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夢のマイホームを建築中、工務店の倒産で工事がストップ--。こんな悪夢のような事態が起きた場合、どのように対処すればいいのでしょうか。工務店の破産に伴う手続きと、施主が取るべき対応について、横浜パートナー法律事務所の原田大士が解説します。※本記事はプライバシー保護のため登場人物を仮名とし、事案概要を一部変更しています。

「好みの家を建てたい」自ら探した工務店に計4,000万円で発注

山田直樹さん(38歳)と妻の美咲さん(36歳)は、子どもが小学校に上がるのを前に、戸建住宅への住み替えを考えるようになりました。

何軒か建売住宅を見て回りましたが、間取りや設備など、なかなか希望に合う物件が見つかりません。そこで2人は、直樹さんの家族が代々所有してきた土地に、自分たちの希望を取り入れた家を建てることにしました。

ネット検索で見つけたのが、地域で長年にわたって注文住宅の建築やリフォームを手掛けてきた「若葉工務店」です。

Webサイトには数多くの施工事例が掲載され、参加した住宅見学会の印象もよいものでした。担当者も「広いリビングが欲しい」「収納を多くしたい」といった2人の希望を丁寧に聞いてくれます。

「ここなら、希望通りの家を建ててもらえそう!」

そう考えた山田さん夫妻は、若葉工務店との間で、請負代金4,000万円の建築工事請負契約を締結しました。

請負代金は、①契約時、②着工時、③その2ヵ月後、④完成・引渡し時と、工事の進行に合わせて分割して支払う契約になっていました。

契約通り2,800万円を支払ったが…工事がストップ!?

工事は順調に始まりました。

山田さん夫妻も、契約で決められた時期が来るたびに代金を支払い、上棟を終えたころまでに、合計2,800万円を若葉工務店へ支払っていました。

ところが、そのころから次第に工事の進みが遅くなっていきました。そしてしばらくすると現場にはほとんど人が来なくなり、担当者とも連絡が取れなくなってしまったのです。

連絡が途切れてから1週間後、夫妻のもとに一通の書面が届きました。差出人は、若葉工務店ではなく弁護士でした。

書面は、若葉工務店が事業を停止したこと、若葉工務店への直接の金銭請求などは控えるようにという受任通知でした。

夢だったマイホームは完成しないまま、突然工事が止まってしまったのです。

払い過ぎた800万円、返還を受けることは可能か?

山田さん夫妻は、急いで別の建築業者に相談し、現場を確認してもらいました。すると、これまでに完成している工事は、金額でおよそ2,000万円程度ではないかとのこと。

夫妻が若葉工務店に支払った金額は2,800万円です。つまり、約800万円を工事の出来高以上に支払っていることになります。

夫妻は、書類を持参して弁護士のもとを訪れました。

「工事をしてもらった2,000万円分は、仕方ないと思っています。ただ、残りの800万円は、まだ工事をしてもらっていない分だという認識です」

直樹さんは弁護士に尋ねました。

「この800万円は戻ってきますか?」

弁護士は、重い口を開きました。

「残念ながら、若葉工務店が本当に破産するのであれば、800万円全額を取り戻せる可能性は高いとはいえません」

今年上半期、建設業の倒産・廃業は「リーマン超え」で過去最多

工務店の破産ケースが増加しています。

2026年7月にリリースされた帝国データバンクのレポートによると、2026年上半期(1-6月)に発生した「建設業」の倒産(負債1,000万円以上、法的整理)は1,043件、同期間における休廃業・解散(以下「廃業」)は6月末までに4,894件判明とのこと。今年上半期における建設業の倒産・廃業合計=「撤退」累計は5,937件で、上半期としてはリーマン・ショック直後の2009年(5,811件)を超えて、過去最多となっています※。

※ 出所:帝国データバンク『「建設業」の倒産・休廃業解散動向(2026年上半期)』(https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260714-kensetsu26y1-6/)

