年収1470万のGoogleエンジニアが突然クビに…高評価の翌月に一転「著しく不良」とされたワケ
10年以上にわたって昇格を重ね、職位を駆け上がってきた--。そんなGoogle日本法人(グーグル合同会社)のソフトウェアエンジニアが、ある日突然、勤務状態が“著しく不良”だとして職を追われた。
解雇の決め手とされたのは、「職位L5レベルのリーダーシップを発揮すべき」という、抽象的な表現により設定された「目標」の“未達”である。年収は1470万円。解雇直前の評価では「重大な影響(S)」と高く評価されていた。
その背景にあったのが、外資系企業などで導入が進む“PIP”(業務改善プログラム)だった。
「この訴訟の根本にあるのは“公正さ”です」
外国籍の30代元社員・Aさんは解雇の無効などを求め、グーグル合同会社を東京地裁に提訴。代理人弁護士らが8月25日、都内で会見した。
「成長軌道に乗っている」高評価の直後にPIPAさんは2014年、L3と呼ばれる職位でグーグル合同会社に入社した。いわゆる「フロントエンド」のエンジニアとして誠実に業務をこなし、2023年までにL5へと昇格。入社時に750万円だった年収は、解雇時点で1470万円に達していた。
その一方でAさんは病気により、2度の休業を余儀なくされている。だが復帰後も指示された業務をこなし、2025年9月の上司との評価面談では「ここ数か月、堅実で信頼できるチームメイト」「成長軌道に乗っている」と高い評価を得ていた。
ところが評価の約1か月後、2025年10月21日にAさんは突如、PIPの対象に指定される。PIP(業務改善プログラム)とは、成績や勤務状態が不十分とされた社員に一定期間で改善を求める制度だ。会社が改善を求めた点は「L5レベルのリーダーシップを発揮すべき」など抽象的な内容だったと、原告側は主張している。
「ビザを持ち出し退職勧奨」PIP開始の通知と同じ日、Aさんは人事担当者からMSA(相互退職合意)と呼ばれる退職パッケージを提示された。
会社側からは、90日間の有給休暇があり転職に有利だ、などと説明されたうえで署名を求められたという。断ると、Aさんには4つのタスクが課された。うち2つは、これまで経験のないサーバーサイド(バックエンド)の業務だった。なお、Aさんの担当は入社以来、9割がフロントエンドの開発だったとされる。
Aさんは3回にわたり退職勧奨を受けたという。代理人の村井朗子弁護士は「解雇となれば、(外国人であるAさんは)ビザを失いかねないことを持ち出し、退職の方がいいのではないかと持ち掛けてきた」と説明。
Aさんの在留資格は、グーグルでの就労を前提に認められたもので、解雇されれば、その資格を失いかねない。
そして今年1月30日、AさんはPIP「不達成」を理由に、3月1日付の解雇を通告された。
解雇日を待たず、社内システムへのアクセス権も一方的に奪われたという。AさんはJMITU(日本金属製造情報通信労働組合)に加入し、解雇の撤回と団体交渉を求めたが、会社側はこれに応じないまま解雇を強行したとしている。
村井弁護士は「Aさんが日本に居られるように行政書士などを含めてしっかり体制を築いていきたい」と述べた。
「L5でないなら、なぜL4で働かせない」会見で代理人の吉田健一弁護士は、解雇の根拠そのものを問題視した。会社は就業規則17条bの「就業状態、または意欲が著しく不良で業務に適しないと認められるとき」に該当するとして解雇に踏み切ったが、AさんはL3からL5へと昇格を重ねてきた社員である。
「レベル5に達していないというなら、解雇ではなく、もう一度L4で働いてもらうこともできたはずだ」と吉田弁護士は語った。
訴状は、解雇の前に配置転換や降格など他の手段を尽くす「解雇回避努力義務」を会社が怠ったと主張。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇を無効とする労働契約法16条に反し、権利の濫用にあたるとしている。
あわせて、株式報酬「GSU(グーグル・ストック・ユニット)」を受け取れなくなった損害として、1216万6303円の賠償も求めた。
「PIPを使った解雇が蔓延」JMITUアルファベットユニオンの小林佐保執行委員長は、同種の裁判はこれで2例目だと明かした。「PIPの基準が不当だというのは、社内では当たり前のようになっている」。小林氏は、グーグルが株式を公開していない合同会社である点にも触れ、「上場企業ではありえないような法律の破り方をする」と述べた。
問題はグーグルにとどまらないという。JMITUの三木陵一特別中央執行委員は、「PIPは外資だけでなく、大企業を中心に広がり、PIPを使った解雇が蔓延しつつある」と指摘。「PIPがリストラの道具として機能している」と話した。
「求めているのは、公正な評価」Aさんは会見に寄せたコメントで、PIPは本来、従業員が成長するための機会であるべきだと訴えた。「従業員に改善を求めるなら、会社は何を期待しているのかを理解させ、応えるための合理的な機会を与え、不当だと感じた場合には異議を唱える権利を保障すべきだ」
自分はパフォーマンスへの責任を免れたいわけではなく、その評価が公正で正確なものであってほしいと言っているのだ、とAさんは語っている。
職を失うことは、単に仕事を失う以上の意味を持った--。日本で働く外国人として、今後も日本に住み、働き続けられるのかという不安に直面したと、Aさんは明かす。労働組合は、今回の訴訟を個別の解雇撤回にとどめず、「PIPを使った雇用破壊全体と闘う一環」と位置づけている。
なお、弁護士JPニュース編集部では、グーグル合同会社に対してコメントを求めたが、現在まで回答は得られていない。

