JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2026年8月26日に開催された第108回宇宙開発利用部会にて、2023年9月に打ち上げられたX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」の定常運用期間を延長することを報告しました。


【▲ 観測を行うX線分光撮像衛星「XRISM」の想像図(Credit: JAXA)】

想定以上の成果をもたらしてきたXRISM

XRISMは2016年に打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ」(運用終了)の後継機として、NASAや欧州宇宙機関(ESA)などとも協力して開発された科学衛星です。


宇宙の高温プラズマに含まれる元素の組成や運動を高分解能X線分光によって精密に測定し、銀河団の構造形成の歴史や宇宙における物質循環、超大質量ブラックホール周辺のエネルギー輸送と循環を解明することを目的とするXRISMには、軟X線分光装置「Resolve」と軟X線撮像装置「Xtend」が搭載されています。


2023年9月に小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」とともに「H-IIA」ロケット47号機で打ち上げられたXRISMは、2024年2月に定常運用段階へ移行。ケンタウルス座銀河団内部の高温ガスの動きを世界で初めて高精度に測定した他に、クエーサー「PDS 456」が放つ風は最低5種類の速度を持つガスの塊で構成されていることを明らかにしたり、スターバースト銀河「M82」の中心領域における高温ガスの速度のばらつきを初めて直接測定するなど、さまざまな観測を行ってきました。


JAXAによると、XRISMは想定以上の成果をあげており、現状の運用レベルでのミッション継続を求める要望が国内外から寄せられているといいます。


【▲ X線分光撮像衛星「XRISM」の軟X線撮像装置「Xtend」で観測した銀河団「Abell 2319」。可視光線で取得された画像を背景に、Xtendの観測データ(紫色)が重ねられている。白色の四角はXtendの視野を示す(Credit: X線: JAXA、可視光線: The Digitized Sky Survey)】
【▲ X線分光撮像衛星「XRISM」の軟X線分光装置「Resolve」で取得された超新星残骸「N132D」のスペクトル。白色のスペクトルがResolveで、灰色のスペクトルはX線天文衛星「すざく」で取得されたもの。背景はXtendで観測されたN132D(Credit: JAXA)】
【▲ XRISMの軟X線分光装置「Resolve」で取得されたケンタウルス座銀河団中心部のX線スペクトル。背景はアメリカ航空宇宙局(NASA)のX線宇宙望遠鏡「Chandra(チャンドラ)」の観測データを使って作成された画像(Credit: JAXA)】

Resolveの保護膜は展開できないまま

その一方で、XRISMはトラブルも抱えています。観測装置のひとつであるResolveには地球の大気などから検出部を保護するための保護膜が設置されていて、打ち上げ後に開放される予定だったのですが、2026年8月の時点でも開放に成功していません。


保護膜は厚さ250μmのベリリウム膜でできており、エネルギーが約1800eV以下のX線はほぼ吸収・遮断されてしまいます。開放に成功すれば、Resolveは約300eVまでのX線を捉えられるようになりますが、現状では約1800eVよりも高いエネルギーのX線しか観測できず、有効面積も制限されていることから、達成に至っていない科学目標が複数あるといいます。


保護膜を開放できない原因を調査したJAXAは、開放機構に接続されているハーネスが機構の動きを阻害してしまっていると結論付けています。これまでに振動を発生させてハーネスの影響を取り除くことが試みられたものの、十分な振動が得られていないとみられており、前述の通り開放には至っていません。


定常運用期間を2030年3月まで延長へ

こうした事情を踏まえて、JAXAはXRISMの定常運用期間を2030年3月まで3.5年間延長することを決定しました。その理由として、現状の観測運用を延長することでさらなる科学的成果の創出が期待できることに加えて、Resolveの保護膜展開に成功すれば“圧倒的な成果”をあげられるのが明白であるとJAXAは述べています。


問題の保護膜展開については、より強い振動を発生させたり、機体の姿勢を変更して温度を調整することでハーネスの硬さを変えたりする方法が検討されています。いずれもリスクを考慮する必要があり、より確実な方法も引き続き模索するということです。


JAXAによれば、仮にResolveの保護膜展開に成功した場合、1年間の観測でミッションを達成できる見込みです。また、保護膜展開に至らなかった場合でも、3.5年間の延長によって観測時間を確保し、制限されている有効面積を補償する形でミッション達成を図るとしています。


なお、Resolveの検出器を冷却するために搭載されている液体ヘリウムの残量は、運用実績を踏まえれば2029年9月~12月頃までもつと見込まれています。現状でも高い科学的成果をあげてきたXRISMですが、保護膜の展開に成功し、さらなる成果をもたらす状況になることが期待されます。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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