8020運動と噛み合わせの関係とは?20本の歯を守るポイントを解説

「80歳になっても自身の歯を20本残そう」と呼びかける8020運動を、耳にしたことはありませんか。歯の本数は、食べ物を噛む力や上下の歯の噛み合わせと深く関わっているとされています。歯を失ったまま過ごすと、残った歯が少しずつ動いて噛み合わせが乱れ、さらに歯を失いやすくなることもあります。

本記事では、8020運動と噛み合わせの関係について以下の点を中心に解説します。

8020運動が始まった背景と20本を目標にする理由

歯の本数が噛み合わせや咀嚼機能に与える影響

20本の歯を守るために日常生活でできることと矯正歯科治療の選択肢

8020運動と噛み合わせについて理解を深めるためにも、参考にしていただければ幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

監修歯科医師:
小田 義仁(歯科医師)

小田歯科・矯正歯科
院長 小田 義仁
岡山大学歯学部 卒業
広島大学歯学部歯科矯正学教室
歯科医院勤務をへて平成10年3月小田歯科・矯正歯科を開院
所属協会・資格
日本矯正歯科学会 認定医
日本顎関節学会
日本口蓋裂学会
安佐歯科医師会 学校保健部所属
広島大学歯学部歯科矯正学教室同門会 会員
岡山大学歯学部同窓会広島支部 副支部長
岡山大学全学同窓会(Alumni)広島支部幹事
アカシア歯科医会学術理事

8020運動とは


8020運動は、どのような考えのもとで始まったのでしょうか。ここでは運動が生まれた背景と、20本を目標とする意味、現在の達成状況を解説します。

8020運動が始まった背景

8020運動は、1989年に当時の厚生省と日本歯科医師会が提唱した取り組みです。80歳になっても20本以上自身の歯を保とうと、国民に広く呼びかけるかたちで始まりました。

運動が始まった当時は、高齢期に自身の歯をほとんど失っている方が珍しくありませんでした。入れ歯などで補う方法はあるものの、自身の歯で噛める状態を保つほうが、食事の楽しみや栄養のとり方の面で望ましいと考えられてきました。

その後、運動をさらに発展させるため、2000年12月1日には公益財団法人8020推進財団が設立されています。現在では歯科医療の現場だけでなく、自治体の歯科口腔保健の取り組みや学校での歯みがき指導など、幅広い場面で8020という言葉が使われるようになりました。

歯を失ってから対応するのではなく、生涯にわたって自身の歯を保つ。この発想が、8020運動の出発点にあります。

8020運動で20本を目標にする理由

8020運動が20本という数字を掲げているのは、噛む働きと関わりがあります。永久歯は智歯(親知らず)を除くと28本あり、このうち少なくとも20本以上自身の歯が残っていれば、ほとんどの食べ物を噛みくだいておいしく食べられるとされています。

反対に、残っている歯が20本を下回ると、硬い食べ物を避けるようになったり、噛まずに飲み込む癖がついたりして、食事の内容が偏りやすくなると考えられています。噛みごたえのある野菜や肉を控えるようになれば、栄養のバランスにも影響が及びかねません。

また、歯は上下が噛み合って初めて働くため、本数が残っていても噛み合う相手の歯が失われていれば十分に噛めません。20本という目標には、単なる本数ではなく、噛み合わせとして機能する歯を保つ意味も含まれています。

自身の歯で噛める状態を保つことが、8020運動の目指すところです。

8020運動の達成状況

8020運動の達成状況は、厚生労働省が実施する歯科疾患実態調査で確認できます。2024年の調査では、8020達成者(80歳で20本以上の歯を有する方)の割合は約61.5%と推計され、前回の2022年調査の51.6%を上回りました。

2011年の調査では40.2%、2016年の調査では51.2%と報告されており、調査のたびに増加してきた流れが読み取れます。歯みがき習慣の定着や歯科検診の広がりが、背景にあると考えられています。

一方で、同じ2024年の調査では、20本以上の歯を有する方の割合は65歳以上の年齢階級で90%を下回り、1人平均現在歯数も75歳以上では20本に届いていませんでした。達成者が増えている一方で、高齢期に歯を失う方も少なくないとされています。

だからこそ、若いうちからの予防治療と噛み合わせの管理が欠かせないと考えられています。

8020を達成するために大切な予防対策


歯を失う原因の上位に挙げられるのが、むし歯と歯周病です。ここでは20本の歯を保つうえで欠かせない、二つの予防対策を解説します。

むし歯予防

むし歯は、お口のなかの細菌が糖分をもとに酸をつくり、歯の表面を溶かすことで進みます。初期の段階では痛みが出にくく、気付いたときには深くまで進行しているケースもあります。

予防の基本は、歯垢(プラーク)を毎日落とすことです。歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れが残りやすいため、デンタルフロスや歯間ブラシを併せて使うとよいでしょう。フッ化物配合の歯みがき剤には、歯の再石灰化を助ける働きが期待できるとされています。

