井上尚弥は流れで見えない打撃を打ち、拓真は相手にじわじわ効かせる…父が明かす、2人の「強みと課題」

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井上尚弥・拓真の兄弟を世界王者へと育てた父でありトレーナーの真吾氏が、26年間の歩みを振り返る。

拳闘魂 井上尚弥・拓真の闘い』(井上真吾著)では、全日本選手権での痛恨の敗戦から得た教訓や、プロ転向時に尚弥が語った言葉など、忘れがたい試合の裏側を告白。「井上家」の知られざる原点と闘いの真実が語られる。

※本記事は井上真吾『拳闘魂 井上尚弥・拓真の闘い』より抜粋・編集したものです。

拓真の課題

いっぽう、弟の拓真はまだまだです。やはり始めたときの2歳の差はでかい。自分がトレーニングで10何キロかのコースを走っていたときも尚は一緒に走ったけど、拓は自転車でついてくるとかで、走りきったことはないですから。

たしかにスタート時点での差は大きかった。でもいまは関係ないでしょう。でなきゃ、世界チャンピオン(当時、井上拓真はWBC世界バンタム級暫定チャンピオン)にまでなってはいないでしょうから。

ただ、尚は中3のときにはナショナルトレーニングセンターでオリンピック選手の村田諒太選手や清水聡選手と一緒に練習してました。拓にはそのチャンスがなかった。そういった、選手としての成長の節目節目でのチャンスという意味では、たしかに拓にはハンディがあった。だから親としては、本音で言うとほんっと、つらいっす。でも、それが現実なんだからしょうがない。

そこはもう、やるしかない。そこでの忖度はまったくない。現に尚はやってるんだから。だから「お前、尚以上にやれよ!」と自分は発破をかけるだけです。

でも性格もあるんですよー。尚は、自分に性格が似てるんです。向上心があって、ただ単に言われた通りにやるんじゃなく、自分で工夫もするんです。いっぽう拓は、どちらかというとマイペース。ちょっと欲がないところがあって、「ここでもう1歩詰めれば倒せるのに……」というところで行かない、というもどかしさはあります。

同じことを言われても、尚は、「つぎのとき父さんにこう言われるから、ここはこうしてああして」と考えて対応する。同じように教えたからといって同じようになるわけでもなくて……ほんと、いろいろありますよ(苦笑)。

でも対応の仕方には、2人の性格は関係ない。相手の気持ちが今どういうふうになっているかによって、甘く言ったほうがいいのか、厳しく言ったほうがいいのかということはありますが、基本は、そのときに感じたことをそのまま「ばばばばん」です。

でも、「なんでできないんだ!」と怒ることは絶対にない。そんなの自分には考えられない。じゃ、「自分ができんの?」って思いますもん。

仮にできないことがあったとしても、1つ1つ課題をこなしていけばできるようになりますから。みんな壁にはぶつかるんですよ。そんな、何でもうまくゆくわけ、ないですから。その壁にぶち当たったときに、怒ったってしょうがない。

そもそも、「なんでできないんだ!」と怒ったら、やる気なくすじゃないですか。そこは怒るところではないんです。そういうときは、「どうやって言えばわかってもらえるかな」という説明のほうを考えます。

あるいは、できるようにするにはどんな練習をすればいいかを考える。自分がぶきっちょというか、人が2、3回言われれば覚えるところを5、6回言われないと覚えられないタイプだから、できないから怒るとかにはならない。

尚はバンバンKOしてるのに、拓はKOが少ないじゃないか、そう言う人はいるでしょう。たしかに実際そうですから。これまでの試合でも拓のほうが対戦相手より、そうとうに力は上回っていたはずなんです。だからもう少し相手のいやなことをしていれば、KOまで持っていけてたはずなんです。

パンチの威力自体には、あまり変わりはないんです。だから尚に2ラウンドで倒されるより、拓と12ラウンドやったほうがダメージは蓄積されると思います。ただ打つときに拓はムキって力むから、相手が警戒してしまう。すると相手は耐えられる。尚の場合、流れで「スコン!」と行くので見えないパンチになるから相手も「コテン!」ってなるんです。

そこのタイミングを拓には言っているところです。フェイント、フェイント、そして見てないところで、「ポン」っと行く--そのタイミングを習得中です。本人もわかってるんだけど、それでも、つい「ウン」っと力んじゃって、「ばれちゃうじゃん……」となってしまう。

あと、悪い意味で拓は慎重になるんです。ほんとうは瞬間でいいからバカになれるタイミングがないと。むつかしいんですよ、(ため息)だからほんとに。

でも、尚にもそういう時期はあったんです。高校時代のことですが、慎重になりすぎて攻めていかないときが。打たれると「打たれちゃダメだ」と言われる。それで行きたいんだけど、行くと打たれるから……と躊躇する。

だから拓も、「バカになるときは行っちまえ!」というコツがわかってくると、もう一段グレードアップするはずです。

体格も、尚はリーチがあって理にかなっている。拓はリーチがないから、何でも尚と同じようにはできない。それをいい方向に持っていくには、やっぱり何かを工夫しなければダメなんです。

