”幻の珍獣”や人目を避ける鳥の求愛ダンス…、「誰も見たことのない」ネイチャー番組のスクープ映像はどう撮影されたのか? プロが教える「おどろきのアイデア」と「テクニック」

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〈大盛況「いきもの超ワールド展」を10倍楽しむ!〉

国立科学博物館とNHKの自然番組「ダーウィンが来た!」が初めてコラボした特別展「いきもの超ワールド展」が、10月12日まで同館で開催中です。

「生きもの地球紀行」や「地球!ふしぎ大自然」など、NHKの自然番組でディレクターを務め、現在は科学ジャーナリストとして活躍中の柴田佳秀さんが、「生きものたちの謎めいた生態」をどのようにしてカメラに収めるかという視点から、同展の楽しみ方をガイドしてくださいます。

“幻の珍獣”の姿や空を舞う鳥の視界など、「誰も見たことのない」映像はどのように撮影されてきたのでしょうか? おどろきのアイデアとテクニックが明かされます!

プロが注目した展示物は?

「あのときに、こんな機材があったらなあ……」

国立科学博物館で開催中の特別展「いきもの超ワールド展」は、国立科学博物館とNHKの自然番組「ダーウィンが来た!」が初めてコラボした特別展です。会場では、博物館が所蔵する貴重な標本・資料と、番組が撮影してきた映像を組み合わせて、生きものたちの多様な生態を紹介しています。

なかでも私が足を止めたのは、番組の撮影を支える無人カメラやドローンなどの機材を展示したコーナーでした。実物を目の前にしたとき、思わず口をついて出たのが冒頭の言葉です。

私は現在、科学ジャーナリストとして、生きものに関する記事や図鑑を執筆していますが、かつては世界各地で野生動物を取材するNHKの自然番組「生きもの地球紀行」や「地球!ふしぎ大自然」のディレクターでした。

当時は、ドローンも、現在のように手軽に使える高性能な無人カメラもなかった時代。もし、こうした機材を使えていたら、どんな場面を撮影できたのだろうと思うと、今の撮影現場がうらやましくなるのです。

忘れられない撮影現場

2026年、「ダーウィンが来た!」は放送開始20周年を迎えました。一方、講談社の「動く図鑑MOVE」も創刊15周年。

2つの節目を記念して刊行されたのが、『講談社の動く図鑑MOVE ダーウィンが来た! 地球まるごと生きもの図鑑』です。じつは私は、この図鑑の執筆を担当しました。

この図鑑では、番組がとらえてきた生きものたちの驚くべき生態に加え、ドローンや無人カメラ、ハイスピードカメラなど、数々のスクープ映像を支えてきた撮影機材についても紹介しています。そうした機材のページを書きながら、何度も頭に浮かんだのが、私がかつて立っていた撮影現場です。

なかでも忘れられないのが、オーストラリアの森に棲(す)む不思議な鳥、コトドリの取材でした。

決定的瞬間を家庭用ビデオカメラで狙う

私がコトドリを取材したのは2002年、「地球!ふしぎ大自然」でのことです。その内容は、のちに「ダーウィンが来た!」でリメイクされ、今回執筆した図鑑にも掲載しています。

コトドリのオスは、森の中に土を盛ってマウンドをつくり、その上で飾り羽を広げて求愛のダンスをします。私たちが最初に狙ったのが、この求愛ダンスでした。

しかし、コトドリは警戒心が強く、人が近くでテレビカメラを構えていては、なかなか姿を見せてくれません。さらに、ダンスを踊るマウンドがいくつもあり、どこを使うのかわからないという問題もありました。

今なら、動物の動きをセンサーで感知して録画を始める無人カメラをいくつも仕掛けて、撮影スタッフはその場を離れることができます。ところが、2002年の取材当時は、そのような機材がまだなかったのです。

そこで、オスが来そうなマウンドに家庭用ビデオカメラを1台ずつ仕掛け、あらかじめ録画ボタンを押してから、スタッフがその場を離れることにしました。

どうしても撮れなかった場面

当時の記録媒体はSDカードではなく、ビデオテープ。録画できるのは最長でも90分です。

コトドリが何時に戻ってくるのかわからないため、とにかく録画を続け、テープに映っていなければ、巻き戻してふたたび録画する。そんな作戦で撮影したのです。

鳥はこちらのテープ事情など気にしてくれませんから、録画が終わったあとに姿を現すなど、失敗の連続でした。それでも運よく映っていることがあり、求愛ダンスを撮影することができました。

しかし、どうしても撮れなかった場面があります。

無人カメラがとらえた“幻の珍獣”

私たちがいちばんの目標にしていた、オスとメスの交尾です。カメラの前にはついにメスが姿を見せることなく、撮影は失敗に終わりました。現在の無人カメラならば、きっと撮ることができたはず。そう思うと、悔しさがあらためて込み上げてきます。

それから17年後の2019年。「ダーウィンが来た!」の取材班は、無人カメラを駆使してアフリカに棲む“幻の珍獣”とよばれるコビトカバを追いました。

取材班によれば、コビトカバはめったに人前へ姿を現さず、カメラマンが構えたカメラでは一度も撮影できなかったそうです。ところが、森の各所に仕掛けた無人カメラは、その姿を見事にとらえたのです。

現在の無人カメラは、動物が近づくとセンサーが反応し、映像をSDカードに記録します。昼夜を問わず24時間、数ヵ月にわたって待ち受けられるうえ、複数のカメラを森の各所に設置することも可能。人間にはとうていできない撮影態勢です。

