桑木志帆ら世界を制する日本女子の「度胸」 男子はいつまで“蛇ににらまれたカエル”なのか(宮崎紘一)
【世界ゴルフ新潮流】
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かつての日本人はメジャーという大舞台では「蛇ににらまれたカエル」だった。技術以前に、難しいセッティングや独特の雰囲気にのまれ、本来の力が出せずに終わってしまった。
ところが、近年の女子プロに限れば、そんな弱さはまったく感じられない。それを改めて感じたのが、今年の「AIG全英女子オープン」(英国・ロイヤルリザム・アンド・セントアンズGC)で優勝を遂げた桑木志帆(23)である。国内を主戦場にする桑木にとって、リンクスが舞台の「全英」挑戦は昨年に続き2度目だった。パー4の18番で行われた一騎打ちのプレーオフは、1ホール目の第1打を右の深いラフに打ち込み絶体絶命のピンチ。相手のE・ヘンゼライト(ドイツ)は豪快なドライバーショットをフェアウエーに運んでいた。ここで桑木は第2打を冷静にフェアウエーに戻し、残り108ヤードの第3打をピン1.5メートルに寄せる起死回生のショットでパーに収めた。2ホール目はヘンゼライトがドライバーを大きく曲げてボギーとし、パーパットを沈めた桑木が勝負を決めた。
優勝会見のコメントがいい。普通なら大泣きするところを「お酒が好きなので、いっぱい飲みたい。ウイスキーのソーダ割りがいい」と破顔一笑。金髪に派手なメークとウエアなどのルックスとちゃめっ気に現地メディアも大受け。静かで控えめという日本人女性の印象を覆した。
桑木が大きな影響を受けたのは同じ岡山県出身の渋野日向子(27)だ。2019年の全英女子オープンは自身初の海外試合。そのメジャー大会で日本勢では42年ぶりに頂点に立った。当時20歳の渋野はプロ2年目ながら、海外の大舞台をまったく意識せず、普段以上のプレーを展開。最終日最終組でも笑顔を絶やさず、試合中には持参のおつまみをかじって、カメラに向かって愛嬌タップリ。現地では「スマイリング・シンデレラ」と呼ばれ一躍人気者になった。国内のテレビ解説陣たちは練習ラウンドのような「緊張感ゼロ」のプレーに驚いていたが、日本という国は長いこと、勝負の世界に「白い歯」(笑顔)は禁物だったのだ。
渋野が優勝した当時、高校2年生の桑木はその姿をテレビで見ていたという。今回の優勝争いも笑顔が印象的だった。
最近の選手は「プレーを楽しみたい」とよく口にする。結果が悪ければ楽しむことなどできないと思うのだが、実は逆である。追いつめられた状況でもチャレンジする精神を忘れず、まるで「この時を待っていました」とでもいうかのごとく、最高のショットを放つ。
19年の全英女子を制した渋野は最終日の18番。約5メートルのバーディーパットを打つ前に、「これを決めたら優勝なのは分かっていたので、どういうガッツポーズをするかを考えていた」と語っていたが、強気のパットで見事に勝負を決めた。そのポジティブな思考は桑木だけでなく、この数年でメジャータイトルを勝ち取った笹生優花、古江彩佳、西郷真央、山下美夢有にも共通している。
昨年、米女子ツアー1年目で優勝した岩井明愛・千怜の姉妹は、常にギャラリーを沸かせることを考えながらプレーしているという。近い年代の仲間たちは快挙に刺激を受け、海外メジャーの優勝が夢ではないことを見て育った後輩たちの目標も、当然のように「世界」へ向かう。
一昔前は「男は度胸、女は愛嬌」などと言ったが、世界で戦う今の女子プロには「度胸」もある。昨年の全英に勝った山下は、前週のCPKC女子オープンで早くもツアー通算4勝目を挙げた。松山英樹がマスターズに勝ってから5年が過ぎた。国内の男子プロたちは「蛇ににらまれたカエル」から、いつ脱却できるのだろうか。
(宮崎紘一/ゴルフジャーナリスト)
