「大腸がん」だけじゃない? “なりやすい人”が知るべき意外な正体

リンチ症候群は、遺伝性の大腸がんのなかで特に頻度が高い疾患として知られています。しかし、大腸がんだけでなく、全身のさまざまな臓器にがんが生じる可能性があることはあまり知られていないかもしれません。このセクションでは、どのくらいの頻度で見られるのか、また関連するがんの種類と生涯発症リスクの目安について説明します。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

リンチ症候群になりやすい人:年齢・発症頻度・関連するがんの種類

リンチ症候群がどのくらいの頻度で見られるのか、また発症しやすいがんの種類にはどのようなものがあるのかについて、このセクションで解説します。リンチ症候群の全体像を把握することで、自分自身のリスクをより正確に理解することができます。

リンチ症候群はどのくらいの頻度で見られるか

リンチ症候群は、遺伝性の大腸がんの中では最も頻度が高い疾患です。年間15万人程度が診断される大腸がん全体のうち、約2~5%(100人に2~5人程度)がリンチ症候群に起因するものと推定されています。また、子宮内膜がん全体の中でも約2~5%がリンチ症候群によるものと考えられています。

一般人口における保因者(遺伝子変化を持つ人)の割合は、200~400人に1人程度と推計されており、決して珍しい特殊な病気ではありません。

リンチ症候群による大腸がんの平均発症年齢は40代~50代であり、一般の大腸がんのピーク(60代~70代)と比べて10~20年ほど若いという大きな特徴があります。また、一度がんを治療した後に、大腸の別の場所や他の臓器に再び新しいがん(二次がん・異時性がん)が発生しやすい性質も持っています。

ただし、遺伝子の変化を持っている(保因者である)からといって、100%全員が必ずがんを発症するわけではありません。原因遺伝子の種類、生活習慣、定期検診の受診状況などによって発症の有無や時期は大きく異なります。

リンチ症候群に関連する主なのがんの種類

リンチ症候群は全身のさまざまな臓器にがんが発生しやすくなる「多発性腫瘍症候群」です。主に関連するがんの種類と、リンチ症候群保因者におけるおおよその生涯発症リスクは以下のとおりです。

・大腸がん:約30~80%(最も頻度が高い)

・子宮内膜がん(子宮体がん):約20~60%(女性において大腸がんと並ぶ主要がん)

・胃がん:約1~13%

・卵巣がん:約6~12%

・腎盂・尿管がん・膀胱がん(尿路系がん):約1~12%

・小腸がん:約4~7%

・胆道系がん・膵臓がん:約1~4%

・脳腫瘍(タルコット症候群と呼ばれる病型の一部):約1%

・皮膚の皮脂腺腫瘍・角化棘細胞腫(ムア・トーレ症候群と呼ばれる病型):比較的稀

このように多岐にわたりますが、中心となるのは大腸がんと子宮内膜がんです。どの臓器のリスクが特に高くなるかは原因遺伝子のタイプによっても異なるため、遺伝カウンセリングを通じて自分の遺伝子型に合わせた検診計画を立てることが重要です。

まとめ

「血縁者に若い年齢でがんになった人がいる」「家系内に同じがんの人が複数いる」という場合は、決して一人で抱え込まず、遺伝外来や消化器内科、婦人科などの専門機関にご相談ください。定期的な内視鏡検査や婦人科検診、場合によってはリスク低減手術などの選択肢を持つことで、がんを予防し、万が一発症しても早い段階で治療を開始できれば、治癒の可能性を大きく高めることが期待できます。 正しい知識と医療ケアを取り入れ、大切な健康を守る第一歩を踏み出しましょう。

参考文献

国立がん研究センターがん情報サービス「リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)」

一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会「遺伝性腫瘍ハンドブック・ガイドライン」

国立がん研究センターがん情報サービス「大腸がん」

国立がん研究センターがん情報サービス「子宮体がん(子宮内膜がん)」

厚生労働省「がん対策推進基本計画」