また、間食の回数が増えるとお口のなかが酸性に傾く時間が長くなり、むし歯のリスクが高まると考えられています。だらだらと食べ続けず、時間を決めて食べる習慣が役立ちます。

奥歯の溝や歯と歯の間は自身では確認しにくい部分です。歯科医院で定期的に診てもらうと、早い段階で対応しやすくなります。

歯周病予防

歯周病は、歯を支える歯茎や骨に炎症が起こる病気で、進行すると歯がぐらつき、抜け落ちることもあります。日本人が歯を失う原因として上位に挙げられており、8020運動を進めるうえでも欠かせない対策です。

歯周病の原因になるのも、歯と歯茎の境目にたまる歯垢です。歯ブラシを歯と歯茎の境目に斜めに当て、小刻みに動かして磨くと汚れを落としやすくなります。力を入れすぎると歯茎を傷めるため、優しく丁寧に磨くことが大切です。

歯垢が固まって歯石になると、歯みがきだけでは落とせません。歯科医院でのクリーニングを定期的に受けることで、歯周病の進行を抑えやすくなるとされています。

喫煙は歯茎の血流に影響し、炎症に気付きにくくなると考えられています。糖尿病との関わりも指摘されているため、生活習慣の見直しも予防につながります。

8020運動と噛み合わせの関係


歯の本数は、上下の歯の噛み合わせにも影響します。ここでは本数と噛み合わせのつながりや咀嚼機能への影響、放置した場合の変化を解説します。

歯の本数が噛み合わせに与える影響

上下の歯は、互いに支え合いながら位置を保っています。1本でも歯を失うと、そのすき間を埋めるように隣の歯が傾き、噛み合っていた相手の歯は伸び出してくることがあります。

こうした動きが起こると、上下の歯が接する位置がずれ、噛み合わせのバランスが崩れていきます。残った歯に強い力が集中するようになり、歯が欠けたりぐらついたりする原因になる場合もあります。

さらに、噛み合わせが変わると、噛みやすい側だけで食べる癖がつきやすくなります。片側だけを使い続けると、その側の歯や顎に負担が偏り、歯を失うリスクがさらに高まると考えられています。

歯の本数を保つことは、1本ずつの歯を守るだけでなく、お口全体の噛み合わせを安定させることにつながります。

噛み合わせの乱れが咀嚼機能に及ぼす影響

咀嚼は、前歯で食べ物を噛み切り、奥歯で砕いてすりつぶし、舌が唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい塊をつくる連続した働きです。この過程のどこかに支障が出ると、食べ物を十分にすりつぶせなくなります。

噛み合わせが乱れると、奥歯の噛み合う面に食べ物を保持しにくくなり、すりつぶす働きが低下しやすくなります。噛む回数が減ったまま飲み込む習慣がつけば、胃腸への負担にもつながりかねません。

また、噛みにくさから硬い食材を避けるようになると、食事の内容がやわらかいものへ偏りやすくなります。よく噛んで食べることは、味わいを感じたり満腹感を得たりするうえでも役立つとされています。

8020運動が20本を目標に掲げているのは、こうした咀嚼の働きを保つためでもあります。

歯を失ったまま放置した場合の噛み合わせの変化

歯を失った部分をそのままにしておくと、時間の経過とともにお口のなかの状態は少しずつ変わっていきます。隣の歯が傾き、噛み合っていた歯が伸び出すと、失った部分を後から補おうとしたときに、装置を入れるすき間が足りなくなることもあります。

噛み合わせのずれが進むと、顎の関節に負担がかかり、口を開けたときに音が鳴る、顎が痛むなどの症状につながる場合もあります。左右のバランスが崩れることで、噛む力が一部の歯に集中しやすくなる点にも注意が必要です。

見た目の面でも、奥歯を失った状態が続くと頬がこけたように見えたり、口元の見え方が変わったりする場合もあります。

失った歯を補う方法には入れ歯やブリッジ、インプラントなどがあり、お口の状態によって選択肢は変わります。早めに歯科医院へ相談しましょう。

20本の歯を守るために日常生活でできること


20本の歯を保つには、毎日の習慣の積み重ねが欠かせません。ここではセルフケアと食事の見直し、定期検診の役割を解説します。

毎日のセルフケアで歯を守る方法

歯を守る土台になるのは、毎日の歯みがきです。歯ブラシは鉛筆を持つように軽く握り、毛先を歯の面に当てて小刻みに動かすと、余分な力がかからず汚れを落としやすくなります。

歯ブラシだけで落とせる歯垢は限られているため、デンタルフロスや歯間ブラシを組み合わせると効果が高まるとされています。歯と歯の間や、奥歯のいちばん後ろの面は磨き残しが生じやすい部分です。

就寝中は唾液の分泌が減り、細菌が増えやすくなります。寝る前のケアは、とりわけ丁寧に行うとよいでしょう。

自身に合った磨き方は、歯並びやお口の状態によって変わります。歯科医院で歯みがき指導を受けると、磨き残しの多い部分を教えてもらえるため、セルフケアの精度を高めやすくなります。

