“絶世の美女”は近づいてこない…元公安捜査官が明かす、日本人男性を最も油断させる「ハニトラ女性のタイプ」
※本稿は、勝丸円覚『日本を静かに侵食するスパイの手口』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■スパイは“あなたの弱点”を知っている
ハニートラップや人間関係を使った工作というと、つい「色仕掛け」や「美人局(つつもたせ)」のような、わかりやすい場面を思い浮かべがちです。もちろん、それもあります。しかし、現実のスパイ活動は、そこまで単純ではありません。本質は、「相手が何に弱いのかを見抜き、そこに合わせて接近してくる」ということです。
これは、外国のスパイ組織だけがやっている特殊な話ではありません。公安警察が情報提供者を使うときも、あるいは民間企業が人を引き抜こうとするときも、基本的な発想は同じです。
相手は酒に弱いのか、お金に弱いのか、異性に弱いのか、あるいは社会的な承認欲求が強いのか。その人が何を与えられると喜び、何に心が動くのかを見たうえで、そこに合わせた形で接近していくのです。
スパイも、まったく同じことを考えています。つまり、最初から一律の手口で来るわけではない。誰にでも同じように金を渡すわけでもないし、誰にでも同じ異性をあてがうわけでもない。
その人を観察して、「この人は何になびくか」を見極めたうえで、最も効果のあるやり方を選ぶのです。
■狙われるのは「金・異性・酒」
一般の読者の方に、まず知っておいていただきたいのはこの点です。スパイの接近方法はいくつもあり、自分がどこを狙われやすいのかは、人によって違う。
・お金に心が動く人もいる
・異性に弱い人もいる
・酒席で気が大きくなる人もいる
そして、そこでターゲットにした相手が、金銭に弱いのか、異性に弱いのか、酒に弱いのかを見抜かれると、その方向の接待や働きかけが始まります。
結局のところ、やっていることの骨格は、スパイも民間企業も同じです。相手の弱点を見て、そこに合わせて取り込んでいく。ただし、スパイの場合は、その先にあるものが、単なる転職や商売ではなく、国家的な情報収集や工作活動だという点が違うだけです。
スパイというと、特別な訓練を受けた冷徹な工作員を想像する方が多いかもしれません。もちろん、そうした側面がないわけではありません。けれども、実際に情報を取る場面で最も重要になるのは、もっと人間的な能力です。
スパイが相手の好みや弱みを見抜き、それに合わせて接近の仕方を変えてくる、というのはすでにお話ししましたが、この中に、ハニートラップも入ります。
■「自分の身近にもいそうな、きれいな人」が一番効く
ハニートラップは、確かに今も有効な手段の1つです。ただし、多くの人が思っているほど、それが常に主流というわけではありません。

あくまで、相手が異性に強い関心を持っている、あるいは遊び好きであることがわかっていて、その弱点を使えば情報が取れると判断した場合に使う手段です。スパイ活動全体の中では、数ある手法の1つに過ぎません。
しかも、ハニートラップというと、誰もが絶世の美女や映画のような派手な場面を想像しますが、実際にはそうではありません。
むしろ、あまりに現実離れした美女のほうが、相手に警戒されて失敗することが多い。常識的に考えて、自分に突然、元プロテニス選手のシャラポワのような美女が近づいてきたら、「これは何かある」と思うに決まっています。ぼったくりか、美人局か、何か裏があるのではないかと警戒するのが自然です。
現実のハニートラップはもっと地味です。その人の「ストライクゾーン」に入る人をあてがうのです。
派手すぎず、しかし魅力的で、しかも手が届きそうな距離感にいる。絶世の美女ではなく、「自分の身近にもいそうな、きれいな人」。これが一番効く。
■“好み”にあわせた最適化
中国は、日本に住んでいる、あるいは過去に日本にいた中国人の膨大なデータベースを持っているとされます。その中には、日本語が堪能で、日本人の好みや会話のツボを理解している人材もいる。相手の好みに合った人物をハニートラップ要員として連れてくることも理論上は可能です。
つまり、誰にでも同じ女性をあてがうのではなく、その人の好みに合わせて最適化してくるのです。
ロシアが日本に対してハニートラップをあまり活発にやらないとされるのも、そこに理由があります。
基本的にロシア人は白人が多いので、日本では目立ちすぎる。しかし、中国や北朝鮮のように外見が日本人に近い場合は、そこに自然に入り込みやすい。
逆にロシアは、ヨーロッパなどではハニートラップをやっています。要するに、その国、その相手に合った形でやり方を変えているということです。
■「酔って千鳥足の女性→帰れない」は典型的な手口
ハニートラップに引っかからないために一番大事なのは、「自分は狙われるわけがない」と思わないことです。
私の知る限りでも、某国大使館関係のレセプションなどでは、名刺を渡した後、1週間から10日ほどで連絡が来るというのは珍しくありません。そこから食事に誘われるケースもあります。

