映画界にもAIが進出「それでも役者には、AIが辿り着けない神の領域が存在する」と俳優・内藤剛志
1980年のデビュー以来、ドラマ、映画を中心に活躍を続けるベテラン人気俳優の内藤剛志氏が、『週刊ポスト』にて日々の思いを綴る人気連載「多面体道理論」。今回はAI主演の映画制作が決まったことを受けての思いを吐露してくれた。
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AIが生成した女優、ティリー・ノーウッドの主演映画『Misaligned』の製作が決まったとか。その発表に関してアメリカの映画俳優組合やテレビ・ラジオ芸術家連盟が懸念を打ち出しています。AIもそこまで進化したか、と感心するのですが、冷静に考えてみれば、さして驚くことではないのかも。
今やAIの学習スピードは尋常ではなく、秒ごとに進化を果たしています。もはや世の中の森羅万象から学ぶという段階を終え、人間が喜ぶ、助かる、満足するといった成果を一定の到達点に定めているように見受けられます。
例えば、営業畑30年の会社員が培った顧客を契約に引き込む営業トークのテクニックさえも、すでにAIは習得しています。代理店の企画書の内容も、AIによってクオリティの高いものに仕上げることができます。
ハリウッドを中心とする映画俳優組合らが危機感を表明しているのも、AIの台頭によって、脚本家などの裏方を含めた俳優たちの仕事が奪われるかもしれないと予測しているからでしょう。ただ、経済活動の面から眺めてみたとき、仮にティリー・ノーウッドの主演映画が興行的に大成功を収めたら、彼女は大衆に支持されたことになり、起用は正解だったといえます。
おそらく現在のAIの進歩や技術を踏まえると、彼女の表現力は演技経験の未熟な新人俳優に勝っているはず。となると、さらに時間が経てば、AI俳優たちが映画やドラマ、演劇界を席巻してしまう未来が訪れるかもしれません。
しかし、そう考える僕の脳裏で再生される、いくつかの演劇の舞台があります。それは柄本明さんの朗読劇や白石加代子さんのひとり芝居だったりします。彼らが舞台で紡ぐ演技力には、役者としての〝むき出しの魂の領域〟が存在し、観る者すべての心のひだに、無数の熱き何かを刻み込んでいくのです。
これはいくらAIが演劇のイロハを学習しようと、何百何千人の優れた俳優たちの癖や所作を盗もうと、辿り着けない、いわば神の領域だと僕は信じています。
それでも果たして、AIに生成された俳優は、神の領域まで魂を模倣してでも足を踏み出してくるのか……?
彼女の主演映画の行く末とともに、これからも興味深く見守り続けたいです。
【プロフィール】
内藤剛志(ないとう・たかし)/1955年、大阪府出身。1980年に『ヒポクラテスたち』で映画デビュー。以後、ドラマ、映画を中心に活動、1995年にドラマ『家なき子』で酒浸りの父親を演じて注目を集める。また、同年から2001年にかけて27クール連続ドラマ出演の日本記録を樹立
※週刊ポスト2026年9月25日・10月2日号
