【島沢 優子】小6の夏休み明けから行き渋り…不登校の息子が「明日こそ学校に行く」と親を喜ばす深層心理
9月1日。子どもたちをめぐる深刻な現実が、毎年この時期に浮かび上がる。「9月1日問題」と言われるこの問題は、文部科学省の調査で、平成21年以降の児童生徒の自殺者数を日別にみると、8月後半から増加し、特に長期休業明けの9月1日に多くなる傾向があることから、そう呼ばれている。また、夏休み明けには、学校に行き渋る子どもも増える傾向にある。文部科学省の調査によると、2024年度に不登校となった小中学生は35万3970人にのぼり、過去最多を更新。不登校の子どもの数は12年連続で増え続けている。
子どもたちの心や行動にさまざまな変化が表れるこの時期。親は、どのように子どもと向き合えばいいのか。そんな親の悩みに40年にわたり寄り添ってきたのが、相談員の池添素(いけぞえ・もと)さんだ。書籍『不登校から人生を拓く--4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」』(講談社)は、著者でジャーナリストの島沢優子さんが、池添さんと不登校を経験した親子への取材を通じて、葛藤や、その先にある変化を丁寧に描いている。この記事では、夏休み明けから学校への行き渋りが始まった親子のエピソードを、本書から抜粋してお届けする。
小6夏休み明け、不登校の始まり
イクコさんのひとり息子リョウトくん(いずれも仮名)の様子が変わったのは、小学6年生の夏休み明け9月から。不登校に向かう助走の始まりだった。
朝から「調子が悪い」と言って起きられなくなった。リョウトくんはゲーム好きだったが、夜11時には寝室の電気を消し就寝していたはずだ。ところが朝起きられない。急がないと間に合わないので朝ごはんも食べずに登校した。何とか遅刻せずに間に合っていたものの、10月からは始業時間に遅れるようになった。5分遅れが10分になり、20分になり、と遅れる幅が徐々に大きくなる。そのうち昼から登校する日も出てきた。
11月。ついに起こしても起きなくなった。
「私自身、すごく動揺しました。低学年のころ1~2回は行き渋ることもありましたが、そんなん言わんと行っておいでと励ませば学校に行きましたから。不登校の子どもが増えているというニュースなどを聞いてはいたけれど、私からすると『ああ、そういう子もいるねんなあ』くらい。どちらかといえば他人事っていう感じ。別世界の話でした」
4年前の出来事をそう振り返る母イクコさんは「子どもが学校を休むなら例えば発熱とか何か理由があるとしか思えなかった」と言う。熱を測ったがまったくの平熱だ。でも、翌日も、その翌日も起きられない。そこで、学校を休むのであれば体の不具合を見つけなくてはと、すぐにかかりつけの小児科に連れて行った。息子の胸や腹に聴診器を当てた医師は「お腹の調子がおかしいんじゃない?」と言う。便秘気味なせいで調子が出ないのではないか--それが最初の見立てだった。
学校に行かせるのが親の責務?