無人カメラは、撮影を便利にしただけではありません。コビトカバのように警戒心が強く、それまで撮影できなかった動物の姿を映し出し、不可能だった撮影を可能にしました。

しかし、カメラをどこに設置するかを決めるには、入念な下調べが必要です。新しい機材が開発されても、最後はやはり人間の知識と経験、そして観察力がものをいうことに変わりはありません。

ドローンの代わりに熱気球に乗って

特別展で私の目にとまった撮影機材は、無人カメラだけではありません。もう一つが、いまや自然番組の空撮に欠かせない存在となったドローンです。

展示された機体を眺めながら思い出したのは、2004年に「地球!ふしぎ大自然」で渡良瀬遊水地を取材したときのこと。渡良瀬遊水地は関東北部の4県にまたがる、日本最大の遊水地として知られています。

当時はまだドローンがなく、私はチュウヒというタカ科の鳥の目線からヨシ原を撮影するために、熱気球に乗りました。

当時、上空からの撮影といえば、ヘリコプターを使うのが一般的でした。しかし、低空でヨシ原の上を飛べば、ローターによる強い風でヨシが倒れてしまい、チュウヒが見ている光景とはまるで違うものになってしまいます。

そこで思いついたのが、熱気球でした。静かに滑るように飛ぶことができるため、チュウヒと同じ景色が見られるのではないかと思ったのです。

実際に撮影してみると、映し出されたのはまさにチュウヒが枯れたヨシ原の上を滑空するときの視界でした。地上で見るヨシ原は鬱蒼と茂っていて奥まで見通すことはできませんが、上空からだとヨシの根元近くまで丸見えです。

これなら、チュウヒが地上にいるネズミを見つけられる──彼らの狩りのようすを説得力をもって伝えられる映像となりました。

熱気球は静かな空撮に向いていますが、機材も人員も大がかりで、離着陸できる場所も限られます。天候や風にも大きく影響を受けるため、いつでも飛ばせるものではありません。

空撮の常識を大きく変え、自然番組の映像表現を一新したのが、ドローンの登場でした。

自然番組の映像表現を一新したドローン

ドローンは比較的安価で持ち運びやすく、機動性も抜群です。飛行許可や安全の確保は欠かせないものの、以前よりはるかに多くの場所で、すばやく空撮ができるようになりました。

近年の「ダーウィンが来た!」では、ほぼ毎回、ドローンによる映像が使われていますが、特に印象に残ったのが、知床の海に集まるシャチの群れの映像です。

船上からでは一部しか見えない場面でも、ドローンなら群れ全体の動きや個体どうしの位置関係まで一望することができます。こうした上空からの新しい視点によって、従来は見えなかった生きものの行動や個体どうしの関係までとらえられるようになりました。

他にも、スズメバチのように人が近づくには危険な動物を間近に撮影したり、オオカミのように広い範囲を移動する動物を上空から追跡したりするなど、ドローンは、単なる空撮のための機材ではなく、自然番組の映像表現そのものを大きく変えたのです。

さらに最近では、ドローンとサーモカメラを組み合わせた撮影もおこなわれています。サーモカメラは、動物の体から放射される赤外線をとらえ、周囲との温度差を映像にする装置です。

暗闇や草むらの中にいて、人の目や通常のカメラではどこにいるのかさえわからなかった動物も、上空から見ると熱の像となって浮かび上がります。これまで見えなかった生きものの存在を、文字どおり可視化できるようになったのです。

空から生きものを探し出すドローンとサーモカメラの組み合わせは、おそらく今後の自然番組の撮影を大きく変えていくでしょう。

自然番組から科学論文が生まれる

撮影機材と並んで、現在の自然番組を支えているのが、第一線の研究者との協力です。

カメラをどこに仕掛け、どの時期にどんな行動を狙うのか。取材は、研究者と取材班が話し合い、撮影の糸口を探すところから始まります。

研究者が積み重ねてきた知見と、取材班の観察力や粘り、そして進歩した撮影機材。その三つが噛み合ったとき、これまで誰も見たことのない行動を映像としてとらえられる可能性が生まれます。

しかも、そこで話は終わりません。

撮影された映像が、それまで知られていなかった行動の記録であれば、学術的にも貴重な資料になります。研究者による分析や検証を経て、科学論文へと発展した例も少なくありません。

じつは、『ダーウィンが来た! 地球まるごと生きもの図鑑』の巻末には、番組の取材から生まれた科学論文のリストを載せています。

深海で生きている姿を世界で初めてとらえたことで大きな話題をよんだダイオウイカの撮影も、のちに論文化された代表例です。

研究者の知見がスクープ映像を生み、その映像が新たな科学的成果へつながっていく。自然番組と科学は、互いに力を与え合う関係にあるのです。

こうした発見を、専門家だけでなく、多くの人に映像で届けられることも自然番組の大きな役割です。

珍しい姿を見せて驚かせるだけではなく、生きものについての新たな事実を記録し、その驚きを視聴者と分かち合う。そこにも、自然番組を放送する意味があるのだと思います。

「あのときに、こんな機材があったらなあ……」

展示会場では、ついそんなことを考えてしまいました。

でも、本当に楽しみなのは、この先です。研究者と取材班が進化した機材を手に、次はどんな生きものの秘密を明らかにするのでしょうか。そう考えると、ワクワクせずにはいられません。

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