Bluetooth技術を監督する国際的な標準化団体「Bluetooth SIG」では、“標準ロスレス”などの様々なプロジェクトを進めている

「Bluetoothのオーディオ規格、最新のものは6.0だっけ?」

こう聞かれて即答できる人は、意外と少ないのではないだろうか。実は現在、Bluetoothの規格上での最新版はすでに6.3まで進んでいる。

しかし、これは「オーディオが良くなった」という意味ではまったくないようで、今後6.3対応製品が出たからといって、それだけで音質面の向上が見込めるわけではない。一方で、まだ正式な規格としてまとまっていないながらも、その先の発展、そして音質向上も見えてきている。

そこでBluetooth SIG(Bluetooth Special Interest Group)が公開している一次資料をもとに、現在地点と、公式に発表されている「開発中の仕様」から見えてくる次世代Bluetoothオーディオの姿を整理してみたい。

最新版は6.3。しかし店頭に6.3対応をうたう製品はほとんどない

まず現状を確認しておこう。Bluetooth SIGは2026年5月5日、Bluetooth Core Specification 6.3を採択したと発表した。

半年に一度のペースで更新されているコア仕様の最新版であり、Channel Sounding(距離測定機能)の精度向上、HCI(Host Controller Interface)のコマンド/イベント容量の拡張、Classic BluetoothとBluetooth LEの間でRF(無線)要件を揃える改修などが盛り込まれている。

ただし、この6.3対応をパッケージや製品ページに明記したオーディオ機器は、2026年9月時点でほとんど見当たらない。これは珍しいことではなく、いつものパターンだ。

発売までの基本的な流れ

1. 対応チップの開発・認証
2. そのチップを搭載した製品の開発
3. 完成品の認証・発売

という段階を踏む必要があるため、コア仕様の策定から実際の市販製品への搭載までには、通常1年前後のタイムラグが生じる。ちなみにBluetooth 6.xは、6.0(2024年8月)→6.1(2025年5月)→6.2(2025年11月)→6.3(2026年5月)という順で、半年ごとに小刻みに更新されてきている。

一方、Bluetooth 6.0(2024年8月承認)に関しては、すでに対応をうたうオーディオ製品が市場に出回っている段階だ。

例えばEarFunの完全ワイヤレスイヤフォン「Air Pro 4+」や「Clip」、Moondropのオープンイヤー型「Pill」、QCYの「MeloBuds N70」などがBluetooth 6.0対応を明記している。とはいえ、これらはいずれもハイエンド~ミドルクラスの一部モデルにとどまり、2026年9月時点でも市場のボリュームゾーンはBluetooth 5.3や5.4となっている。

EarFun「Air Pro 4+」

EarFun「Clip」

Moondrop「Pill」

QCY「MeloBuds」

なお、USBドングル型のBluetoothトランスミッターにも6.x世代の製品が出てきている。

Questyleが2026年7月に発売した「QCC Dongle Pro2」はその一例だが、対応バージョンはBluetooth 6.0ではなく6.1で、LHDC V5やLC3(LE Audio)、Auracastへの対応を新たに加えたモデルだ(前モデルはBluetooth 5.4だった)。

Questyle「QCC Dongle Pro2」

ここで注意しておきたいのが、LHDCやLDAC、aptX Losslessといった高音質コーデックへの対応と、Bluetoothコアのバージョンは、直接結びついた話ではないという点だ。

LHDCはSavitechが開発した独自コーデックで、24bit/192kHz相当のハイレゾ音声を最大1Mbps程度で伝送する仕組みだが、これはClassic Bluetooth(A2DP)の上で従来から動いてきた技術であり、Bluetooth 6.0が登場して初めて使えるようになったものではない。

LDACやaptX Losslessも同様に、Bluetoothのコアバージョンとは独立したコーデックの世界の話だ。つまり「Bluetooth 6.0対応」と「LHDC対応」は、製品仕様上はセットで語られることが多いものの、技術的にはそれぞれ別軸の話として捉えておく必要がある。

そもそも「Bluetoothのバージョン」はオーディオ規格ではない

ここで改めて整理しておきたいのが、「Bluetooth 6.3」と「Bluetoothオーディオの音質」はイコールではない、という点だ。

Bluetooth Core Specification
通信全体を定めるコア仕様。6.3はこれの最新版 Classic Audio
従来のA2DPを使うBluetoothオーディオ LE Audio
Bluetooth LEをベースにした新しいオーディオの枠組み LC3
LE Audioで標準採用される音声コーデック Auracast
LE Audioを利用し、1つの音源から複数端末へ配信する機能

