しかも8月の11登板を試合ごとに見ると、すべての試合でこの2球種が全投球の8割を超えている。ほとんど毎試合、「速球かフォークか」という勝負に徹していたことになる。

 先発なら、同じ打者と2度、3度対戦することも考える必要がある。一方、1イニングなら多彩な球種を長いイニングにわたって見せる必要性は薄くなる。実際の千賀も、この時期は力のあるフォーシームと代名詞の「ゴーストフォーク」に大きく比重を寄せていた。

◆球種の絞り込みとともに上昇したフォーシームの球速

 変わったのは球種だけではない。フォーシームの平均球速も、6月から8月にかけてじわりと上がっている。6月の96.1マイル(約154.7キロ)から、7月96.4マイル(約155.1キロ)、8月96.7マイル(約155.6キロ)という推移だ。

 もちろん、この推移だけで「1イニングになったから球速が上がった」とは言えない。コンディションの変化など別の要因も考えられる。ただ、短いイニングでの起用へ変わっていった時期に、使う球が絞られ、フォーシームの平均球速も上昇していたことは事実だ。

 つまり、千賀の好転を単純に「リリーフ転向」と片づけるのは少し違うのだろう。ロングリリーフでも苦しんだあと、1イニング中心の起用になった時期に、配球は2つの武器へ大きく寄り、速球の出力も上がった。その複数の変化が重なったことが、現在の好投を考えるうえで重要な手がかりになりそうだ。

◆好成績でも「守護神が天職」とは言い切れない理由

 もっとも、これだけで「千賀の天職は守護神」と結論づけるのも早い。

 8月23日にはメジャー移籍後初めて2日連続で登板したが、フォーシームの平均球速は95.4マイル(約153.5キロ)に留まり、サヨナラ本塁打を浴びた。1イニング限定で好結果を残していることと、連投を求められるクローザーとして安定して働けることは別の話である。

 現在9回を任されている背景には、本来の守護神デビン・ウィリアムズが右肩を痛めて離脱している事情もある。

 連投の適性や、本格的に守護神として定着できるかはまだ別の論点だろう。それでも、先発でもロングリリーフでも苦しんだ千賀が、1イニング中心の起用とともに別の顔を見せ始めた。そこに今の千賀の面白さがある。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。