【関 真弓】地球温暖化の影響で、大阪が「バナナの名産地」になっていた

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大阪の農産物と言えば、以前このコラムでもご紹介した水なすやぶどう(デラウェア)などがよく挙げられるが、最近にわかに注目を浴びているのがバナナだ。地球温暖化の影響で、大阪各地でバナナが栽培されている。そのひとつ、大阪府高槻市にある農業法人「福福ファーム」を訪れた。

大阪でバナナ栽培?

大阪でバナナが栽培されている、という情報を見かけるようになったのは数年前からだ。ざっと調べたところ、江阪や富田林、堺などでもバナナを栽培している。大阪の夏は昔からめっちゃ暑いが、昨今の地球温暖化(灼熱化と言い換えた方がよさそうだが)の影響で、今や完全に「熱帯化」している。熱帯・亜熱帯地域を原産とするバナナが注目されているのん?

訪れたのはJR高槻駅から北へ約6キロ、大阪府高槻市原(はら)地区にある農業法人「福福ファーム」。高槻は、京都~大阪間の都市の中でも一、二を争う大都市で、駅周辺はとても賑わっているが、車で10~15分走るだけで山がすぐ近くに見え、穏やかな里山が広がる。経済アナリストの故・森永卓郎さんが提唱された都会に近い田舎、「トカイナカ」だ。

なだらかな斜面を描く田園風景の中に大きなビニールハウスが見えた。あれがバナナ園?

大阪の夏はバナナにも暑すぎ

意外にも、バナナ園はビニールハウスの中にあった。遮光シートが張られていて、思いのほか涼しい。直射日光が当たると光が強すぎて、バナナの葉が焼けてしまうのだそうだ。

バナナ栽培の適温は気温20~30度くらい。大阪は夏は暑すぎ、冬は寒すぎてハウス栽培でないと、うまく育たないらしい。大阪は今や、バナナの産地・フィリピンよりも暑いのだそう。マジで気候変動を止めないとアカンのんちゃうのん?

「福福ファーム」で作るバナナのブランド名は「福バナナ」。いかにも運気が上がりそうないい名前だ。バナナ園の広さは約1反(1千平方メートル弱)、テニスコート3~4面ほど。3つのビニールハウスの中に、165本のバナナの木が元気に育っている。

中に入ると、畝に整然とバナナが並んでいて、傘に使えそうなほど大きな葉っぱがワサワサ揺れている。見ているだけで、何だか元気が湧いて、楽しい気分になってくる。バナナって不思議な魅力がある植物なんやね。

バナナは、1本の木(正確には偽茎(ぎけい)と呼ばれる葉が何枚も重なり合ったもの)にひとつ、赤紫色の大きな花(蕾)をつける。バナナの花びらが外側から1枚ずつめくれ上がると、中から小さな花とバナナの子どもたちが姿を現し、これらがバナナの房になる。

こうしてバナナは年に1度、約10~15の房をつける。1本の木から収穫できるバナナはおよそ120~130本。房を収穫した後は偽茎を切り倒すが、根元から子株が出てくるので、良い株だけを残して次世代のバナナを育てていく。

「福福ファーム」では、完全無農薬・有機栽培で育てているため木の生育がまちまちで、4~12月頃にかけて順々に実をつける。栄養を存分に実に届けるため、ギリギリまで待ってから収穫、そこから食べ頃になるまで室(むろ)で追熟させる。

スーパーなどでよく見かけるバナナは、キャビンディッシュという品種だが、「福バナナ」はグロスミッシェルという品種で、少し小ぶりで皮が薄い。キャビンディッシュより炭水化物の含有量が少なく、カロテンとアミノ酸が多く含まれているそうだ。

バナナの苗を植えたのが2年前。初めての収穫が去年、2025(令和7)年の秋。200本近く収穫した中から100本余りを地元スーパーと農園で直接販売したところ、完売。大人気となった。

皮ごといける「福バナナ

完全無農薬・有機栽培の「福バナナ」は、皮ごと食べることができる。傷がついて売り物にならないバナナを試食させてもらった。少し切っただけで、ほわ~んと甘いバナナの香りが広がる。皮も2ミリ前後しかなく、確かに薄い。

口に入れると、ねっとりとした果実とシャクシャクした皮のバランスが抜群にいい。果実は少し酸味があって、とても美味しい! 皮ごと食べてもえぐみを全然感じない。皮ごとバナナを食べるゴリラやおサルさんの気持ちが少しわかったような気がする。

メイド・イン・タカツキのバナナ、めちゃめちゃ美味しいやん!

