朝倉未来との一戦で「青木真也は“狂気”を取り戻せるか?」 青木真也という“偶像”と本来の自分…運命のゴングの瞬間に姿を現すのは?

9月10日に京セラドーム大阪で開催される『ANGEL CHAMPAGNE presents 超RIZIN.5 浪速の超復活祭り』にて青木真也が約10年ぶりにRIZIN参戦を果たし、朝倉未来と対戦する。
青木はいま、地元静岡と東京で二拠点生活を送っている。青木の母校・静岡学園の旧校舎近くで合流すると、青木は学生時代に汗を流した平澤寺の石段で階段ダッシュを敢行。その後、青木が足繫く通っている飲食店で独占インタビューを実施。
前編ではRIZIN参戦を話題の中心に、日本MMAの未来を担う秋元強真との練習を通し、青木が一競技者として43歳を迎えた自分とどう向き合っているかを語ってくれた。後編では青木が格闘技に対する価値観の変化と、朝倉未来戦でかつての狂気を取り戻せるかどうかについて迫った。
学生時代から足繁く通った「和風キッチン スエヒロ」。レジ横には青木真也のサインも

--ある意味、青木選手がキャリアの終わりに向かっているなかで、朝倉未来選手と戦えることは貴重な部分もあると思います。
青木:超ラッキーですよ。僕がカード発表会見で『残念だったな、俺だよ』(プロレスラーのヨシ・タツの決め台詞)と言いましたけど、あれは同世代の選手たちに言った部分はありますよね。朝倉未来の相手という限られた枠を俺が持って行ったわけだから。実際に『なんで青木なんだよ?』ってムカついた選手もいたと思います。
--でもそれは青木選手が、RIZINになびくことなく、ONEで独自のキャリアを積んだことで価値がある選手になったからだと思います。
青木:そうやって自分で自分の価値を上げてきたからこそですよね。ただみんなが思っているほど、俺は浮かれてないですよ。
ーーそれは静岡にいることも影響しているのですか?
青木:それもあるし、逆に東京がどれだけおかしいかも分かります。例えば物事が進むスピード感。静岡に戻って来ると東京にいる時のスピード感で仕事は出来ないですよ。格闘技で言えば、東京にいたら誰かを指導する・練習するとなったらお金のやりとりが当たり前にあるけれど、静岡はお金のやりとりがなくて一緒に練習しましょうみたいな持ちつ持たれつの関係になる。そういった部分で困ることもあるけど、それと同時に心が豊かになりますね。特に自分は生き急ぐ仕事をやってきたから、その速度を変えたいと思っていたので。
--青木選手は2004年にプロデビューして、20年以上、プロファイターとして戦っていますが、一般の人が経験する20年よりも内容はものすごく濃いものだったと思います。
青木:だから自分が生きるルールそのものを変えたい感じですね。あとは40歳を過ぎてから価値観が変わりました。2年前から静岡に活動の拠点を移すようになったんですけど、東京にいて今の(プロ)生活をいつまでもやってられねえよと思ったんですよ。このままこのレースを続けていたら、いつまでも終わらねえな、と。どうやって自分のキャリアを終わらせようかを考えた時の一つの選択がこれ(静岡に拠点を移すこと)でした。
--青木選手が43歳になって、2026年5月にONEとの契約にピリオドを打ち、RIZINで朝倉未来と試合することになるというのは大きな流れかもしれないですね。
青木:もっと早いタイミングでズバッとONEと契約が終わっていたら、ここまで続けていなかっただろうし、自分の感覚的には2年後ろ倒しになった感じなんですよ。
--青木選手自身、2024年1月にONE日本大会でセージ・ノースカット戦が決まった時「北米MMAのトップ選手に挑む試合はこれが最後になる」と話していました。結果的に大会当日に対戦相手が変わるという前代未聞の事態となりましたが、あそこでノースカットと戦っていたら、今の青木選手はいないでしょうね。
青木:本当はあの試合を最後にガラッと(キャリアを)変えたかったんで。それをミスして今に至るわけですけど、あれが正しい選択だったかどうかは今でも分からないです。あそこでONEと一度契約更新したのは今思えば欲をかいた部分もあったと思うし。ただ43歳になった今は2年前とは選択する基準が全然違ってきたんですよ。お金を稼ぐことが大事というより、今自分は何ができるかが大事で、例えばものすごくお金を稼いで豪華とされる暮らしをするよりも、ちゃんと自分の足で歩ける方が大事というか。そういう基準で物事を選択するようになりましたね。
“狂気”を取り戻せるかどうかは試合が始まるその瞬間まで分からない