むし歯予防につながる食事と噛み方の見直し

食事の内容や食べ方も、歯を守るうえで見逃せません。糖分を含む食品や飲料を口にする回数が増えると、お口のなかが酸性に傾く時間が長くなり、歯が溶けやすい状態が続きます。

甘い飲み物を少しずつ飲み続ける習慣がある方は、水やお茶に置き換えるだけでもリスクを抑えやすくなります。間食は時間を決め、だらだら食べを避けることが大切です。

噛み方の見直しも役立ちます。ひと口の量を減らし、左右の歯をバランスよく使って噛むと、一部の歯に負担が偏りにくくなります。日本歯科医師会は、ひと口30回を目安によく噛む噛ミング30を呼びかけています。

噛みごたえのある食材を取り入れると、噛む回数が自然に増え、唾液の分泌も促されます。唾液には、歯の再石灰化を助ける働きがあるとされています。

定期的な歯科検診の役割

むし歯や歯周病は、初期の段階では自覚しにくいまま進むことがあります。痛みが出てから受診すると、すでに歯を削る範囲が広がっていたり、歯を支える骨が減っていたりするケースもみられます。

定期的な歯科検診では、歯や歯茎の状態に加えて、噛み合わせの変化も確認してもらえます。歯みがきだけでは落とせない歯石を除去することで、歯周病の進行を抑えやすくなるとされています。

受診の間隔はお口の状態によって異なりますが、3ヶ月から6ヶ月に一度を目安に案内されるケースが少なくありません。歯科医師や歯科衛生士と相談しながら、自身に合った間隔で通うとよいでしょう。

歯を失ってから対応するのではなく、失う前に手を打つ姿勢が、20本の歯を保つことにつながります。

矯正歯科治療で噛み合わせを整える選択肢


噛み合わせの乱れが気になる場合、矯正歯科治療も選択肢の一つです。ここでは治療が噛み合わせの改善につながる理由と、検討する目安を解説します。

矯正歯科治療が噛み合わせの改善につながる理由

矯正歯科治療は、装置を用いて歯と顎骨に弱い力をかけ、時間をかけて歯を動かす治療です。歯を削って差し歯にするのではなく、歯そのものを適切な位置へ導き、上下の歯がきちんと噛み合う状態を目指します。

歯並びが乱れていると、歯ブラシが届きにくい部分ができ、むし歯や歯周病のリスクが高まると考えられています。日本矯正歯科学会は、不正咬合をそのままにした場合の問題として、食べ物がよく噛めないことや歯周病になりやすいこと、顎の関節に負担がかかることなどを挙げています。

歯並びと噛み合わせが整えば、清掃しやすい状態に近づき、噛む力も分散されやすくなります。20本の歯を長く保つ観点からも、噛み合わせを整える意義は小さくありません。

矯正歯科治療は、見た目の改善だけでなく、お口の機能を守る治療でもあります。

噛み合わせが気になる場合に矯正歯科治療を検討する目安

噛み合わせの乱れは、自身では気付きにくい場合があります。上下の前歯の中心がずれている、前歯が噛み合わない、食べ物が同じ場所にはさまりやすい、片側でばかり噛んでいるなどの心当たりがあれば、一度相談してみるとよいでしょう。

矯正歯科治療は成長期に行うほうが進めやすいとされていますが、成人になってからでも受けられます。ただし成長が終わっている分、歯の移動に時間がかかりやすい傾向があります。

治療を始める前には、問診や口腔内の診査に加え、頭部X線規格写真やパノラマX線写真などの検査を行い、顎骨や歯の状態を確認します。歯周病がある場合は、先に治療して状態を落ち着かせてから進めるケースが少なくありません。

装置の種類や治療期間はお口の状態によって異なるため、歯科医院で説明を受けたうえで検討しましょう。

まとめ

ここまで、8020運動と噛み合わせの関係についてお伝えしてきました。要点をまとめると以下のとおりです。

8020運動は1989年に始まった取り組みで、20本以上の歯があればほとんどの食べ物を噛みくだけるとされることが目標の根拠になっている

歯を失うと隣の歯が傾き噛み合う歯が伸び出すため、噛み合わせが乱れて咀嚼機能の低下や顎への負担につながる

20本の歯を保つには毎日のセルフケアと食事の見直し、定期的な歯科検診が欠かせず、噛み合わせの乱れには矯正歯科治療の選択肢もある

8020運動が掲げる20本という目標は、単に歯の数をそろえることではなく、上下の歯が噛み合って働く状態を保つことを意味しています。歯を失ってから補う方法を考えるより、今ある歯を守る取り組みを積み重ねるほうが、将来の選択肢は広がります。気になる症状や噛み合わせの変化があれば、早めに歯科医院へ相談してみてください。

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

8020運動とは|健康日本21アクション支援システム(厚生労働省)

「8020」達成のために必要な予防対策|健康日本21アクション支援システム(厚生労働省)

8020とは|8020推進財団

歯科疾患実態調査:結果の概要|厚生労働省