日本人は覚悟しなければならない…「この先、十年単位でインフレは続く」という残酷な真実【“億り人”の元大学教授・会計学博士が解説】
食料品や光熱費の相次ぐ値上げに「いつまで続くのか」と不安を募らせる人は多いでしょう。40代で億り人に到達した東北大学の元大学教授で会計学博士の榊原正幸氏は、日経平均株価の推移や世界経済の仕組みから、現在のインフレ基調は「まだまだ当分続く」と捉えています。同氏の著書『60歳までに億り人になる思考法 なぜ富裕層は好んで借金をするのか?』(PHP)より、日本のデフレ・インフレ史と今後の方向性を提示します。
インフレ経済はいつまで続くのか
経済の先行きに関して正確に予測するのは困難です。しかしながら、ここでは(長きにわたってデフレマインドが染みついてしまった)現代日本の多くの方には馴染みがなくなってしまった「経済の本来の姿」を説明することで、今後の日本経済の方向性のようなものを、原理原則論としてお伝えできるのではないかと思います。
日経平均株価の推移から紐解く「過去のインフレとデフレ」
最初に、第二次世界大戦後からのインフレとデフレの歴史的な経緯を簡潔に概観します。主に、日経平均株価の推移をもってインフレとデフレを峻別します。
まず、1949年5月の東京証券取引所の初立ち合い直後には、まだ戦争の傷跡が残っていて、日経平均株価は始値の176円から85円(1950年7月)へと1年余りで半分に下がっています。そこからは「朝鮮戦争特需」をきっかけにして、日経平均株価は1989年末のバブルの最高値まで上昇の一途を辿っていきます。
その途中の1961年から1967年までは、日経平均株価は横ばい期を経験していますが、戦後から1989年末に日経平均株価が平成バブルの最高値を付けるまでは、紛うことなき「インフレ時代」でした。
日経平均株価は1989年末をピークに下落に転じましたが、不動産価格は1990年末まで上昇を続けました。
1950年7月からここまでの40年間は、ずっと「インフレ時代」だったのです。「マイホーム神話」や「土地神話」が醸成されたのも、根源的な理由は、このインフレにあります。
1989年には、政府と日銀が「バブル潰し」に力を入れ始めました。その理由は多岐に亘りますが、代表的なのは、一般の国民が家を買えないという不満を募らせ、それに対して政府が動いたためです。政策金利は大幅に引き上げられていき、不動産に対する銀行の貸し付けに「総量規制」なるものを導入して、政策的にバブルを抑え込んだのです。ここから長きにわたるデフレ時代に転換しました。
デフレ経済の始まり
2003年4月に7607円で底を打った日経平均株価は、2007年2月から7月にかけて18300円前後まで上昇しました。この期間は、「プチ・バブル」と言われていました。
この「プチ・バブル」は期間が4年前後で短かったので、ここではこれを「プチ・インフレ」と定義します。この時期は、日経平均株価と都心の一部の不動産価格だけの上昇だったため、「資産インフレ期」として認識されましたが、広く一般的に国民が「インフレだ」と認識するには至りませんでした。
そして、2007年7月辺りから「サブプライムローン問題」が意識され始め、日経平均株価の上昇は止まり、2008年9月の「リーマンショック」に端を発する大不況へとつながっていきます。すなわち、2007年7月辺りからは、「資産インフレ」も鳴りを潜め、再び、深刻なデフレに逆戻りしたのです。
この「リーマンショック」以降と民主党政権時代は、デフレの真骨頂でした。資産も物価もデフレでしたし、世の中の活気もありませんでした。日経平均株価も7000円から11400円といった非常に低い水準でした。
その後、2012年の年末に民主党から自民党へと政権交代が起こると同時に「アベノミクス」の名称で知られる経済政策が始まり、日経平均株価は2012年10月に8534円を付けて以降、明確な上昇路線に切り替わります。
それから2026年6月の執筆時現在までには、いくつかのショック安もありましたが、日経平均株価は基調的には、ずっと右肩上がりを続けています。この間も、2022年2月の「ウクライナ侵攻」までは、日経平均株価と地価が上がっていただけで、物価は上がらなかったので、この2012年11月から2022年2月までの期間は「資産インフレ期」であったと位置づけられます。
雲行きが変わった2022年
このように、2022年の前半までは、新型コロナウイルスの余韻も残っていて、国民生活全体としてはインフレとは認識されていませんでした。
そして、2022年2月の「ウクライナ侵攻」以降、サプライチェーンの寸断などを契機に、物価も徐々に上昇を始めました。この時期から、物価のインフレも伴う本格的なインフレ期に入ったのですが、その本質的な原因は、新型コロナウイルスのせいで、世界的に極端な金融緩和を進めたことにあったと考えています。
2022年2月以降、日本も諸外国と同様に、インフレ時代に突入しました。
日本経済のインフレ基調は、まだまだ当分続く
このように、「資産インフレ」はあっても物価の上昇を伴うインフレはなく、物価のデフレが続いていたことによって、国民生活の肌感覚は1991年の年初から2022年の年初までの31年間にわたって、デフレの状態が続きました。これをもって、「失われた30年」とよく言われていました。
しかしながら、物価や国民の肌感覚に大きく先んじるようにして、2012年11月からは資産インフレは起こっていたのです。ですから、2003年5月から2007年7月の4年余りの期間の「プチ・インフレ」は規模が小さかったので度外視すると、資産価格の意味では、「失われた」のは30年ではなく、1991年1月から2012年10月までの約22年です。
そして、このようにまとめてみますと、次のようなことが浮き彫りになります。図表をご覧下さい。
[図表]インフレ・デフレの歴史 出典:『60歳までに億り人になる思考法 なぜ富裕層は好んで借金をするのか?』(PHP)より抜粋
・戦後からは40年もインフレ時代が続きました
・資産価格は、一定の周期でインフレとデフレを繰り返してきました
・2003年5月から2007年7月までの「プチ・インフレ」を度外視すると、資産価格も22年近くはデフレが続きました
・物価のデフレは31年続きました
・物価のインフレの持続期間は40年で、デフレの持続期間は31年です。日本における31年のデフレ期は、世界経済史上、まれに見る長さです
・それに対して、インフレは、とても長く続く経済事象であり、このことは世界共通です
・日本においては、物価のインフレを伴う本格的なインフレは、始まってからまだ4年余りしか経っていません
この先、十年単位で「インフレは続く」と考えられる
このようなことから、現在進行中の物価のインフレは、まだこの先も十年単位(decade単位)で続くのではないかと考えられるのです。
また、諸外国に目を転じれば、デフレというものは例外的なものです。1980年代の日本や2010年代の中国は、過度な資産バブルを起こしたため、その後に長いデフレを経験することになりましたが、それはあくまでも例外なのです。
企業活動は、適正な利潤を追求しながら、企業自体を成長させていくものですから、経済というものは基本的には成長する、すなわち、インフレ基調になるのが普通なのです。
以上のことから、日本経済におけるインフレ基調は、まだまだ当分続くと考えています。
榊原 正幸
元・大学教授/会計学博士/税理士