--今回静岡まで取材に来させていただき、すごく街の雰囲気や時間の流れがゆったりしていて、落ち着ける場所だなと思います。それと同時に試合前にここまで気持ちが落ち着いてしまってもいいものかと思ってしまいます。やはり試合、特に格闘技で相手に勝つためには狂気も必要なのではないのかな、と。
青木:(静岡にいると)落ち着きすぎますよ。で、そういう狂気みたいなものが湧いてこなかったら、湧いてこないでしょうがない。そう思っています。もしそういった狂気を得るために何かを失わなければいけないのなら、狂気を得なくていいから穏やかに生きていきたい。今後の人生の尺を考えたら、今の自分にとっては後者でありたいと思っています。きっと格闘技ファンや有識者の方々がそういう俺を見て『青木真也は勝負にこだわっていない』と言うのも理解は出来ますが、結局これは俺の人生だから知っちゃこっちゃねえよって気持ちもあります。だから俺はそういうものも全部ひっくるめてやりますよ。死んでも勝ちたい。でも死にたくないでしょ、と思っちゃう。本当に試合当日、もっと言うなら試合開始のゴングがなった時に自分がどうなっているのかは分からないです。
--青木選手本人でも分からないことは、我々は想像することしかできないですね。
青木:それこそ昔で言うと戦いは神事として行われていて、神社に人を集めてやっていたわけですよ。そういうシチュエーションに酔えるかもしれない…というか酔えたらいいなと思いますよね。酔えたら助かるし、酔えたらラクです。それがないと試合に向けて『ああ面倒くせえな』となっちゃうし、面倒くさがって試合するのは青木真也と藤田和之くらいだと思います。あとはちゃんと(格闘技を)辞めたいですね。長く格闘技を続けたとしても、それは格闘家としての貯金を使い果たすだけじゃないですか。競技者としてもそうだし、プロとして築いてきたものもそう。それが分かっているうえで、戦い続けるというのは自分はキツイなと思います。
ーー今回RIZINで活躍している鹿志村仁之介選手やGLEAT所属のプロレスラー、エル・リンダマン選手がセコンドにつくということで、その2人が“酔える”青木真也をサポートしてくれそうですか。
青木:きっと鹿志村は青木真也の偶像を見てきた人間で、青木真也のリアルを知らないから、そういう人間が近くにいることで、俺自身が偶像の青木真也を演じようとすると思うんですよ。彼らが見てカッコいいと思える青木真也でいようとするというか。
--もしかしたら青木選手の制御する力を突破して、ゴーサインのスイッチを押してくれるのかもしれないですね。
青木:これが例えば気の知れた仲間や(ケンドー)カシンさんだったりすると自分のことを見透かされちゃうから、鹿志村やリンダマンがセコンドにいることでかっこいい先輩、かっこいい青木真也を見せようと思って酔える気がしています。でも結局そうなるかどうかは試合当日のゴングがなるまで分からない。とにかくベストの自分を作るだけですね。
インタビューのなかで何度も「青木真也は狂気を取り戻せるか?」という質問をぶつけたが、青木の答えは一貫して「試合当日のゴングが鳴るまで分からない」だった。その一方で、青木は京セラドーム大阪に集まるファンが背中を押し、セコンドを託した鹿志村やリンダマンが自分の狂気の引き金を引いてくれることを期待している。青木が狂気を取り戻せるかどうかは試合が始まるその瞬間まで分からない。だからこそ青木は最善を尽くし、9月10日時点で最高の青木真也としてリングに立つ。
文/中村拓己
9・10、朝倉未来の前に立っているのは“狂気”の青木真也か、“偶像”の青木真也か--

取材を終え、自転車で走り去っていった青木真也