つまり「Bluetooth 6.3対応」という表記だけでは、その製品がLE Audioに対応しているのか? LC3を使っているのか? Auracastを受信できるのか? は何もわからない。コア仕様のバージョンが上がったからといって、自動的に音質が向上したり、LE Audioに対応したりするわけではないのだ。

この点はBluetooth SIG自身も問題視している。

SIGは2025年1月14日、「Communication Guidance」と呼ばれる表記方針を発表し、Core Specificationのバージョン番号だけを示す表記は、その製品が実際にサポートしている機能についてユーザーに誤解を与え、比較を困難にし、購入後のミスマッチにつながりかねないとして、対応する具体的な機能(LE Audio対応、LC3対応、Auracast対応など)を個別に明示するよう推奨している。

今後、6.3対応製品が登場しても、「Bluetooth 6.3」と大きく表記されるのではなく、対応機能ベースの表記が主流になっていく可能性がある。

したがって、Bluetoothオーディオ製品を評価する際に見るべきは、コア仕様のバージョンよりもむしろ、

LE Audio対応 LC3対応 Auracast対応 接続の安定性や遅延 aptX LosslessやLDACなど独自コーデックへの対応

といった個別の要素、ということになる。

Bluetooth SIGが公開する「開発中の仕様」

ここからが本題だ。

Bluetooth SIGは「Bluetooth 7.0は何年に登場し、こういう機能が入る」といった、番号と時期をひも付けたロードマップは公表していない。その代わり、公式サイトの「Features in development」というページで、現在進行中の主要な仕様策定プロジェクトを継続的に公開している。

SIGは常時50件以上の仕様策定プロジェクトを走らせているとしており、その中からオーディオに関連の深いものを抜き出すと、大きく次の方向性が見えてくる。

方向性 開発内容 オーディオへの影響 高速化 Bluetooth LEの高速化(High Data Throughput) ロスレス・多チャンネル伝送に有利な帯域を確保 周波数帯拡張 2.4GHzに加え5GHz・6GHz帯の活用を検討 混雑回避、帯域拡大、低遅延化 ロスレス・ハイレゾ LE Audioを高解像度・ロスレス対応へ拡張 独自コーデックに頼らない標準ロスレスの可能性 空間オーディオ ヘッドホン向け空間音響の標準化 メーカーをまたいで互換性のある空間オーディオ サラウンド 複数スピーカーによるマルチチャンネル伝送の標準化 Bluetoothによるホームシアター構築 Auracast拡張 広域化、多言語・多ストリーム化、受信操作の改善 会場、映画館、テレビ、補聴用途への普及 IP通信 Bluetooth LEでIPv6を直接伝送(IP Link) IoT機器がBluetooth経由で直接ネット接続

このうち、オーディオという観点で特に注目しておきたいのが、次の3本柱だ。

1. High Data Throughput(HDT)--ただし目標は8Mbpsではなく7.5Mbps

Bluetooth LEの物理層における最大データレートは、現行では2Mbpsにとどまる。これが現在のBluetoothの常識であり、限界であるところだ。CDの規格である16bit/44.1kHzのステレオだと――

44,100x16x2=1,411,200

――つまり約1.4Mbpsとなる。理論的にはBluetooth LEでの伝送は可能だが、実効値を考えると無理があり、そのため、各種圧縮を加えるCODECが使われているわけだ。

それに対し、Bluetooth SIGはこの最大データレートを引き上げるプロジェクト「High Data Throughput(HDT)」を進めており、当初の市場向け資料では「最大8Mbpsを目指す」という表現がされていた。

ただし、2026年7月にSIGが公開した最新のブログ記事によると、HDTの仕様として具体的に固まった最大データレートは7.5Mbpsであると明記されている。

HDTは2M PHYをベースに、QPSKやQAMといった多値変調方式を新たに導入することで、2/3/4/6/7.5Mbpsという5段階のビットレートを実現する仕組みで、いずれも2メガシンボル/秒という同じシグナリングレートの上で、1シンボルあたりに詰め込む情報量を増やすことで高速化を図っている。

