“風邪の症状”に要注意?女性を襲う「リウマチ性心疾患」の見逃せない落とし穴【医師解説】

リウマチ性心疾患は、溶連菌によるのどの感染症をきっかけに免疫反応が心臓の弁を傷つけることで発症します。世界的にみると女性の患者さんが男性を上回るケースが多く、特に僧帽弁狭窄症ではその傾向が顕著です。なぜ女性が発症しやすいのか、免疫応答の性差や社会的背景をひもときながら詳しく解説していきます。

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

女性とリウマチ性心疾患の関係:なぜ女性に多いのか

リウマチ性心疾患は、男性よりも女性に多くみられる傾向があることが知られています。このセクションでは、女性がこの病気を発症しやすい背景と、その根本にある仕組みについて解説します。

女性に発症が多いといわれる背景

リウマチ性心疾患は、A群溶血性レンサ球菌(いわゆる「溶連菌」)によるのどの感染症(咽頭炎)が適切に治療されないまま経過した際に、心臓の弁に炎症が生じることで起こります。溶連菌に対抗するために作られた免疫系(体を守る仕組み)が、誤って自分自身の心臓組織を攻撃してしまう自己免疫反応の一種です。この一連の流れを「リウマチ熱」と呼び、リウマチ熱を何度も繰り返すことで心臓の弁が傷つき、機能が低下する「心臓弁膜症」へと進行したものがリウマチ性心疾患です。一度の心炎でも弁に障害が残ることがあり、再発を繰り返すほど悪化しやすくなります。

世界的なデータをみると、リウマチ性心疾患の患者さんのうち女性が占める割合は男性を上回ることが多く、特に僧帽弁狭窄症(心臓の中で血液の逆流を防ぐ「僧帽弁」が硬くなり、血液の通り道が狭くなる病態)においてその傾向が顕著です。僧帽弁狭窄症は、リウマチ性心疾患による弁膜症のなかでも最も発生頻度が高く、女性に多い代表的な病態の一つとして位置づけられています。

女性に多い理由については、免疫応答(病原体から体を守る反応)の違いや、女性ホルモン環境の影響などが考えられていますが、現時点では完全に解明されているわけではありません。女性は男性に比べて一般的に自己免疫疾患を発症しやすい傾向があり、溶連菌感染後の免疫反応が心臓組織に及ぼす影響にも、こうした生物学的な性差が関与している可能性があります。

また、発展途上国や医療アクセスが限られた地域では、のどの感染症が放置されやすく、その結果としてリウマチ熱・リウマチ性心疾患が発症しやすい状況があります。こうした地域では、女性が家庭内で小児のケアをする機会が多く感染リスクが高い一方で、医療機関を受診する機会が男性よりも少ない傾向にあるなど、早期治療を受けにくい社会的背景やジェンダーによる差も発症率に影響していると考えられています。日本では衛生環境と抗菌薬治療の普及により新たな発症は稀になりましたが、小児期の罹患が数十年後に弁膜症として見つかる方は今もいらっしゃいます。

妊娠・出産とリウマチ性心疾患の関係

女性特有のテーマとして、妊娠・出産とリウマチ性心疾患の関係も重要です。リウマチ性心疾患によって心臓の弁に障害(開きにくくなったり、閉じにくくなったりする状態)が生じている場合、妊娠中はお腹の赤ちゃんに栄養を送るために心臓への負担が大きく増大するため、持病の症状が急速に悪化するリスクがあります。

妊娠中は全身を巡る血液の量が通常時の約1.5倍まで増加し、それに伴って心拍数(1分間に心臓が打つ回数)も上がります。健康な方であれば身体が自然とこの変化に適応できますが、弁の機能が低下している方の場合、増えた血液をうまく送り出せず心臓に強い負荷がかかります。特に僧帽弁狭窄症(左心房から左心室への血液の通り道が狭くなる病気)がある場合、血液が肺へうっ滞(血の流れが滞ること)しやすくなり、息切れや激しい動悸、横になると息苦しいといった「心不全」の症状が出現することがあります。

このため、リウマチ性心疾患を持つ女性が妊娠を希望する場合は、あらかじめ循環器内科や産婦人科の専門医に相談し、事前に病状の評価と妊娠中・出産時のリスク管理について十分に検討することが大切です。心臓病があることに気づかないまま妊娠し、症状が出て初めて発見されるケースもあるため事前チェックが欠かせません。場合によっては、妊娠前に弁の手術や処置(薬の調整を含む)を行うことが検討されることもあります。また、出産(陣痛や分娩)時や出産直後も心臓への負担が急激に続く時期があるため、産後も含めた継続的な経過観察と医療チームによる管理が推奨されます。

まとめ

リウマチ性心疾患は、適切な知識と継続的な医療管理によって、生活の質を保ちながら向き合うことが可能な病気です。のどの感染症をきっかけとする発症メカニズムから、女性特有のリスク・原因・薬の役割まで、一つひとつの知識が自分の身体を守る力につながります。気になる症状がある方や、過去に溶連菌感染・リウマチ熱を経験したことがある方は、循環器内科への受診や相談を検討してみてください。

参考文献

日本循環器学会「弁膜症治療のガイドライン」

国立循環器病研究センター「心臓弁膜症」

厚生労働省「感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について(A群溶血性レンサ球菌咽頭炎)」

世界保健機関(WHO)「Rheumatic heart disease」