バナナプロジェクト開始

「そもそも、高槻市の農業を守っていきたいが何かできないか、というところから始まったプロジェクトです」と福福ファームの松田和也さんは話す。

「高槻市は、街の中心から少し車を走らせるだけで緑豊かな自然がある恵まれた町ですが、現状は危機的で、原地区の農家さんの平均年齢は80歳です」

「福バナナ」を作っている「福福ファーム」の親会社・株式会社高浄(たかじょう)は、高槻市を拠点とし、ビルメンテナンスや福祉用具レンタルなどを手がける企業だ。「ありがとう」や「喜び」の気持ちでつながる事業の実現を目指し、障害者の就労継続支援事業なども行っている。

高槻市では、農地はあるのに、高齢化などを理由に耕作放棄地などが増えている。市から何とかならないかとの働きかけあり、4年前の2022(令和4)年、農業と福祉が連携し、障害者が農業分野で活躍することで、農業の発展と共に障害者の自信や生き甲斐を創出する「農福連携」の農業法人「福福ファーム」が立ち上がった。「働いてくれる人が喜び、やり甲斐を感じてほしい」という会社理念の実現を目指しつつ、将来的に収益が見込める「高付加価値作物」として、バナナを作ることとなった。

耕作放棄地の地主を紹介してもらい、土地を借り受けた。長年ほったらかしだった耕作放棄地は草が伸び放題で、トラック2台分のゴミが出てきたそうだ。

整地をした後ハウスを建て、その周りに深さ約1。5メートルの溝を掘り、暗渠(あんきょ)=地中に埋めた水路/排水路を作った。元々水田だった場所なので、雨が降ると水が溜まるのを防ぐためだ。

岡山のバナナ園からやってきた苗木を植えたのが2024(令和6)年。苗を植える際には周囲1。5メートル、深さ約80センチの穴を掘り、専用の培養土を入れて植えつけた。

バナナは、思うより手間がかかる作物だ。春から秋まで毎日の水やりは欠かせない。根元にもやるが、葉の裏面から吸水するので葉にも散水する。肥料は有機の液肥(液体肥料)と粒子タイプを使うが、液肥は根元にやるだけではなく、希釈したものを霧状にして散布。こうした作業を行っているのが、同社の就労継続支援B型事業所・ユニークアーチで働く皆さんだ。

「ここでは皆さんが、めちゃめちゃ楽しみながら仕事をしてくれています。バナナに水やる時には1本1本声をかけたり、『青々としたバナナの葉っぱを見てたら、目が良くなった!』と喜んでくれたり。就労継続支援事業所で働いている人達は、毎日会社へ行くことがつらい、という人が多かったりするんですが、この作業場には毎日喜んで来てくれる。そういう場を一緒に創りあげているのが、すごく嬉しいですし、やり甲斐がありますね」(松田和也さん)

縁がつないだバナナ栽培

元々、料理人だった松田さん。料亭で修行後、高槻の居酒屋で働いていた時、社長(株式会社高浄社長・長井正樹氏)に出会った。でも、その時は別の人からフィリピンで会社を作るから一緒にやらないかと声をかけられ、16年間フィリピンで、マンゴーやパイナップルなど果物の冷凍加工・輸出の仕事に携わった。

コロナ禍と子どもが中学に上がるタイミングで子どもを日本の学校に入れたいと思い、帰国。3年ほど石垣島に滞在している際に長井氏と再会し、「農福連携」の会社を作るから一緒にやろうと声をかけてもらって、バナナ栽培を始めた。

果物加工の経験はあっても、農業は初めてだった松田さん。食品加工は、遅くとも翌日くらいには仕事の結果が出るが、農業は今やってることが正しいのか正しくないのか、その結果が分かるのが数ヶ月後から1年先。年に1度しか経験できないことを、成果を出しながら続けることはすごく難しいが、だからこそ面白い。農家さんは本当にすごいし、農業の可能性を感じている、と目を輝かせる。

人を笑顔にする「福バナナ

まだ始まったばかりと言っていい「福バナナ」のプロジェクト。収益化を目指し、葉をハーブティーや紙に加工するなど、葉や茎も捨てずに活用する商品開発も進めている。また、収穫体験ツアー(3千円/1人)や、小学生を対象にした夏休み期間中の自由研究企画「バナナを研究しよう!」(2千円/1人)なども開催。このような取組みで「福バナナ」の認知度を上げ、高槻名産のバナナとするべく情報発信を行っている。

「フィリピンや沖縄にいた時もですが、僕は仕事を通じてコミュニティを作りたいんです。皆で何かを創り上げていく中に喜びがある。ここ原地区は毎年、春に大蛇祭、夏に盆踊りが行われますが今年、地域の方から祭に呼んでもらえたのが嬉しかったですね。折角ここでバナナを作っているんですから、皆さんと一緒に地域を盛り上げていきたい」

「福バナナ」は現在、ネット販売はせず、不定期で地元スーパー・モリタヤでの販売や農園での直接販売の他、Instagramや電話など、直接連絡があった人にのみ販売を行っている。

「数が少ない、ということもありますが、AIの時代だからこそ、『福バナナ』は人の手から手へ、ぬくもりが伝わる形でお渡ししたいと思っています。僕自身、人の縁で生きてきた人間ですから」

人を呼び、人をつなぎ、人を笑顔にする「福バナナ」。メイド・イン・タカツキ、メイド・イン・オーサカの名産品になる日はそう遠くない。

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