「土壌から放出されるCO₂の量は人為的CO₂排出量の約5倍に相当」乾湿繰り返しによる土壌CO₂放出増大の原因を解明「活性金属と有機物の結合がカギ」
新潟大学、九州大学、岡山大学、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、東北大学、アジア大気汚染研究センター、北海道大学などの研究者で構成される研究グループは、乾燥と湿潤の繰り返し(乾湿繰り返し)が土壌からのCO₂放出を増大させるメカニズムについて、新たな知見を得ました。
この研究成果は9月4日(国際標準時)、日本地球惑星科学連合(JpGU)の科学誌「Progress in Earth and Planetary Science(PEPS)」に掲載されました。
▷【図解】CO₂放出量は乾湿繰り返しにより増大 土壌水分量が変化しない条件と比較して1.4~4.8倍のCO₂放出量を確認
なぜ土壌CO₂放出に注目するのか
大気中のCO₂濃度の上昇は地球温暖化を引き起こし、世界各地の降水パターンを大きく変化させつつあります。こうした変化は極端豪雨や干ばつといった極端気象の頻度を増大させ、土壌の乾湿繰り返しを引き起こすことが危惧されています。
地球上で最大級の炭素貯蔵庫である土壌では、有機炭素の微生物分解によって放出されるCO₂の量が、人為的CO₂排出量の約5倍に相当しています。そのため、気候変動が土壌のCO₂放出動態に及ぼす影響を明らかにすることは、地球環境変化の将来予測において極めて重要な課題です。
乾湿繰り返しが土壌CO₂放出を増大させる可能性は古くから指摘されてきました。
研究グループによる2025年の先行研究では、国内各地の10地点の土壌を使った培養実験を実施し、活性金属と有機物で形成された錯体成分(活性金属-有機物錯体成分)の存在量が多い土壌ほど、乾湿繰り返しによるCO₂放出の増大率が大きいことを見出しています。
しかし、そのメカニズムの詳細については、さらなる検証が必要な状況でした。
埋没腐植層で明らかになった新たなメカニズム
研究では、北海道大学苫小牧研究林や九州大学北海道演習林で採取した表層土壌と埋没腐植層(過去の火山灰堆積により下層へ埋没した過去の表層土壌)を対象に、降水パターンの変化に伴う乾湿繰り返しを模擬した条件で28日間の室内培養実験を行い、CO₂放出量の変化を評価しました。
主な成果は以下の通りです。
全ての土壌においてCO₂放出量は乾湿繰り返しにより増大し、土壌水分量が変化しない条件と比較して1.4~4.8倍のCO₂放出量が確認されました。
微生物バイオマスに乏しい一方、活性金属-有機物錯体に富む埋没腐植層では、CO₂放出増大量が培養開始時の微生物バイオマスや培養中の微生物バイオマス減少量の約2倍に達しており、従来指摘されてきた「乾湿繰り返しに伴う微生物細胞の破壊由来の炭素供給」だけではCO₂放出増大を説明できないことが示されました。
埋没腐植層で活性金属-有機物錯体として存在する有機炭素量は、CO₂放出増大量の約90倍に達することも明らかになりました。
先行研究で見出された乾湿繰り返しによるCO₂放出増大率と土壌中の活性金属-有機物錯体量との正の相関は、今回の研究データを加えても成立しました。
これらの結果は、土壌有機炭素の重要な安定化機構として考えられてきた活性金属-有機物錯体成分が、乾湿繰り返しによって不安定な状態になることで、これまで分解を免れてきた有機炭素を新たに分解可能な炭素源として微生物に供給する可能性を示しています。
また、活性金属-有機物錯体成分の存在量が、乾湿繰り返しによるCO₂放出増大規模の予測因子になることも示唆されています。
地球規模の炭素循環に与える影響は甚大となる可能性
活性金属-有機物錯体成分とは、反応活性の高いアルミニウムや鉄と結合した土壌有機物を主体とする土壌成分であり、ピロリン酸ナトリウム溶液によって抽出可能な成分として定義されています。
日本に広く分布する火山灰性土壌(黒ボク土)において、有機炭素が高濃度で長期間安定的に蓄積されている主要因の一つと考えられてきました。
一方、土壌中の全有機炭素の量は植物体存在量の3~4倍、大気存在量の2~3倍に達しており、陸域で最大の炭素プールを形成しています。
こうした巨大な炭素貯蔵庫が気候変動の影響を受けて放出源へと転じた場合、地球規模の炭素循環に与える影響は甚大となる可能性があります。
地球環境変化予測モデルの精度向上に役立つ可能性
この研究成果は、温暖化に伴って顕在化する極端気象現象が土壌CO₂放出に及ぼす影響の詳細解明に繋がるものです。
大きな不確実性が残されたままになっている気候変動下の炭素循環予測、さらには地球環境変化予測モデルの精度向上に資することが期待されます。
今後は、実際の屋外環境での影響評価・メカニズム検証なども実施していく予定とのことです。

