術畑をひた走る。上級幹部になると、政令などで警視長や警視監の階級が与えられ、警察官の身分となるが、そこまで上り詰めなければ階級はないのだ。
「伊貝さんは着服したカネを、不倫女性との交際費やデート代に充てていたようです」と警視庁関係者は話す。
筆者が昨年10月2日にデイリー新潮にアップした「佐賀県警『DNA鑑定不正』が突きつけた“証拠の王様”の危うさ」の中で書いたが、DNA鑑定の放置や結果捏造が起こった原因として、少数精鋭の技官で構成される都道府県警の科学捜査研究所の専門性の高さが生む“閉鎖性”にあると、警察庁は指摘した。
現職の警察関係者は「警察庁はサイバー警察局で起きた今回の不正も同様に、カタカナの専門用語が飛び交う技術者の交流会などを“聖域”のように扱ってしまい、現場任せの“丸投げ”にしていたことが、誘因になったとみているようです」と話す。
さらにその一方で「警察職員服務規則の『清廉堅実な生活態度』を徹底的に叩き込まれる警察官としての教育より、サイエンスやハイテクのスペシャリストとしての技能を磨く教育が優先される、技官ゆえの警察官としての忸怩の欠如が、DNA不正にせよ今回の架空経費にせよ、あったのではないだろうか」と推察する。
読売新聞スクープの裏側?
「ランサム被害復元2000万件 警察庁開発 国内41社救済」
こんな見出しのスクープ記事が9月12日、読売新聞の朝刊社会面トップを飾った。同様の原稿は同日午前5時、WEBの読売新聞オンラインにもアップされた。警察庁担当の経験がある民放記者は「読売さんが『うちの特ダネです』という意味で、ほかの新聞社が紙面では同着で掲載できない時間にアップしたのでしょう」と推察する。
また、警視庁の現職警察官は「私も20年以上、警察で飯を食っていますから分かりますが、この記事を見て『サイバー警察局も必死だな』と思いましたね」と語る。果たしてどういうことだろうか。
警察庁のサイバー警察局がネット犯罪の激増を受けて2022年に発足した経緯は、筆者が6月25日にデイリー新潮にアップした「犯罪収益622億円を“洗浄”したロシア人を逮捕」の記事で詳報している。
「鳴り物入りでスタートしたばかりのサイバー警察局ですが、実は既存の警備局や刑事局などの担当者からは『頼りにしている』という声がある一方で『仲間意識は必ずしも強くない』との受け止めもあるようです」(前出の警察OB)
読売新聞の記事は、企業のデータを暗号化する身代金要求型のコンピューターウイルス「ランサムウェア」の被害が拡大する中、警察庁が独自開発した復元ツールが2024年2月の運用開始以降、国内41社のデータを回復させていたというもの。顧客リストや社員名簿など2000万件のファイルを復元できたことで、身代金の被害を防止したという「サイバー警察局の“お手柄”を報じたものです」(前出の民放記者)。
伊貝氏の書類送検と処分の発表が9月10日、スクープが12日。「処分の発表日は当然、警察庁が決めたもの。私は裏事情を知っているわけではありませんが、直後のお手柄話発覚は『単なる偶然』と言われても、額面通りには受け取れません」(同)
30万人もの全国警察職員中、わずか数千人程度で、ある意味“外様”の技官がメインのサイバー警察局は、警察庁で捜査を指揮する刑事局、警備局、交通局、生活安全局に続く5番目の局だ。
「だが、発足わずか4年と歴史が浅く実績も乏しい。一方で担当事件は急増の一途。局内に充満する焦燥感がエースを野放しにしてしまった背景にはあるはず」(前出の現職警察関係者)
前出の民放記者は「サイバー局が発表する逮捕の広報文は、ユーロポールや米国の司法当局が出したプレスリリースに『オペレーション参加国として、日本警察についても言及されている』とか『データの提供を受け(中略)オペレーションに貢献した』とか、いつも他力本願の自己PRばかり。デスクから『日本の警察は外国の手伝いばっかりじゃないか』と言われ、私も肩身が狭い思いを何度もしました」と振り返る。
不正の背景には、専門家集団のブラックボックス化と、外様で新生部署ゆえの焦りがあったようだ。
岡本純一(おかもと・じゅんいち)
ジャーナリスト。特捜検察の捜査解説や検察内部の暗闘劇など司法分野を中心に執筆。月刊誌「新潮45」(休刊中)では過去に「裏金太り『小沢一郎』が逮捕される日」や「なぜ『東京高検検事長』は小沢一郎を守ったか」などの特集記事を手掛けた。
デイリー新潮編集部
