原作完結から10年、なぜ「BLEACH」は世界を熱狂させるのか クールジャパン機構の失敗から考える“作る”への投資
テレビ東京系で放送中の「BLEACH(ブリーチ)」アニメ最終章「千年血戦篇」の評判が、うなぎ上りだ。
全74巻の原作マンガが完結したのは2016年8月22日。今作は原作でも最終章にあたる「千年血戦篇」をアニメ化したもので、2022年10月から全4クールで放送開始。現在放送中の「千年血戦篇 禍進譚(かしんたん)」をもって、いよいよ完結を迎える。
原作終了からすでに10年近くが経つ作品が、なぜ今なお、これほど大きな反響を呼んでいるのか。
その理由は、単に人気作品をアニメ化したからではない。原作の魅力を知り尽くした制作陣が、そこに新たな価値を加え、作品をもう一段上のステージへと押し上げているからだ。
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原作者監修だからこそ生まれる「知らないBLEACH」
「千年血戦篇」の大きな特徴の一つが、原作者・久保帯人氏が“総監修”として制作に深く関わっていることだ。
マンガのアニメ化では、原作者が制作に関わるとは限らない。だが近年は、原作者が監修などの形で制作に携わり、原作の世界観を生かしながらアニメならではの表現を加える作品も増えている。
「THE FIRST SLAM DUNK」の井上雄彦氏、「進撃の巨人」の諫山創氏、「呪術廻戦」の芥見下々氏など、原作者がアニメや映像作品に深く関わった事例も少なくない。
そして「BLEACH」の場合、特にファンを驚かせているのが、原作には描かれなかったエピソードや設定、必殺技などを大胆に盛り込んでいることだ。
アニメオリジナルの描写、いわゆる「アニオリ」である。しかも、単なるアニメ独自の脚色ではない。原作者の監修のもとで新たな設定や描写が加えられ、新キャラクターが登場すれば、久保氏自らが描き下ろす徹底ぶりだ。
原作を読んだファンでさえ、「次に何が出てくるのか分からない」。この「未知のBLEACH」こそが、長年のファンを再び画面にくぎ付けにしている。
22日に放送された最新話では、30分のほぼ全編がアニメオリジナルという、まさかの展開も待っていた。SNSやYouTubeのコメント欄には、「また神回だ」「俺の知らないBLEACHなんだが……」「久保先生がまた新しいものを見せてくれた」といった驚きと称賛の声が相次いでいる。日本のアニメは今や世界中で視聴されており、英語をはじめさまざまな言語のコメントも寄せられている。
かくいう筆者も、度肝を抜かれ続けている一人だ。「娑闥迦羅骸刺絡辻(しゃたつからがらしがらみのつじ)!?」「血鎖(けっさ)の一護!?」。原作を知っているはずなのに、初めて見るものばかり。そんな不思議な感覚に何度も襲われる。
そして、それらを鮮烈かつ美しく描き切るスタジオぴえろの映像クオリティー、キャラクターに命を吹き込む声優陣の迫力も、作品への評価を押し上げている。
原作の人気に頼るだけではない。「いい作品を、もっといい作品にする」。制作陣の熱量が、「千年血戦篇」からは伝わってくる。
そんな「BLEACH」最新話が放送された2日前の8月20日、あるニュースが報じられた。
「クールジャパン機構、廃止へ」――。
BLEACHが示した「何に投資するべきか」という視点
クールジャパン機構は、日本のアニメやマンガ、ゲーム、食、ファッションなどを海外に広めるため、2013年に設立された官民ファンドだ。政府と民間企業が出資し、これまで約2000億円を投じてきた。投資先はアニメやマンガ、ゲームなどの「メディア・コンテンツ」だけでなく、ライフスタイル、食、インバウンドなど多岐にわたる。
一方、2026年3月末時点で累積赤字は540億円に達し、政府は2027年度の予算要求を見送る方針を決定。コンテンツ分野でも、海外展開プラットフォーム事業で約90億円の損失が発生していると、2024年の政府資料で示されている。
もちろん、日本のコンテンツを海外に届ける仕組みを整えることは重要だ。ただ、こうした実績を振り返ると、「日本の魅力を海外に届ける」ことだけでなく、そもそも世界の人々が「見たい」と思う作品を生み出す力に、どう投資するのかという視点も必要だったのではないか。
これまでのクールジャパン機構のコンテンツ投資は、海外展開を支える事業やプラットフォームなどにも向けられてきた。しかし、「BLEACH 千年血戦篇」が示しているのは、作品そのものに人、時間、技術が注ぎ込まれることで、過去に生まれたIPであっても新たな価値を生み出せるということだ。
ならば次に、もっと目を向けるべきなのは「制作の現場」なのではないか。
日本アニメの「底知れない可能性」を伸ばすために
日本のアニメ産業市場は、今や世界規模にまで成長している。
日本動画協会によると、2024年のアニメ産業市場は3兆8407億円。海外市場だけでも2兆1702億円に達し、国内市場を大きく上回っている。
日本のマンガ・アニメは、すでに世界で戦える産業になっている。それでも、まだ伸びしろはある。BLEACHが示したのは、たとえ原作が完結した作品であっても、制作チームが力を結集し、新たな一面を描き出すことで、まだまだ底知れない魅力を引き出せるということだ。
これは、国として「何を支援すべきなのか」を考える上でも、重要なヒントになるのではないだろうか。
以前、とあるアニメ制作者がネット番組に出演した際、こんな言葉を口にしていた。
「日本のマンガやアニメはすごい!という側面ばかりが目立っているが、それはヒット作のこと。その裏では、たくさんの作品が日の目を見ずにお蔵入りとなっている」
日本のマンガ・アニメが世界で評価されていることは間違いない。だからこそ、その陰で、制作環境や予算、人材などの問題によって、本来なら世界に届いたかもしれない作品が埋もれているのだとすれば、これほどもったいないことはない。
「BLEACH 千年血戦篇」がこれほどの評価を得ているのも、原作の力だけではない。原作者による監修。原作を補完する新たな描写。高い作画クオリティー。音楽や演出、声優陣の表現力。作品の魅力を最大限に引き出すため、制作現場にさまざまな力が注ぎ込まれたからこその現状だ。
今の時代は、情報もコンテンツもあっという間に世界へと拡散する。NetflixやU-NEXT、Prime Videoなど、世界に作品を届けるプラットフォームも充実している。つまり、「世界に届ける仕組み」は、すでにほとんどできあがっている。ならば、あとは世界に届けたいと思われる商品を作ればいい。
だとすれば、必要なのは「海外に届ける仕組み」への投資だけではない。「海外にも売れる作品」を生み出すための投資だ。
クリエーターが十分な時間と環境の中で作品を作れる制作現場を整え、過去のIPを現代の技術でよみがえらせる。そして、新たな才能から次の「BLEACH」のような大ヒット作を生み出していく。
日本のマンガやアニメは、すでに世界で戦える産業になっている。だからこそ、海外に売る仕組みだけでなく、作品を生み出す現場にこそ、もっと投資すべきではないだろうか。
次のBLEACHが生まれ、これまで誰も知らなかった新作が世界を熱狂させる。そんな作品が次々と生まれる環境が、日本にできていくことを願いたい。
文/加藤聡 内外タイムス編集部
