デジタル・クローンの夫と“再会”した妻は…AIで現実味を帯びる「死者の再現」驚くべき世界の到達点
AIに生前の電子メール・カレンダー・ネット上のメモを共有すれば「デジタル・クローン」が生成され、死後も会話ができるようになる──。世界のAI企業が夢見る「ユートピア」は、すでに現実となりつつある。その最前線であるシリコンバレーを現地取材した。(湯浅大輝/フリージャーナリスト)
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亡き父をAIで「再現」した息子
「〇〇(息子)やお前、みんな元気にしているか」
画面に映る老父が、iPadをのぞく妻に語りかける。
「えぇお父さん。元気ですよ。〇〇(息子の名前)も」
「それはよかった。嬉しいなぁ」
一見すると、夫が妻とビデオ通話で雑談をする、ありふれた場面に思える。だが、妻が話しているのは、数カ月前に亡くなった夫のデジタル・クローンなのだ。

不思議なのは、この男性の声にAIのような人工性も感じなければ、会話内容もその人固有のものに思える点だ。声の抑揚は老年男性(しゃがれ声)に特有のものに聞こえるし、息子の名前もはっきりと認識している。プライバシーの関係でその後に続く会話は紹介できないが、女性の語りかける言葉に対して、文脈を受け取った上で応答している点も印象的だ。
6月24日、米カリフォルニア州・パロアルト。シリコンバレーのAI企業、Gensparkのオフィスでこの動画は共有された。同社CEOのエリック・ジン氏はこの映像を流した後、こう強調した。
「父親は生き返ったように見える。私はこの動画を見て涙した」
エリック氏によると、このデジタル・クローンをつくったのは日本人ユーザーで、亡き父の息子だという。両親は非常に仲が良く、先立たれた妻はショックで塞ぎ込んでしまったそう。
デジタル・クローンをつくった息子は、入院中の父親の声を録音しておいた。さらに、電子メールの記録や日記、書き物などデジタルデバイス上に存在する情報を保存。これらをGensparkに読み込ませ、故人を再現するデジタル・クローンを作成した。
デジタル・クローンの夫と“再会”した妻は少しずつ元気を取り戻したそうだ。
AIは「人間の死」をも乗り越えようとしている
エリック氏は「まさに『第二の脳』と呼べるもので、今のAIではすでにこれくらいのことはできる」と自信をのぞかせる。
Gensparkはこのユースケースを、同社が構想する「Second Brain」の象徴的な事例として紹介した。
Second Brainは文字通り、人間の「第二の脳」となり、AIがユーザーに成り代わってその人らしくメールを打ったり、考えをまとめたりするという。
将来的には人間が介在せずとも、「第二の脳を持った自分の分身」が、自動的に仕事を行う、という未来を目指しているようだ。先に説明した死者のデジタル・クローンの作成、という発想も、この延長線上にある。
「私たちが日々、デジタル上で仕事をしてきた証が、死後もデジタル・クローンに活かされる。Second Brainが日々、あなたを学ぶことで、あなたをよりよく理解する」(エリック氏)
AIは、人間の死をも乗り越えようとしているのか──。
〈どのようなAI技術をどう用いることで「デジタル・クローン」をつくるのか。世界はどのレベルまで到達しているのか。その先に待ち受ける「AIにすべてを見張られる時代」とは。新潮QUEで詳述している〉
湯浅大輝(ゆあさ だいき)
フリージャーナリスト。同志社大学在学中に米アリゾナ州立大学へ交換留学。卒業後、記者としてのキャリアを開始し、経済メディア、小売専門誌を経て独立。教育、小売、海外スタートアップ、国際情勢、インフラなど多様なテーマを取材・執筆している。過去携わった書籍に『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)、主な特集記事に「出生数75.8万人の衝撃」「奈良のシカ」(ともにJBpress)、「リニア 20世紀最後の巨大プロジェクト」(NewsPicks)、「精肉MDの新常識」(ダイヤモンド・チェーンストア誌)など。
デイリー新潮編集部