本当は、あるラウンドは猪突猛進して、でも次のラウンドには冷静になったりと、ラウンドごとの山場がほしい。そういうふうに作り上げていくことを、今やっている最中です。その一皮二皮の脱皮がまだできていないのが、なかなかむずかしいところなんですけど。

能力は変わらないんだから、あとは考え方だけなんです。だから自分もいろんな角度からアドバイスして、いつか「ピーン」と、覚醒できるんじゃないかと期待しているところです。だからさっきも言ったように、そこで怒ったらダメなんです。

でも尚も、まだ完成形ではないんです。もっとレベルの高い対戦相手が出てくれば、もっと尚の持っている、いろんな引き出しを開けてくれるはずです。そういう相手が出てくれば、そういう努力をするやつなんで。ようやく尚が自分が思っているようなレベルになってきたかなーというところ。今回のロドリゲスとの試合で、自分でも口に出してそう言ってもいいかなと思いました。もちろん「完成」ということは絶対にあり得ないですが。

どんだけ意識して練習するか、それだけ

対戦相手が決まっても、自分はじっくりビデオを見るようなことはしません。流して見れば何が怖いのか、何に気をつけなければならないのかはわかります。もちろん癖とかはピックアップしますけど、いくらビデオを見ても次の試合ではそのビデオのようにはならないですから。だからかいつまんで頭に残しておくだけです。あとはそれに対して尚がどう動けばいいのかを考える。

基本的に練習は、スパーリングを見て、いいところを伸ばしていく、悪いところを直していく、その繰り返し。

例えばバンタムのタイトルを獲ったジェイミー・マクドネル戦の前であれば、相手が180センチメートル近い長身でしたから、背の高い選手とやって、その上でいいところと悪いところを出してゆく。まあそれくらいで、基本的にはだいたい一緒です。ボクシングの練習って要するに、サンドバッグ打ち、縄跳び、シャドー、スパーリングなんですよ。あとは合宿での走り込みの基礎練習で体力を付ける。そうすれば、自ずとスタミナも付いてくる。

その上で、スパーで、相手が変わったときにいかに反応できるかをやるだけです。むずかしいことはしていない。ただ、中身の濃いことはしていると思うし、そのような自負もありますが。

どんだけ意識をして練習をするか、それだけなんです。

ですから他のボクサーもできると思います。ただ自分はやるまで、やれるまで、けっこうしつこく言いますから。普通に「やっとけよ〜」じゃない。シャドーでも何でも、ずっと練習中は見ています。他の人がやってる練習は、自分に言わせたら自主練みたいなものでしかない。自分には、そうじゃない練習をやっているという自負がある。それが自主練しかやってない選手と同じレベルだったら……そうならないために、もっと上のステージに行くためにやっているんです。

練習中はずっと付きっきりですからマンツーマンで付き合っている時間が他のジムの選手よりも圧倒的に長い。サンドバッグを打っているときでも、他のトレーナーはただ見てるだけなので、「何でここで言ってあげないのかな?」と思うことがありますが、やっぱり言ってあげないですよね。それじゃあ直らないのも当然でしょう。ただそれだけのことなんですよ。自分はいちいち言いますから。悪いところを見つけたら。勝つために。やられないために。

妥協はない。

そんなにいちいち言われたら「おやじ、うるせー」と言われないのかと聞かれたことがありました。でも、それって、自分のためじゃないですか。「うるせー」と思わなかったから今がある。向かっている方向が同じだからできるんです。片方が「やらせている」、もう片方が「やらされている」では、そうはならない。

よく「反抗期」と言いますけど、子どものためを思って言っていることに子どもが反抗してきますか? 伝われば反抗なんてしないと思うんです。反抗するのは伝わってないか、親自身がやるべきことをしてないから。それで子どもは「自分を棚に上げてなにやってんだ」ってなるんじゃないでしょうか。やることやって、背中を見せて、子どものことを思って言っている親に反抗する子どもなんていますか?

本来、反抗期なんて起こらないはずなんです。親子のお互いに矛盾があるから、反抗したり、されたりするんじゃないのって、自分なんかは思います。うちが特殊だから、じゃない。自分の場合、ボクシングだけじゃなく、子どもに対してはプラスになるようにとしか考えていないので。

子どもが親に反抗するのは、親のほうに矛盾だったり、ずるだったり、そういう問題があるからなんだと思うんです。自分も小学生のときから大人嫌いの子どもでした。それがそのまま大人になっただけだから、いまでも矛盾してる大人は嫌いです。だから仕事でもけんかもします。

自分は19歳で独立しました。だから仕事でお付き合いのある方は、みな自分より年上でした。そこでなめられたらダメだし、といって、エバってもダメだし、そういう加減がありました。でも、こちらの思いが伝われば、「あいつがんばってんな」って、仕事を回してもらえるんです。発注元から無理難題が降ってきたとしても、無理なら無理と言えばいいわけで、本当にできないときには断ります。それで「もうお前のところに頼むのはやめるわ」となったら、それはそれでしょうがない。そこまでして仕事を取ろうとは思いません。一生懸命やったら応えてくれるという人としか付き合わない。「仕事やらせてやる」というような横柄な相手だったら「あ、もう結構です」と言いますね。

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