(※写真はイメージです/PIXTA)

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長年働いて築いた貯蓄が十分にあれば、退職後くらいは少し贅沢をしたいと考える人もいるでしょう。外食を増やしたり、旅行では少し良いホテルを選んだり。どれも家計を揺るがすほどの出費には見えなくても、それが数年続けば、資産の残高にははっきりと表れてきます。

「これくらいなら大丈夫」退職後も変えなかったお金の使い方

「せっかく仕事を辞めたんだから、少しくらい楽しんでもいいだろう」

正明さん(仮名・69歳)が65歳で会社を退職したころ、妻の恵美さん(仮名・67歳)によく話していた言葉です。

夫婦の年金は合わせて月約29万円。正明さんは退職時に約2,400万円の退職金を受け取り、それまでの預貯金と合わせると、金融資産は約5,600万円ありました。住宅ローンを完済したマンションで暮らし、子ども2人も独立しています。

正明さん自身、「老後のお金にはかなり余裕がある」と考えていました。

退職後に始めたのが、月に2〜3回の外食です。現役時代にはなかなか行けなかった店を夫婦で訪れました。

年に数回は国内旅行へ。少し良いホテルを選び、移動にはグリーン車を使います。ゴルフも月2回ほど続けました。

高級車を買ったわけでも、何百万円もする買い物をしたわけでもありません。それだけに、正明さんには浪費しているという感覚がありませんでした。

「5,000万円以上あるんだから、問題ないと思っていました」

年金が振り込まれ、足りない分は普通預金から出す。旅行代や家電の買い替えなど大きな支払いがある月には、定期預金の一部を移します。

2年目には、夫婦で約80万円の北海道旅行へ出かけました。さらに正明さんはゴルフクラブを買い替え、恵美さんも友人との旅行を楽しみました。

問題は、こうした支出を年間で集計したことが一度もなかったことです。

総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、1ヵ月の可処分所得は22万1,544円、消費支出は26万3,979円で、差額は4万2,434円のマイナスとなっています。平均的な家計でも、収入だけでは消費支出を賄い切れず、資産を取り崩す構造になっています。

3年で減った約1,000万円

退職から3年ほど経ったある日、正明さんは複数の口座の残高を確認しました。きっかけは、恵美さんから「そろそろお風呂のリフォームも考えないとね」と言われたことでした。

費用を確認するため、久しぶりに資産全体を計算してみると、約5,600万円あった金融資産は4,600万円台まで減っていました。

「え、こんなに減ってるの?」

正明さんは通帳を見直しました。計算間違いではありません。3年間で、約1,000万円を取り崩していたのです。

「5,600万円から4,600万円になっただけなら、まだ十分あるようにも見えます。でも、このペースがあと10年続いたらどうなるんだろうと思ったんです」

正明さんは69歳です。

仮に今後も年間300万円ずつ資産を取り崩せば、10年間で3,000万円です。もちろん毎年同じ支出になるわけではありませんが、医療や介護、自宅の修繕など、これから新たに必要になるお金もあります。

さらに、物価も上昇しています。総務省『2025年平均 消費者物価指数』によると、総合指数は前年比3.2%上昇し、4年連続の上昇となりました。

夫婦は外食や旅行をすべてやめたわけではありません。まず決めたのは、年間の取り崩し額を把握することでした。

日常生活費とは別に、旅行や趣味に使う予算を年間120万円程度と設定。国内旅行は回数を減らす代わりに、行きたい場所には無理に節約せず出かけることにしました。ゴルフも月2回から月1回程度にしています。

節約しなきゃ、というより、いくら使っているか知らなかったのが一番まずかったんですよね」

退職後に資産を取り崩すこと自体が問題なのではありません。総務省の家計調査でも、高齢無職夫婦世帯では可処分所得を消費支出が上回っています。

正明さん夫婦の場合も、貯蓄を一切減らさずに暮らすことを目標にはしていません。

変えたのは、「5,000万円以上あるから大丈夫」と残高だけを見るのではなく、1年間でいくら入ってきて、いくら出ていったのかを確認することでした。

外食も旅行も、今も夫婦の楽しみです。ただし今年は、旅行へ申し込む前に年間予算を確認します。

まとまった資産があっても、毎年の取り崩し額を把握していなければ、減り方に気づくのが遅れることがあります。老後資金を考えるうえでは、「いくら持っているか」と同時に、「今の暮らしを続けると毎年いくら減るのか」を把握しておくことも重要です。