公安外事課時代の私の師匠は、逆に「どんな罠(わな)が仕掛けられるか見てみよう」と行ったことがあったそうですが、やはり典型的なパターンが待っていたそうです。
最初はレストランで飲む。すると相手の女性がやたら早いペースで飲み、帰る頃には千鳥足(ちどりあし)になる。「このままでは帰れない」「気持ち悪い」と訴える。そこで、優しい人ほど「大丈夫ですか」と言って、ビジネスホテルや相手の自宅まで送って行ってしまう。その時点で、もう危ない。
何もなくても、2人きりになったところを隠し撮りされているかもしれない。シャワーを浴びている間に、携帯やパソコンの中身を見られているかもしれない。
この手口は古典的ですが、今でもあります。
私が民間のコンサルタントとして受ける相談の中にも、年に1、2回は出てきます。ということは、表に出ていないケースを含めれば、潜在的にはもっと多いはずです。まず大事なのは「2人きりで会わないこと」です。そして、「こういう手口がある」と知っておくことです。
■狙われる人の共通点 ①自分はモテると思っている人
ハニートラップに引っかかりやすい人、あるいはターゲットになりやすい人には、実はある共通点があります。
1つ目は「自分はモテると思っている人」、あるいは「自分に人が寄ってくることを不思議に思わない人」です。
私自身を例に出せば、引っかかりにくいタイプだと思っています。なぜかというと、自分はそんなにモテる人間ではないという自覚があるからです。だから、自分に言い寄ってくる人がいたら、とりあえず疑う。まず「何かあるのではないか」と考えるわけです。
逆に危ないのは、中途半端に若い頃モテた人、今もそこそこモテると思っている人です。そういう人は、異性が近づいてきたときに、「やっぱり俺はここでもモテるんだ」と受け取ってしまいやすい。これが危ないのです。
公安部の部内講習でも、昔から教官が言っていたのはそこでした。
「お前らがそんなにモテるわけがない。向こうから寄ってきたら、まずスパイを疑え」疑って疑って、疑った結果、スパイの要素がなければ、その時点で初めて次に進めばいい。まずは疑うところから始めろ、ということです。
これは、かなり本質を突いています。ハニートラップに限らず、スパイに取り込まれやすい人というのは、「自分に都合のいい出来事」を疑わない人です。自分にとって心地良い現実を、そのまま信じてしまう人とも言えます。
■共通点 ②秘密主義の人 ③プライドが高い人
2つ目は秘密主義の人。あまりプライベートを話さない人、友だちが少ない人、相談相手がいない人。そういう人は、「何かおかしいな」と思っても、すぐに誰かに話しません。自分の中で抱え込んでしまう。

逆に、ざっくばらんで自己開示が多い人は、「最近、白人の美女と知り合ったんだけど」などと周囲に話してしまう。そうすると、「それ、危ないぞ」と誰かが助言してくれることがある。そこで我に返る瞬間があるのです。
だから、孤立している人、秘密主義の人、相談しない人は危ない。これは、現職時代も、民間のコンサルタントになってからも、ハニートラップに引っかかった人を見ていて共通して感じるところです。
3つ目は、プライドが高い人です。プライドが高いというのは、言い換えれば、「自分は特別だ」「自分は選ばれる側だ」と思っている部分があるということです。そこを持ち上げられると弱い。
「あなたはすごい」
「こんなすてきな人と初めて出会った」
「もっと話を聞きたい」
こういう言葉でくすぐられると、警戒心が緩んでしまう。これはキャバクラと同じです。普段満たされていない承認欲求やプライドを、ちょうどいい角度から持ち上げられると、人は落ちやすい。しかも、本人は「自分は認められた」と思っているので、なかなか冷静になれません。
■共通点 ④お金に余裕がある人
最後に、ある程度お金に余裕がある人も危ない。不倫や浮気、遊びというのは、お金がなければ続きません。カードも持てないような状態の人は、そもそもそういう場に行きにくい。ある程度、自由に使える金があり、気分よく遊べる人のほうが、結果として引っかかりやすいという面はあります。
もちろん、これは絶対ではありません。公安の教官が強調していたのも、「モテる人もモテない人も関係なく、とにかく向こうから来たら、まず疑え」ということでした。
要するに、条件に当てはまるから危ないというより、誰でも引っかかる可能性はある。その中でも、特に落ちやすい傾向がある人がいるということです。
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勝丸 円覚(かつまる・えんかく)
元公安捜査官
1990年代半ばに警視庁に入庁し、2000年代はじめから公安・外事分野で経験を積む。数年前に退職し、現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活動を行う。TBS系ドラマ『VIVANT』では公安監修を担当。著書に、『警視庁公安部外事課』(光文社)、『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社)、『警視庁公安捜査官 スパイハンターの知られざるリアル』(幻冬舎新書)などがある。
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(元公安捜査官 勝丸 円覚)
