【長谷 淳夫】【独自】「懲戒解雇に追い込まれた」ソニー元幹部が実名告白、幻のEV事業で起きていた「ガバナンス問題」
巨艦ソニーが、自動車部門の元トップと泥沼の訴訟を繰り広げていると判明。その真相を探ると、EVをめぐる「失敗の本質」が見えてきた。
ある日突然「懲戒解雇処分」に
「こんなでたらめなことが僕が愛したソニーで起こっていることは残念でなりません。かつて創業者である井深大が企業理念として掲げていた『自由闊達』な精神が、失われているのではないでしょうか」
静かな口調で、しかし力強い眼差しで筆者にそう語り始めたのは、'24年3月下旬までソニー株式会社で「モビリティ事業開発部統括部長」の要職にあった佐々木信氏(58歳)だ。
ソニーで「EV・モビリティ部門」の統括部長を務めていた社員が、不可解な理由で懲戒解雇処分を受けたことに抗議し、東京地裁で会社を相手に地位確認訴訟を提訴しているーー。
一方的な解雇に納得できず地位確認訴訟を起こすケースは珍しくないが、「世界のソニー」で、その要職にあった人物が法廷闘争を繰り広げているというのだ。情報を入手した筆者が情報確認のため裁判記録を閲覧・照合したところ、実際に裁判が行われている事実が確認された。'24年5月の「地位確認等請求労働審判事件」から同年11月に民事裁判へと移行し、今年7月までに実に16回におよぶ弁論準備手続きが行われている泥沼の長期戦となっていたのである。
不正発注は「作り上げられたストーリー」
訴状の中で「本件懲戒処分は事実の基礎を欠く」「懲戒権ないし解雇権の濫用にあたり無効」と主張する佐々木氏に、取材を申し込んだところ「裁判で明らかになっている範囲なら」と、重い口を開いた。
'93年にソニーに入社した佐々木氏は、カーオーディオやカーナビのソフトウェア開発の最前線で実績を重ねた技術者だ。'19年から同社が次世代EVコンセプトカーの開発へ本格的に乗り出した際、車載音響システム開発の中心人物として活躍。当時は約60名の部下を率いる統括部長として、モビリティ事業の現場を支える中核的存在だった。
ところが'24年3月、佐々木氏は人事部から突然「5日以内に退職届を出さなければ懲戒解雇処分にする」と通告される。引き金となったのは、'22年度の税務調査だ。ソニーは、佐々木氏の部下のA氏が自動車改造パーツなど約2000万円を不正発注していたと判断したのだ。
A氏は全額を弁済し懲戒解雇となったが、会社側は「佐々木氏は承認がない事業において、職務に含まれる名目でA氏に不正発注を依頼した」とし、主犯格であると主張した。
「A氏の行為は許されません。ただ会社側は、僕が進めていた事業を『承認を得ないで勝手に行っていた』と決めつけ、A氏の不正発注は僕の指示によるものだという『ストーリー』を作り上げたのです。
説明の場は2回だけありましたが、僕の説明すべてが汲み入れられず、解雇通告されました。恣意的な人事権の濫用としか思えませんでした」
「真っ当な組織の論理が働いていない」
佐々木氏は「直属の上司である副社長(当時)に対し、事前に何度も協議を重ねており、事業を知らなかったはずがない」と憤る。なぜ、このような事態が生じたのか。これについて同氏は組織の「ガバナンス崩壊」が大きいと指摘する。
「今のソニーには、真っ当な組織の論理が働いていると思えません。当時の副社長と社長は早稲田大学理工学部の同級生で、副社長は『あいつは学生のとき要領が悪くて、俺が面倒を見てたんだ』と公然と語るほど、人間関係では副社長が実質的に上でした。
しかも、この副社長は自動車事業を重視していないようで、車のことを『ただの移動手段』としか見ていなかった。そもそもEV事業には積極的ではなかったため、その中心で動いていた僕は目障りだったのではないかと思います。税務調査による部下の不祥事発覚で、これ幸いと、僕を懲戒解雇に追い込んだと考えればつじつまが合います」
また、'21年の持ち株会社体制への移行による分社化も、統治不全の要因となったのではないかと佐々木氏は続ける。
「親会社の法務・人事部はスタッフが揃っているが、子会社は二軍レベルです。本件のような事実無根の事案を、検証もせず信じて疑わなかった」
【後編を読む】【独自】EV事業の元統括部長が「不当解雇」でソニーを提訴していた…事業の中止決定との関係は
「週刊現代」2026年8月31日号より
