(※写真はイメージです/PIXTA)

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家族だから大丈夫」という強い信頼が、思わぬ死角を生んでしまうことがあります。高齢になった親の財産管理は、どの家庭にとっても避けて通れない身近な課題です。愛する家族を守るため、そして良好な関係を保ち続けるために知っておくべきリスクと対策について考えます。※事例の人物名はすべて仮名です。

娘への絶対的な信頼

都内の閑静な街並みで長年過ごしてきたタカコさん(84歳)。8年前に夫を見送ってからは、月額15万円ほどの公的年金と、長年夫婦で積み上げてきた大切な預金を少しずつ切り崩しながら、穏やかなひとり暮らしを続けていました。

「実の娘がまさかそんなことをするなんて、思いもしませんでした。娘を疑うことを知らなかった自分が情けないです……」

タカコさんが肩を落として語るのは、近所に住む一人娘のミツキさん(56歳)とのことです。80歳を超えたころから足腰の痛みで外出や金融機関の窓口へ行くのが不便になり、さらに物騒な治安ニュースへの不安も重なっていたタカコさん。そんな様子を見かねたミツキさんから、「私が通帳と印鑑を預かって、代わりに日常のお金を管理してあげる」と助け船を出されたのがすべての始まりでした。

身近に住む娘からの優しい申し出を心から心強く感じたタカコさんは、なんの迷いもなく資産の管理を全面的に任せてしまったのです。

お金のことを濁す娘

異変の兆候が現れたのは、それからしばらく経ったころでした。冬から暖房の効きが悪く、夏になって猛暑のなか冷房が使えないと困るので、エアコンの買い替えのためのまとまった資金が必要になったため、タカコさんはミツキさんにお金の出金を頼みました。

しかしミツキさんからは「いまはまとまった出費をする余裕がないから、もう少し我慢して」という思いがけない返事が。夫が残してくれた潤沢な預金があるはずなのに、なぜ出せないのか--。タカコさんは首を傾げつつも、「娘にもなにか都合があるのかもしれない」と考え、それ以上強く追及することができませんでした。

しかしその後も、必要な出費を求めるたびに言葉を濁しては先延ばしにするミツキさんの態度に、タカコさんの胸には不信感が静かに積み重なっていったのです。

娘から明かされた、恐ろしい真相

ある日の夜、青ざめた表情でタカコさん宅を訪れたミツキさんは、ポロポロと涙をこぼしながら「お母さん、本当にごめんなさい。もう隠しきれない」と打ち明けはじめました。

預けていたはずの数千万円におよぶタカコさんの大切な老後資金が、すでに跡形もなく消え去っているという衝撃の事実--。きっかけは、スマホのSNSで目に飛び込んできた「知識ゼロでもスマホ1台で月収100万円」「誰でも簡単に稼げる副業ノウハウ」という広告でした。

将来の不安や「少しでも収入を増やしたい」という焦りから、ミツキさんはその告知に強く惹かれてしまったのです。

最初に「高額副業マニュアル」として数十万円の情報商材を購入。すると「さらに上のサポートプランに入れば確実に月100万円稼げる」「もとはすぐに取れる」「私の資産が100倍になったこの株も買ってみるべき」と次々に甘い言葉で勧誘されました。マインドコントロールのような状態に陥ったミツキさんは、「稼いだらすぐにお母さんの口座に戻せばいい」と自分に言い聞かせ、タカコさんの通帳から引き出した資金を注ぎ込んでしまいました。

しかし、指示された作業をいくらこなしても一向に収入は発生せず、株も儲からず、不審に思って解約を申し出たときには相手業者と連絡が不通に。気づいたときには、夫婦で一生をかけて築き上げた数千万円の預金は、悪質な情報商材とコンサル料、投資詐欺によってすべて騙し取られていたのです。

「頼れるのは月に15万円の年金だけ。これからどうやって暮らしていけばいいのか……」

娘を信じ切っていた自分への後悔と失意のなか、タカコさんは涙すら枯れました。現在は、残された自宅の売却まで考えざるを得ない追い詰められた状況に立たされています。

令和8年データに見る「家族間トラブル」の実態と防衛策

裁判所が公表した『司法統計(令和8年版)』における成年後見関連のデータを見ると、後見人等による不正な財産処分のうち、半数を超える約58%が親族後見人によるものであることが示されています。また、成年後見の申し立てが行われる動機のトップは依然として「預貯金等の管理・解約」であり、高齢者の財産がいかに身内の不透明な管理下でリスクに晒されやすいかを物語っています。

どれほど仲がよい親子であっても、無防備にお金を預けるのではなく、第三者の目を入れた客観的な仕組みを作ることが不可欠です。

財産管理委任契約の活用

親子間であっても曖昧に管理を任せるのではなく、書面で管理範囲を定め、定期的な収支報告を義務付けることで透明性を確保します。

家族信託の導入

本人の意思がはっきりしているうちに、財産の運用や処分に関する権限とルールをあらかじめ契約として定めておき、目的外の不適切な流出を防ぎます。

成年後見制度や専門家の関与

判断能力の低下に備え、弁護士や行政書士といった第三者の専門家、あるいは家庭裁判所の監督下に置くことで、身内による不正な使い込みに対する強い抑止力を働かせます。

家族だから大丈夫」という思い込みこそが、時に大きな死角を生み出してしまいます。大切な資産と親子の絆の両方を守るためにも、法的なセーフティネットを活用したルール作りを検討することが重要です。