女性だけじゃない?”男性”も注意すべき乳がんの「2つの発症リスク」【医師監修】

男性の胸にもわずかながら乳腺組織が存在しており、その組織ががん化することがあります。日本では年間500~800人前後が新たに診断されると推計されており、特に60代から70代での発症が目立ちます。なぜ中高年以降に発症リスクが高まるのか、加齢とホルモンバランスの変化との関係を含めてご説明します。

監修医師:
和田 真弘(医師)

【経歴】
199年3月新潟大学医学部医学科卒業
1999年4月慶應義塾大学医学部外科学教室入局・研修医
2000年5月佐野厚生総合病院外科出向
2001年5月芳賀赤十字病院外科出向
2002年5月慶應義塾大学医学部一般・消化器外科帰室・レジデント
2004年5月慶應義塾大学医学部一般・消化器外科・チーフレジデント
2005年5月川崎市立川崎病院外科副医長
2008年4月佐野厚生総合病院外科・乳腺外科部長
2013年4月現職(宇都宮セントラルクリニック乳腺外科)
【所属学会・資格】
日本外科学会 指導医
日本乳癌学会 乳腺専門医
日本乳癌学会 指導医
日本乳房オンコプラステックサージャリー学会 責任医師
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本乳がん検診精度管理中央機構 検診マンモグラフィ読影認定医
日本外科学会 外科専門医
慶應義塾大学大学院医学研究科博士(医学)学位取得
日本乳がん検診精度管理中央機構 乳がん検診超音波実施・判定医師

男性乳がんの基本的な仕組みと大人に現れやすい特徴

このセクションでは、男性乳がんがどのような病気であるか、その基本的な仕組みと、大人になってから発症しやすい理由について解説します。男性の身体にも乳腺組織(にゅうせんそしき:母乳を作る・運ぶための管や組織)が存在しており、その組織ががん化することで男性乳がんが発生します。

男性の身体にも乳腺はある

乳がんと聞くと「女性だけの病気」と思われがちですが、男性の胸にもわずかながら乳腺組織が存在しています。胎児の段階では男女の胸の構造に大きな違いはありませんが、思春期に女性ホルモンの影響を受けて大きく発達するのが女性の乳房です。一方、男性では乳腺の発達が途中で止まるため、乳頭(ちくび)や乳輪のすぐ裏側に、小さく薄い乳腺組織が残るにとどまります。このわずかに残った乳腺組織が異常に増殖し、悪性腫瘍(がん)となったものが「男性乳がん」です。

日本国内における男性乳がんの発生割合は、乳がん全体のおよそ0.5~1%程度(女性患者の約100人~200人に1人の割合)とされています。国立がん研究センターの全国がん登録などの統計データによると、年間でおよそ500~800人前後が新たに診断されていると推計されています。女性の乳がん患者数(年間約10万人以上)と比べると発生率は非常に低いですが、決して「男性には絶対に起こらない無縁の病気」ではありません。

構造上の特徴として、男性は女性に比べて乳房の脂肪や乳腺組織そのものが非常に薄いことが挙げられます。そのため、がんが発生すると比較的早い段階で、すぐ上にある皮膚や、すぐ下にある胸の筋肉(大胸筋など)へがん細胞が浸潤(しんじゅん:周囲に広がり浸み込んでいくこと)しやすいという性質があります。

本来であれば、組織が薄いぶん「胸の異変」に気づきやすそうに思えますが、現実には「まさか男性の自分が乳がんになるはずがない」という思い込みや知識不足から、違和感を覚えてから病院を受診するまでに数ヶ月~1年以上かかってしまうケースが少なくありません。

男性乳がんが大人になってから多く発症する理由

男性乳がんには「大人になってから、とくに中高年以降に発症しやすい」という大きな特徴があります。日本乳癌学会の集計データや各種臨床調査においても、男性乳がんの診断時年齢のピークは60代~70代後半に集中しており、30代以下の若い世代での発症は女性以上にまれです。

この背景には、加齢に伴う体内の「ホルモンバランスの変化」が深く関わっています。男性の体内では、精巣などで作られる「テストステロン(男性ホルモン)」と、副腎などで作られる「エストロゲン(女性ホルモン)」の両方が分泌されています。健康な若年男性ではテストステロンが優位に働いていますが、加齢とともにテストステロンの分泌量が徐々に低下していきます。すると、相対的に体内のエストロゲンの影響力が強まる現象が起こります。

エストロゲンには乳腺組織の細胞分裂や増殖を促す働きがあります。加齢によって「女性ホルモン優位」の状態が長年にわたって続くことで、乳腺組織(特に、乳管上皮細胞)に継続的な刺激が加わり、遺伝子の傷(変異)が積み重なる結果、がん化のリスクが高まる機序の一つと考えられているのです。

また、年齢を重ねるにつれて、体内に発生した異常な細胞を排除する「免疫機能」が自然と低下していくことも、がん全般の発症率が高まる共通の要因です。男性乳がんにおいて「加齢」は非常に重要な危険因子の一つであり、40代・50代を過ぎたら自分の胸の変化にも関心を持つことが、早期発見のための大切なステップとなります。

まとめ

男性は乳腺組織が少ないため、しこりや皮膚の変化が早期から生じやすい反面、「まさか自分が乳がんになるはずがない」という思い込みや知識不足から受診が遅れ、発見時に進行してしまっているケースが少なくありません。
胸のしこり(無痛性の硬い塊)、乳頭からの血性分泌物、乳頭のへこみ、皮膚の引きつれやただれなど、いつもと違う違和感を覚えたら、放置せずに早めに「乳腺外科」や「外科」を受診することが何よりも重要です。
治療は公的医療保険が適用され、高額療養費制度や各種支援制度を活用することで経済的な負担をコントロールすることができます。身体が出す小さなサインを見逃さず、適切な早期発見・早期治療につなげましょう。

参考文献

国立がん研究センター がん情報サービス「男性乳がん

国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計 乳房」

厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

国立がん研究センター がん情報サービス「がんとお金」