「水バシャー!」マンション上階で子どもが“プール遊び”、ベランダの布団ビショビショ…買い替え費用を請求できる?【弁護士解説】
「賃貸マンションのベランダでプールって常識的に考えてどうなの?」「年々子どもの声が激しくなるし水バシャー!の音がすごい」
先日、Xにこんな投稿が寄せられて話題を呼んだ。投稿者によると、隣の部屋で毎年のようにベランダでのプール遊びが行われているという。
また別のアカウントは、上階の住人がプールの水を流したことで、干していた布団が水浸しになったという体験談を投稿。怒りのあまり当の住人の部屋まで行き、何度もインターホンを鳴らしたものの相手が出てこなかったため、ドアを蹴りながら怒鳴ったという。
もし上階のベランダから流れた水で布団や洗濯物などが濡れてしまった場合、被害を受けた住人は相手に損害賠償を請求できるのか。取るべき対応や手続き、避けるべき行動について、損害賠償事例に詳しい雨宮知希弁護士に聞いた。
布団や洗濯物の買い替え費用は請求できる?ベランダのプールから水を流し、階下の洗濯物や布団などを濡らしてしまう行為は、たとえ「わざと」ではなかったとしても、損害賠償責任を負う可能性がある。
民法709条は、故意または過失によって他人の権利や利益を侵害し、損害を生じさせた場合に、その損害を賠償する責任(不法行為責任)を定めているためだ。
「ベランダのプールの水を排水すれば、階下に流れて干してある布団や洗濯物が濡れることは、通常、容易に予想できます。
それを避ける配慮を怠って濡らしてしまえば、少なくとも『過失』があったと評価されやすいため、原則として、階下の住人は水をこぼした相手に対して損害賠償を請求することができるのです」(雨宮弁護士)
ただし、賠償請求の対象となる損害は、水をこぼした行為との間に相当な因果関係のあるものに限られる。
たとえば、布団や衣類が濡れたもののクリーニングで回復できる場合には、クリーニング代が損害として認められる可能性がある。また、クリーニングでは回復できず買い替えが必要になった場合には、買い替え費用が問題となる。
また、もし部屋まで浸水して、床や壁、家具やパソコンなどの貴重品が損傷した場合には、その修理費や買い替え費用なども対象となり得る。
布団やパソコンなどの買い替え費用は、新品価格がそのまま認められるわけではなく、使用年数などに応じて価値が下がった後の「時価」が基準となる。
なお、損害賠償には、物が濡れたり壊れたりしたことによる財産的な損害だけでなく、精神的苦痛に対する「慰謝料」が含まれる場合もある。しかし、物が濡れたり壊れたりするなどの「物損」が問題となるケースについては、原則として慰謝料は認められにくい。
もっとも、「被害を受けていると伝えても繰り返し水を流し続ける」など、悪質な行為が繰り返された場合には、特別な事情として慰謝料を請求できる余地もあるという。
また、通常の損害賠償では、被害者側にも落ち度があれば、過失相殺によって賠償額が減額される可能性がある。しかし、通常、ベランダに布団を干していただけの階下の住人に大きな落ち度があるとは考えにくい。
逆に、上階の住人が繰り返し水を流していたり、注意を受けても続けていたりした場合には、加害者側の責任を重くする方向に働く可能性がある。
被害に遭ったら「証拠」を残すのが肝心では、実際に上階のベランダからプールの水をこぼされ、布団や洗濯物を濡らされた場合、被害者はどう対応すればよいのか。
本件のようなケースでは「濡れた原因は、本当に上階のプールの水なのか」「被害はどの程度なのか」といった要素について、後から争いになる可能性が高い。だからこそ、まず被害状況を証拠として残しておくことが有効となる。
証拠はできるだけ早く確保しておくことが望ましい。濡れた布団や洗濯物、水がしたたっている様子、水の跡などを写真や動画で撮影する。撮影日時が分かる形で残しておくことも有効だ。
また、被害を受けた日時や当日の天気、クリーニングの見積書・領収書、買い替えた物のレシートや購入時期が分かる資料なども残しておきたい。
上階の住人とのやり取りについても、日時や内容を記録しておく。口頭だけでなく、メッセージや書面など、後から確認できる形で残しておくとよい。
賃貸住宅であれば管理会社や大家に、分譲マンションであれば管理会社・管理組合に状況を伝えることも有効だ。当事者同士だけで話すより、第三者を介したほうが冷静に話が進みやすく、再発防止にもつながる。
さらに相手方が個人賠償責任保険に加入していれば、保険で損害が補償される可能性もある。火災保険や自動車保険等の特約として付帯しているケースもあるため、相手に確認してもらうのも一つの方法だ。
もし話し合いで解決しない場合には、内容証明郵便で損害賠償を請求するほか、民事調停、少額訴訟、通常の民事訴訟などの手続きを利用することになる。
一方、水をこぼされた被害者側も、怒りに任せて相手の部屋に怒鳴り込むなどの行動は避けたほうがよい。
「後述するように、上階のドアを蹴る、怒鳴り込むといった行為は、かえって自分が加害者になりかねません。
あくまで冷静に、記録と正規の手続きで対応することが、結局は有利に働きます」(雨宮弁護士)
故意の行為は刑罰の対象となる可能性水をこぼして布団や洗濯物を濡らす行為が、刑罰の対象になる可能性はあるのだろうか。
雨宮弁護士によれば、単なる不注意で水をこぼした場合、原則として刑事責任は生じない。
故意に他人の物を壊したり、使えなくしたりする行為を処罰する犯罪として、器物損壊罪(刑法261条)がある。一方、過失によって物を壊した場合を処罰する規定は刑法にはない。
「『排水の際、階下に気をつけていなかった』という程度の不注意で布団を濡らしただけであれば、刑事罰ではなく、民事の損害賠償の問題にとどまるのが原則です」(雨宮弁護士)
逆に、嫌がらせなどの目的で、わざと階下に水を落とし、布団や洗濯物を使えない状態にした場合には、器物損壊罪が成立する可能性がある。物理的に物を壊すだけでなく、水浸しにすることなどによってその物を使えなくする行為も「損壊」に該当するためだ。
器物損壊罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料だ。
また、故意に建物へ浸水させて床や壁などを損傷させた場合には、建造物損壊罪(刑法260条)に問われる可能性もある。法定刑は器物損壊より重く、5年以下の拘禁刑である。
なお、水をかけられた被害者も、怒りに任せて行動してしまうと刑事責任を問われる可能性がある。冒頭で紹介した投稿のように、相手の部屋まで行ってドアを蹴ったり、相手を脅すような言動をしたりすれば、こちらが刑事責任を問われる可能性がある。
具体的には、ドアを蹴ったり叩いたりし過ぎて壊してしまった場合には器物損壊罪、相手を言葉によって脅す行為は脅迫罪(刑法222条)が問題となり得る。脅迫罪の法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金だ。
また、正当な理由なく相手の部屋に入ったり、退去を求められても出ていかなかったりすれば、住居侵入罪・不退去罪(刑法130条)が成立する可能性もある。法定刑は、3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。
「被害者だからといって、何をしても許されるわけではありません。
水をこぼされたことへの怒りから、直接相手に抗議したくなるケースもあるでしょう。しかし、被害を受けた場合こそ、まずは証拠を残して大家や管理会社に相談するなど、冷静に対応することが重要です」(雨宮弁護士)

