スポニチ

写真拡大

 ほとんど仕事もなく、干された状態だった2012年。スタッフが「ニコニコ動画というものがあり、出演依頼が来たのですが」と言ってきました。どうも、若い人たちの間で流行している動画共有サイトだそうです。全くピンときません。「何それ?面白いの?」と思わず聞き返しました。説明するスタッフの熱量があまりにも高いので、その心意気にかけてみることにしました。

 この年の10月22日、「ニコニコ動画」の生放送に出演することになりました。会議室みたいなスタジオに入ると、正面に大きなモニターがあり、私を撮影するカメラが物凄く小さいことに驚きました。放送が始まり「今日のゲストは小林幸子さんです」と紹介されると、モニター画面に「8」「8」とやたら数字の8が流れ始めました。何だろうと思っていると「パチ」「パチ」と拍手を意味していると説明されました。

 そのうち「歌ウメー」「歌う人」などの文字が出てきたので「ありがとうございます」とお礼を言いました。すると画面には「どういたしまして!」の返答が。なるほど、こういう形でユーザーたちと相互に会話する仕組みなのかと分かってきました。人生相談みたいな質問にも答えながら、今の若い子たちは、こうしてコミュニケーションを取るのかと勉強になりました。

 あるユーザーから「ラスボスと呼んでいいでしょうか?」という問いが来ました。よく分からないまま「はい、どうぞ」と答えると、途端に「ラスボス」の文字が画面いっぱいに流れ始めました。ゲームの最後に出てきて、なかなか倒せない「ラスボス」が紅白での私の衣装に似ていることから、ネットの世界では10年ほど前から言われていたそうです。少し怖そうな響きですが、どうも悪いヤツではないということでひと安心。それが瞬く間にネット上で広がりました。翌日道を歩いていると、高校生ぐらいの子が私を見て「あ、ラスボスだ」。それ以後すっかり、公認ニックネームとなりました。

 翌13年4月に千葉の幕張で開催された「ニコニコ超パーティー」イベントにゲスト出演し、さらに9月6日に「ぼくとわたしとニコニコ動画」というテーマ曲を音頭風に歌って初投稿しました。わずか2日半で100万回再生され、当時の最速記録だったそうです。大みそかに開かれた「ニコファーレ」での年越しカウントダウンイベントでは、ボーカロイドと呼ばれるネット上の仮想アイドル「初音ミク」さんの「千本桜」をカバーしました。これが大きな反響を呼びました。翌14年に「さちさちにしてあげる♪」というボーカロイド作品を収めたアルバムを制作して「千本桜」も収録しました。

 ボーカロイド作品は人間が歌うためでなく、パソコン上で制作されるので、100小節も息継ぎなしの曲もあります。生身の人間が歌うには厳しい作品もありますが、年齢や性別無関係な仲間が大勢でき、人生が一変しました。

 ◇小林 幸子(こばやし・さちこ) 本名・林幸子。1953年(昭28)12月5日生まれ、新潟市出身の72歳。作曲家・古賀政男に見いだされ、64年「ウソツキ鴎」で10歳の時に歌手デビュー。79年「おもいで酒」が200万枚突破の大ヒット。同年の日本レコード大賞最優秀歌唱賞を受賞し、紅白歌合戦に初出場。以後34回出場した。最近はニコニコ動画、SNSなどで若い世代やネットユーザーに「ラスボス」として人気を誇る。