背景には、建築資材の高騰、職人不足による人件費の上昇、さらに住宅ローン利率の上昇などに伴う消費者の購買意欲の低下などといった事情があるとされています。

若葉工務店から届いた弁護士の通知は、まさに破産手続きの入口となりうるもので、いわゆる「支払停止」と評価される類の書面でした。

そして、いったん工務店が破産手続に入ると「工事をしていない分のお金だから、その分を返金してください」という単純な話ではなくなってしまうのです。

実際に工務店が破産申立てをする場合の「手続き」と「流れ」

では、実際に工務店が破産申立てをする場合、手続きはどのような流れで進むのでしょうか。

①弁護士が工務店に対する債権の種類や金額を調査

弁護士は受任通知後、各債権者に債権調査票などを送付し、工務店に対する債権の種類や金額を調査します。

②裁判所への破産申立てと、破産管財人による会社の財産管理の開始

その後、会社の資産や負債などを整理したうえで裁判所に破産を申立て、破産手続が開始されると、裁判所から選任された破産管財人が会社の財産を管理します。

③破産管財人による破産財団の形成と配当

破産管財人は、残された財産を換価するなどしたうえで、法律のルールに従って債権者への配当を行います。

山田さん夫妻も、手続きの各段階で債権を届けるなど、ルールに則った請求や手続きを行わなければなりません。そのため、山田さん夫妻が若葉工務店に対し、自分たちを優先して弁済してもらうことは、基本的に期待できません。

破産手続は、限られた財産をルールに従って、債権者に公平に分配する手続きです。したがって、若葉工務店から優先的に支払いを受けていたとしても、破産法の規定で、破産管財人から「取消し」「持ち戻し」を請求される可能性が高いのです。

そして、会社に十分な財産が残っていなければ、最終的な配当が期待できないことも多いといえます。

一度破産に向かって工務店が動き出すと、その破産の手続きの中で自分の権利を主張していくしかない、ということです。

未完成を放置できない…「別業者に工事を引き継ぐ」方法は?

説明を聞いていた山田さん夫妻には、もうひとつ気になることがありました。

「お金のことはわかりました。でも、このまま家を放っておくわけにいきません。別の工務店に続きをお願いすることはできないのでしょうか?」

確かに、工事途中の建物を長期間放置することは避けたいところです。

しかし、若葉工務店が工事を止めたからといって、それだけで請負契約が終了するわけではありません。

契約が続いている以上、若葉工務店には家を完成させる義務が残っていますし、山田さん夫妻にも完成後の残代金を支払う義務が残っています。契約が続いている以上は、先ほどの「払い過ぎた800万円」の返還を求める根拠も明確ではありません。

早急に別の工務店へ工事を引き継ぐのであれば、山田さん夫妻は若葉工務店との請負契約書を確認したうえで、契約内容に従って解除の通知を行い、現在の契約関係を終了させることを検討します。

契約を解除することで、工務店に代金を二重払いするリスクを抑えるだけでなく、解除に基づく原状回復権という明確な権利として、出来高を超える既払部分の返還を求めることができます。ただし、回収できるかどうかは別問題です。

そのうえで、別の業者に残りの工事を請け負ってもらうことになるでしょう。

破産手続開始後「破産管財人に解除の判断を委ねる」場合も

一方、若葉工務店との請負契約を解除しないまま破産申立てがなされ、裁判所から破産手続開始決定が出る場合もあります。

そのような契約上の義務が双方に残っている場合、破産管財人は、契約を解除するか、契約を続けて工事を完成させるか、いずれかを選択することができます(破産法第53条)。

破産管財人が解除を選択した場合には、すでに支払った代金の精算が問題となります。一定の場合には、破産手続の中で、通常の破産債権者よりも優先して返還を受けられる扱いになることもあります(破産法第54条)。

もっとも、破産申立てを待って工事現場を長く放置することには、盗難や劣化のリスクもあります。解除して早期に別業者へ引き継ぐべきか、それとも破産管財人の判断を待つべきかは、工事の進捗状況や破産の見通しなどによっても変わってくるといえます。

倒産予測は困難、契約内容などでリスクを軽減する対策を

工務店の倒産を事前に予測することは容易ではありませんが、請負契約を結ぶ際に、工事の進捗を大きく上回る前払いを避けるほか、工務店が倒産した場合の保証制度が利用できるか確認しておくなど、一定の対策は考えられます。

工務店から破産準備の通知を受けた場合には、払い過ぎた代金の回収だけでなく、現在の請負契約をどう整理し、未完成の建物をどうするのかについて、早めに弁護士等へ相談することが重要だといえます。

原田 大士
横浜パートナー法律事務所 弁護士