弱めの下剤を処方してもらい便秘は治った。が、やはり起きられない。そこで同じ小児科を再び受診することにした。病院は予約制のため、その時間に到着しなくてはいけない。それなのに家を出る時間になっても、リョウトくんはゲームをやめなかった。イクコさんが「もうゲームやめて! もう行かなきゃ!」とゲーム機を取り上げたら、2階の窓から逃げようとした。夫が必死に体をつかまえ説得し、病院に連れて行った。
「先生、ここに来るまでもすごく大変だったんです」と2階から逃げようとしたことを伝えたら、医師は「起立性調節障害かもしれんけど……」と言う(起立性調節障害とは、思春期前後の子どもに多くみられ、起立時にめまい、動悸などが起きる自律神経の機能失調)。
なるほど、朝は弱くて起きられないのに、夜になったらどんどん元気になっておしゃべりが止まらなくなる。朝は真っ青な顔で起きてきたことなどを伝えると「池添先生っていうすごくいい先生がいるから、一度そこに相談してみたら?」と広場を紹介してくれた。
夫とともに会いに行くと、こう言われた。
「今はじっくり休む時や。行かせようとしたらあかんし、行くとか行かないとか話題にするのもあかん。とにかく本人がしたいっていうことを認めてあげて」
これに対し、イクコさんは「これでいいのかなっていうのはずっとありました」と吐露する。なぜならば「学校に行けるようにしてあげるのが親の責務みたいに感じていた」(イクコさん)からだ。筆者のインタビューの際、当初は「学校に行けとは言っていない」と話したものの、当時相談の際に持参していたノートを開くと「行かせようとしてはいけない、と先生に言われた」と記していたという。イクコさんは「私、学校に行かせようとしていましたね」と正直に話してくれた。ノートには「子どもの話をちゃんと聞いてあげる。質問攻めにしないで。そうすれば子どもから話してくれる。それを待つこと」とも書かれていた。
「こちらが提案してることが多すぎたみたいです。多分、あれしようこれしようみたいな。ゲームの時間も本人に決めさせようと、相談して一日何時間というふうに決めたつもりではいたんですけど、結局は親が誘導していました。だから(ルールを決めても)破られたんですね」
親を喜ばせようとする子どもの深層心理
「約束を破ったら、破った本人にまた決めさせて」
「子どもが自分から動くのを、ひたすら待ちましょう」
自分で決めさせること。じっくり待つこと。この2つを池添さんから口酸っぱく言われたイクコさんは、ようやく腹を決めた。その通りにすると、昼夜逆転どころか、24時間ゲーム漬けになった。母が(もう好きなようにすればええわ)とこころのなかであきらめかけたある日、リョウトくんは言った。
「そうか、朝起きるには夜ゲームやめたらええんや」
完全に不登校になってから4ヵ月ほど経ったころのことだ。イクコさんは嬉しくなり、そのことを池添さんに報告した。ところが「ふーん」とうなずくだけ。拍子抜けした。
「子どもが、親が喜ぶようなことを言う時は、90%はリップサービスや。親に気ィ遣って喜ばせようとして言ってる部分があるよ。いちいち一喜一憂せんで、へえそうか、くらいで聞いとこ」
「ええっ、リップサービスなん!? って驚きました。この言葉が私にとっては結構衝撃で(笑)。でも、よく考えたら腑に落ちました。子どもって親に気を遣ってるんだなって」(イクコさん)
これについて、池添さんは「不登校になった多くの子どもたちが似たようなことを言います」と話す。もうそろそろ6年生だから学校行こうかな、明日は行こうかな、などと言って親を一瞬喜ばせる。そんな子どもの深層心理はどうなっているのか。
「気持ちの半分は、親を喜ばせたい。でも、それだけじゃなくて、あとの半分は自分もちょっとそんな気になるんです。あ、学校行けるかもしれへんっていう気になる。夜はそんな気分なんだけど、朝になったら行けへん。そして、こういうことを繰り返すのは絶対に良くありません」
その理由はこうだ。
「不登校の子どもが『明日こそ行く』と親に言ってしまうのは、学校に行けていない自分をお父さんやお母さんが認めてくれていないと感じてるから。もし子どもにそう言われたら、派手に喜んだりせずに、そうかそうかと言っておけばいいのです」
それで行けなかったとしても「行くと言ったのに嘘をつくな」とか「結局行けなかったじゃないか」と子どもを責めてはいけない。学校に行かなくてもいいよ、休んでいいよと受け止めている親の気持ちが伝わっていないかもしれない、自分たちがこころからそう思えていないと考えたほうがよさそうだ。池添さんは親たちに「前の晩に子どもが言ったことは、次の日になったら忘れなさい」と諭す。そうでなければ、親のほうが「行くって言ったやん」「昨日言ったことと違うやん」と言ってしまうからだ。
「朝起きるには夜ゲームやめたらええんや」
リョウトくんはそう言ったが、やはりやめなかった。
◇後編【不登校で「24時間ゲーム漬け」の小6息子、母が「学校に行かせること」をあきらめて待った結果】では、学校に行かせることを「あきらめた」イクコさんと息子リョウトくんの変化について。イクコさんを支えた池添さんの言葉とは。
