「年金は月6万円台…貯金がどんどん減っていく」68歳女性が知らなかった〈年金生活でももらえるお金〉【社労士・行政書士が解説】
「年金をもらっているから生活が苦しくても公的支援を受けられない」--そのように思っている人は多いかもしれません。実は、年金収入やその他の所得が一定基準以下の場合には、年金とは別に「年金生活者支援給付金」が支給される場合があります。2026年度の老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5,620円です。月6万円台の年金で貯金を取り崩しながら生活する68歳女性の事例をもとに、対象者や給付額、見落としやすいポイントを社会保険労務士・行政書士の吉本翼氏が解説します。
「このまま貯金が減り続けたら、どうなるのでしょうか」
今回ご紹介するのは、68歳の近藤ミチコさん(仮名)です。ミチコさんは長年、個人商店を営む夫の手伝いをしていました。現在は夫と死別し、賃貸住宅で一人暮らしをしています。
ミチコさんが受け取っている老齢年金は月6万円台。家賃に加えて、食費や水道光熱費、通信費、日用品、医療費などを支払うと、年金だけで毎月の生活費を賄うことはできません。そのため、不足分はこれまで蓄えてきた預貯金から補っています。
当初は「しばらくは貯金もあるから何とかなる」と考えていたミチコさんでしたが、月を追うごとに預金残高は減っていきます。近年は食品や光熱費の値上がりも続き、以前より生活費の負担も重くなりました。
「今はまだ貯金があります。でも、毎月少しずつ減っていくのを見ると、この先が不安です」
ミチコさんの話を受けて、私は「老齢年金生活者支援給付金」という制度があることを説明しました。
老齢年金生活者支援給付金は、公的年金等の収入やその他の所得が一定基準以下の年金受給者の生活を支援するため、年金に上乗せして支給される給付金です。2019年10月に始まった制度ですが、名称が長く、年金そのものとの違いも分かりにくいため、知らない人も少なくありません。
「そんな制度があるんですか。年金は一度金額が決まったら、これ以上増えることはないと思っていました」
私の話を聞いたミチコさんは、驚いた表情を浮かべました。
年金受給者なら誰でももらえるわけではない…満たすべき3つの条件
老齢年金生活者支援給付金を受け取るためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
65歳以上かつ老齢基礎年金を受給している 同一世帯の全員が市町村民税非課税である 前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計が一定額以下である2026年度の場合、昭和31年(1956年)4月1日以前に生まれた人は、前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計額が80万6,700円以下であることが老齢年金生活者支援給付金の取得要件です。一方、昭和31年(1956年)4月2日以後生まれの人については、合計額が80万9,000円以下であれば要件を満たします。
今回のミチコさんは68歳ですので、「前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計が80万9,000円以下かどうか」という基準で判断します。仮にミチコさんの年金収入が年間78万円で、その他の所得がないとすれば、所得額については基準内です。
ただし、合計所得額だけで決まるわけではありません。老齢基礎年金を受給していることや、同一世帯の全員が市町村民税非課税であることも必要です。
たとえば、本人の年金収入が少なくても、同一世帯に市町村民税が課税されている家族がいればこの要件を満たしません。本人の収入だけではなく、世帯の状況まで確認する必要があります。
全員に「月5,620円」が支給されるわけではない
2026年度の老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は、月額5,620円です。2025年度の月額5,450円から3.2%引き上げられました。
ここだけを見ると、「老齢年金生活者支援給付金の対象になれば毎月5,620円がもらえる」と思うかもしれません。しかし、実際の給付額は、国民年金保険料を納付した期間や免除された期間などに応じて計算されます。
保険料納付済期間に基づく部分については、「5,620円×保険料納付済期間÷480月」という計算が基本です。さらに、国民年金保険料の免除期間がある場合には、免除期間に応じて算出した金額も加算されます。
つまり、5,620円は給付額を計算するための基準となる金額であり、対象者全員に同じ金額が支給されるわけではありません。ミチコさんが実際にいくら受け取れるのかについては、これまでの保険料納付済期間や免除期間などを確認して計算することになります。
所得が基準を少し超えていても対象になることがある
「自分の年金は基準を少し超えているから対象外」と思っている人にも、確認してほしい制度があります。それが「補足的老齢年金生活者支援給付金」です。
所得基準をわずかに上回っただけで給付額が突然ゼロになると、給付金を受け取れる人と受け取れない人との間で所得が逆転してしまう可能性があります。これを防ぐために設けられているのが、この補足的な給付です。
2026年度の場合、昭和31年4月2日以後生まれの人については、前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計が80万9,000円を超えていても、90万9,000円以下であれば、補足的老齢年金生活者支援給付金の対象となる可能性があります。
昭和31年4月1日以前生まれの場合は、90万6,700円以下です。補足的老齢年金生活者支援給付金では、所得に応じて給付額が調整されます。そのため、「基準を数万円超えているから自分は対象外」と決めつけず、該当する可能性がないかを確認することが大切です。
日本年金機構から届く「請求書」を放置しない
老齢年金生活者支援給付金を受け取るためには、最初に請求手続きが必要です。
すでに基礎年金を受給している人については、日本年金機構が市町村から提供される所得情報などをもとに、支給要件に該当するかを判定します。
前年より所得が下がるなどして新たに対象となった人には、「年金生活者支援給付金請求書」が送付されます。この書類が届いた場合は、「年金はもう受け取っているから関係ない」とそのままにせず、内容を確認して請求することが大切です。
一方、すでに年金生活者支援給付金を受給しており、翌年度も引き続き支給要件を満たしている人については、毎年あらためて請求する必要は原則ありません。日本年金機構が前年の所得情報などをもとに、引き続き対象となるかを判定します。
月数千円でも、貯金を取り崩して暮らす人には大きい
年金生活者支援給付金について、「月数千円程度ならそれほど変わらないのでは」と感じる人もいるかもしれません。
たしかに、この給付金だけで老後の生活費の不足がすべて解消されるわけではありません。しかし、ミチコさんのように年金だけでは生活費が足りず、毎月預貯金を取り崩している人にとっては、月数千円でも意味があります。仮に毎月5,000円を受け取ることができれば、年間では6万円です。その分だけ、預貯金から取り崩す金額を抑えることができます。
老後の生活では、「今いくら貯金があるか」だけではなく、「毎月どれくらいのペースで減っているか」も重要です。年金生活者支援給付金は、老後の生活を一変させるような高額な給付ではありません。それでも、限られた年金と預貯金で生活している人にとって、本来受け取れる給付を確実に受け取る意味は小さくありません。
なお、年金生活者支援給付金は所得税・復興特別所得税の課税対象にはなりません。「年金はもう決まった金額だから、これ以上受け取れるものはない」と考えている人でも、所得や世帯の状況によっては対象となることがあります。
日本年金機構から年金生活者支援給付金に関する書類が届いた場合には、まず内容を確認してください。自分が利用できる制度を知り、本来受け取れる給付をきちんと受け取ることも、老後の生活を守るための大切な一歩です。
吉本 翼
Wing社会保険労務士・行政書士事務所
代表

