フォルクスワーゲン・ビートルに対抗したアウディの前身 アウトウニオン1000SとパナールPL17(2) 2スト3気筒が作る笑顔 現存唯一の右ハンドル
VWビートルに対抗できた前身のDKW F91
1959年当時、パナールPL17の正当なライバルといえたのが、後にアウディとなる、アウトウニオンの1000だった。今回の車両は1962年式の1000Sで、オーナーはニック・パターソン氏。「このクルマが、何かわかる人は殆どいませんね」
【画像】どんなクルマとも違う アウトウニオン1000S パナールPL17 同時期の個性派たち 全164枚
「4リングスのロゴで、多くの人がアウディだと勘違いします」。これは本来、1949年に設立したアウトウニオンを構成する、アウディとDKW、ホルヒ、ヴァンダラーの4社を表したもの。1950年から、DKWが先行して自動車の生産をスタートさせている。

アウトウニオン1000S(1958~1965年/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
1953年当時、2ストロークの896cc 3気筒エンジンを積んだDKW F91は、フォルクスワーゲン・ビートルに対抗できるモデルだった。改良版の3=6を経て、1958年に980ccの1000が登場。高級志向を狙い、アウトウニオンの名で販売されている。
他方、1958年にアウトウニオンはダイムラー・ベンツ・グループの傘下へ再編。「1000のドライバーで意欲的な方なら、メルセデス180や190に乗り換えるかもしれません」と、ダイムラーのトップ、ヴァルター・ヒッツィンガー氏は語っていたとか。
現存唯一の4ドアボディで右ハンドル車
2ストローク・エンジンの不人気と重なり、1000の販売は伸びず、3万台近い在庫を抱え1963年に生産は終了。その後、アウトウニオンの株式の半分を、フォルクスワーゲンが取得。4ストロークの新モデル、F103はアウディ・ブランドで発売される。
混乱の中で提供されたアウトウニオンを、英国ではAFN社が輸入。1956年の東アフリカ・コロネーション・サファリ・ラリーでは前身の3=6が優勝し、販売を後押しした。

アウトウニオン1000S(1958~1965年/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
AFN社が1000で売りにした技術の1つが、クラッチペダルを踏まずにシフトダウンできる、フリーホイール構造を備えた4速MT。給油時にオイルを自動的に混合できる装備も、便利な機能といえた。
ただし、1962年のお値段は1179ポンド。パナールPL17のデラックス仕様でも100ポンド以上安く、結果的に英国の路上で見かけることは殆どなかった。パターソンの1台は現存唯一の、右ハンドルで作られた4ドアボディだと考えられる。
優しい卵型グリルに曲線美のリアフェンダー
パターソンは生粋のDKWマニアだ。「最初に購入した1台は、40年間も納屋に放置されていたんです。実は、部品取り車のモーリス・マイナーがあると聞いて向かったら、1957年式のDKWへ一目惚れしちゃったんです。コレだっ、と感じたんですね」
今回ご登場願った1000Sを購入したのは、2025年。「1994年にレストアされ、DKWオーナーズ・クラブGBへ属していたことは知っていました」。フロントグリルは優しい卵型。華奢なテールライトを載せ、柔らかな曲線を描くリアフェンダーが美しい。

アウトウニオン1000S(1958~1965年/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
1000Sも、フロントドアはリアヒンジ。インテリアには、プラスティックが溢れている。ダッシュボードはアールデコ調で、大きなメーターが2枚並ぶ。スピードメーターは見慣れた円形だが、初期型は縦に長かった。
4速MTはフルシンクロで、ステアリングコラムからシフトレバーが伸びる。フロントガラスのウオッシャーやシガーライター、パーセルシェルフは標準装備。1960年代の人々は、現代人より簡単なことで驚くことができた。
英国製サルーンとは英仏海峡以上の隔たり
パターソンが続ける。「このクルマを走らせていると、つい笑顔になるんです。2ストエンジンの匂いや、体験そのもので。歴史の一部を運転している感覚になります。点火系を電子制御に改めて、燃料ポンプも電動にしたので、走りは劇的に良くなりました」
通りを行く1000Sを目にすると、街角の人も笑顔になる様子。ジム・バウマン氏が所有するPL17に対する反応も同様だ。「笑っているようなフロントマスクが、火星人に似ていると話す人もいますよ」

パナールPL17(1959~1965年/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
同時期のクラシックに限らず、どんなモデルとも一線を画す1000SとPL17。英国で生産されていたサルーンとの間には、英仏海峡以上の大きな隔たりがあったように思う。
PL17は、タートルネック・セーターで決めたフランスの哲学者のよう。1000Sは、冷戦時代をやり過ごすドイツ人を想起させる。2台とも、似たモデルは思い浮かばない。1960年代のパナールが主張したとおり、どんな角度から見ても。
協力:DKWオーナーズクラブ、パナール・エ・ルヴァッソール・クラブGB、ブリックワークス・ミュージアム
超個性的な仏独サルーン 2台のスペックアウトウニオン1000S(1958~1965年/英国仕様)
英国価格:1179ポンド(新車時)/1万2000ポンド(約258万円)以下(現在)
生産数:17万1008台
全長:4229mm
全幅:1689mm
全高:1416mm
最高速度:128km/h
0-97km/h加速:23.0秒
燃費:9.3km/L
CO2排出量:-g/km
車両重量:895kg
パワートレイン:直列3気筒980cc 自然吸気 2ストローク
使用燃料:ガソリン
最高出力:43ps/4500rpm
最大トルク:8.5kg-m/2250rpm
ギアボックス:4速マニュアル/前輪駆動
パナールPL17(1959~1965年/英国仕様)
英国価格:999.17ポンド(新車時)/2万ポンド(約430万円)以下(現在)
生産数:16万6000台
全長:4572mm
全幅:1689mm
全高:1461mm
最高速度:127km/h
0-97km/h加速:28.6秒
燃費:11.3km/L
CO2排出量:-g/km
車両重量:838kg
パワートレイン:水平対向2気筒851cc 自然吸気 OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:42ps/5300rpm
最大トルク:7.0kg-m/2500rpm
ギアボックス:4速マニュアル/前輪駆動

アウトウニオン1000S(1958~1965年/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