信頼性を保つため、送受信側ではコヒーレント検波と物理層でのFEC(前方誤り訂正)を採用し、電波状況が悪化した場合はビットレートを自動的に落として接続を維持する仕組みも備える。

つまり、「当初の目標値は8Mbps、実際に固まった仕様値は7.5Mbps」という関係だ。今後、Bluetoothオーディオ関連の記事や発表で「8Mbps」という数字を見かけた場合は、それが目標段階の数字なのか、確定した仕様の数字なのかを区別して読む必要がある。SIGはHDTを、2026年内に予定されている次のコア仕様リリースに採用する見通しだとしている。

物理層の速度が上がったからといって、そのまま音声データの実効帯域が7.5Mbpsになるわけではない点にも注意が必要だが、それでも現在のLE Audioと比べて格段に余裕が生まれるのは確かで、高ビットレートのロスレス音声や複数チャンネルの同時伝送、エラー訂正の余裕確保といった用途に直結する土台になる。

2. LE Audioの標準ロスレス・ハイレゾ対応

SIGは「Features in development」の中で、LE Audioの拡張項目として「High-resolution and lossless audio」を明確に掲げている。

現状、Bluetoothでロスレス伝送を実現している製品は、aptX Losslessなどメーカー独自の仕組みに頼っているのが実情だ。

SIGは2024年9月には、ロスレス/ハイレゾ対応コーデックの技術提供に関する情報提供依頼(RFI)を業界に対して行なっており、将来的には送信機とイヤフォンのメーカーが異なっていても使える、Bluetooth標準としてのロスレス伝送が登場する可能性がある。

ただし、採用するコーデックや伝送方式が何になるかは、2026年9月時点でまだ確定していない。

3. 5GHz・6GHz帯への進出

現在のBluetoothは基本的に2.4GHz帯を使用しているが、SIGはBluetooth LEを5GHz・6GHzの免許不要帯でも利用できるようにする仕様策定プロジェクトを進めている。

実現すれば、Wi-Fiや既存のBluetooth機器で混雑しがちな2.4GHz帯を避けられるほか、より広い帯域を確保しやすくなり、高速化・低遅延化やマルチチャンネル音声の安定伝送にもつながる可能性がある。

ただし高い周波数帯は障害物を回り込みにくいという物理的な制約もあるため、2.4GHz帯が廃止されるというよりは、用途に応じて使い分ける形に落ち着くと見るのが妥当だろう。

空間オーディオ・サラウンド・Auracastの広がり

このほか、SIGはヘッドフォン向け空間オーディオを標準化するプロジェクトや、複数のスピーカーを使ったマルチチャンネル・サラウンド再生を標準化するプロジェクトも進めている。いずれもメーカーが異なる機器同士の互換性を確保することが狙いで、実現すればBluetoothだけでホームシアター的な構成を組めるようになる可能性がある。

すでに実用化されているAuracastについても、対応エリアの拡大、多言語・多ストリーム化、受信操作の簡易化といった拡張が進行中だ。会場や映画館、テレビ、補聴器用途など、1対多の音声配信という特性を生かした応用範囲が今後さらに広がっていくとみられる。

バージョン番号より、実装された機能を見るべき時代へ

ここまで見てきたように、Bluetooth SIGが示す今後の方向性はかなり明確だ。

近い将来はバージョン6.4、6.5といった小刻みな更新でLE AudioやAuracastの普及を進めつつ、その先でHDTによる高速化、標準ロスレス、空間オーディオ、サラウンド、5/6GHz帯の実用化が控えている、という流れになりそうだ。

ただし、これらの機能がすべて「Bluetooth 7.0」としてまとめて登場するとは限らない。SIGは半年ごとにコア仕様を更新する体制に移行しており、大きな番号の切り替わりを待つよりも、6.x系の各バージョンで少しずつ機能が追加されていく可能性の方が高いと考えられる。

DTMやオーディオという観点からは、今後注目すべきなのは「Bluetooth 7.0」という番号そのものよりも、HDT(7.5Mbps化)、標準ロスレス、5/6GHz帯、標準空間オーディオという4つの具体的な機能がいつ製品に降りてくるか、という点だろう。

SIG自身が推奨しているように、これからBluetoothオーディオ製品を選ぶ・評価する際は、コア仕様のバージョン番号ではなく、対応している機能を個別に確認する姿勢が、これまで以上に重要になってきそうだ。