カリフォルニア工科大学(Caltech)の大学院生Kritti Sharma氏を筆頭とする研究チームは、ダークエネルギー(暗黒エネルギー)やダークマター(暗黒物質)の正体、それにニュートリノの質量といった宇宙の謎を解き明かすうえで、ごく短時間に強力な電波パルスが放出される現象「高速電波バースト(FRB)」が助けになる可能性を示した研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature Astronomy」に掲載されています。


【▲ 今回の研究成果にもとづいて描かれたイメージ図。ガスを通過した高速電波バースト(FRB)を観測すると、波長ごとに到達時間のズレが生じていることがわかる。このズレをもとにガスの密度を推定することが可能だという(Credit: Caltech/Robert Hurt & Keith Miller (IPAC - SELab))】

宇宙論の研究に影響する「フィードバック」とは

通常の物質(バリオン)の5~6倍も存在するとされているのに電磁波では観測できないダークマター、宇宙を加速度的に膨張させているとされるダークエネルギー、通常の物質を通り抜けてしまうことから“幽霊”にもたとえられるニュートリノの質量。これらは現在でも解き明かされていない宇宙の大きな謎の一部です。


Caltechによれば、これらの謎にはある共通点があります。それは、この宇宙に存在する物質がどの程度まとまっているか、別の言い方をすれば物質の密度のムラ(ゆらぎ)に影響を及ぼすと考えられている点です。


天の川銀河をはじめとする数多くの銀河や、銀河の集団である銀河団、たくさんの銀河団で構成される宇宙の大規模構造も、もとをたどれば最初期の宇宙で物質の密度にムラが生じたことで形成されたと考えられています。物質の密度に対するダークマターやダークエネルギー、それにニュートリノの影響を理解することは、この宇宙の成り立ちを理解することにもつながるのです。


これらの存在が密度に及ぼす影響を調べるために、研究者らは重力レンズ効果(※)を利用して物質密度のムラを調査していますが、ここでもひとつの問題が立ちはだかります。物質の密度に影響するのは、なにも謎めいた物質やエネルギーばかりではないからです。


※…手前にある天体の大きな質量によって周囲の時空間がゆがみ、その背後にある遠方の天体から発せられた光の経路が曲げられることで、遠方天体の像がゆがんだり拡大して見えたりする現象。


具体的には、物質を取り込むかたわらその一部をアウトフロー(ガスの流れ)として放出している超大質量(超巨大)ブラックホールの活動や、大質量星などが起こす超新星爆発があげられます。これらの天体や現象のエネルギーがもたらす働きは「フィードバック」と呼ばれています。


Caltechによると、銀河の外側に広がるガスがフィードバックの影響を受けることで、物質の分布が実際よりも滑らかに見えてしまうのだといいます。ダークマターなどの性質を正しく理解するためには、まずはフィードバックの影響を理解する必要があるのです。


研究に参加したCaltechのVikram Ravi教授は「フィードバックは銀河の外側にある物質を薄く広げ、質量の大きいニュートリノやダークエネルギー、ダークマターの理論が予測するのとよく似た形で、物質のかたまりを均してしまいます。フィードバックの寄与を独立に測定できなければ、これらの効果を見分けることはできません」と述べています。


電波のズレから通常の物質の分布を読み取る

そこで研究チームは、高速電波バーストに着目しました。2007年に初めて報告された高速電波バーストは、数ミリ秒(1000分の数秒)というごく短時間に放出された強力な電波パルスが検出される突発的な現象です。発生源や電波が放出される仕組みについては不明な点が多く、強い磁場を持つ中性子星である「マグネター」に由来する可能性が指摘されています。


数十億光年彼方で発生した高速電波バーストによって放たれた電波は、銀河間に広がる希薄なガスを通過してから地球に届きます。すると、あたかも光の波長の違いが虹となって現れるように、電波の波長ごとに地球への到達時刻がズレる現象(分散)が起こります。このズレはガスの密度が高い場所ほど大きくなるため、さまざまな方向で発生した高速電波バーストを観測することで、ガスの分布を推定することができるというわけです。


研究チームが114件の高速電波バーストの観測データを分析した結果、たしかにフィードバックは物質の密度に影響を及ぼしているものの、過去の研究で示唆されていたよりも影響は穏やかである可能性が示されました。Sharma氏は「高速電波バーストが宇宙の物質分布を探る有力な手段であることを確立できました。このデータは、ダークマターやダークエネルギー、ニュートリノに関する研究を後押しできます」と述べています。


なお、Caltechが2029年の完成を目指してアメリカ・ネバダ州で建設中の電波望遠鏡「DSA(Deep Synoptic Array)」が稼働すれば、数万件もの高速電波バーストが検出されると見込まれています。今回の研究で用いられた手法をDSAが発見する高速電波バーストにも適用することで、フィードバックの影響をより正確に理解できるようになると期待されています。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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